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南充浩 オフィシャルブログ

「伝統の〇〇生地」も開発された当時は機能性素材だったという話

2022年10月25日 素材 5

これだけ機能性素材を使った服を着用していると、もう単なる綿100%とかウール100%とかの服には戻れない。それが分厚くて硬くて重い素材なら尚更着用する気にもならなくなる。

特にそういう重苦しい生地を使った細身の服は絶対にアウトである。体中が鬱血しそうなほど苦しい。

やっぱりストレッチ混のジーンズは穿いていて楽だし、ダウンベストは軽くて暖かい。

ウール100%の重くて分厚いメルトンコートよりも中綿入りのウール生地コートの方が軽くて楽である。

 

これは恐らく、消費者のマス層に共通した嗜好になっているだろうから、ある程度の数量を売りたければそういう機能性素材の使用は不可欠だと見ている。

ワークマンが好評なのは低価格が理由だけではない。低価格なのに機能性が高いからである。あとはデザインとかシルエットとかサイズ感だとかそういうことになるが、その辺りは改良の余地をまだまだ残しているだろう。

 

こういうことを書くと、「本物を愛好する人」とか「本物の生地を製造し続けている人」から反論が来ることがある。それはそれで仕方がない。お互い言論の自由がある。

そして、反論する人の気持ちもわからないではない。当方もそういう不便な本物の生地が好きだからだ。着用したいとは思わないだけで、生地を眺めるのは好きだし、その生地で作られた衣料品を眺めるのも好きである。着用したいとは思わないだけである。

あと、たまに分厚くて硬い綿100%デニム生地の良さを説く人とか、バブアーのオイルドコットンの良さを説く人とかに巡り合うことがある。

その気持ちもわかる。そういう製品を見るのは本当に当方も好きである。ただし着用したいとは思わないというだけのことである。

 

で、つらつら考えたのだが、デニム生地にせよオイルドコットンにせよ、その当時は機能性素材だったのではないかということである。

現代だと「本物の云々」とか「伝統の云々」とか言われているが、作り始められた時代にそんなことが意識されていたとは到底思えない。

その当時に存在する材質だけで機能性を追求した結果として生産されるようになったということではないか。

 

そもそもジーンズは炭鉱夫向けの作業ズボンから発展している。

要はワーキングユニフォームであり、現在、自重堂やジーベックなどが作っている服と同じである。その当時は機能性ポリエステルなんていう合成繊維はなかったから、頑丈さを追求した結果、分厚い綿織物に行き着いただけであり、インディゴ染料による染色もオシャレ云々というよりは虫よけ機能を期待してのことだったとされている。

現在なら耐久性のある機能性合繊に虫よけ加工を施したワーキングユニフォームといえるだろう。当方ならそこにストレッチ性と吸水速乾性を付け加えてほしいところである。

 

オイルドコットンも同様にいわゆるレインコート的な機能を期待されていた。防水素材なんて存在しないから綿布に水をはじくようにオイルを塗布したわけである。

日本でも水をはじくように柿渋を塗ったりしていた。

現在なら防水性のあるコートとか防水透湿性のあるゴアテックス使いのコートで事足りてしまう。防水性だけでよければユニクロのブロックテックやワークマンのイージスシリーズでも十分である。以前も書いたが、2018年に台風の大雨の中、出歩いてもブロックテックコートは内側に浸水しなかったほどである。いっそのことバブアーもゴアテックス使いに切り替えてはどうかとすら思っている。

 

全ての素材がそうであるは思わない。特にフォーマルウェアに使われるような素材はそうでもないだろうが、特にワーキング、ミリタリー、スポーツに起源を持つ衣料品に使われている素材はすべてその当時の機能性素材だったといえる。

ワーキング、ミリタリー、スポーツは激しく体を動かし汗を大量にかく活動であるため、衣料品に機能性は必要不可欠となる。逆に機能性の全くない衣料品を着てこの分野で活動するのは自殺行為にも等しい。

 

以前、マッキントッシュ(三陽商会のライセンス生産ではない方)のゴム引きコートを愛用している人のブログを拝読したことがある。そのブログでは「不便で着用回数も少ないが愛着があって毎年何回か着用し続けている」と正直に書かれてあった。

読むと「透湿性が無いから梅雨時以降は暑くて蒸れるし、すぐに袖口は皮脂で変色するし、ゴムは剝がれやすく定期的な修理が必要となり修理費用も高い」と書かれてあった。

当方なら耐えられないが、愛好家というのはそんなもんだろう。それが服であるだけで、刀剣だってなんだってわけのわからない補修や修理は必要になり、その費用は恐ろしく高い。

当方が高いガンプラを買うのと、不便極まりないマッキントッシュのコートを維持し続けるというのは、道楽という点においては同じである。

この服を着用し維持し続けるのは完全なる道楽だといえる。

 

しかし、このゴム引き生地も開発された当時は機能性を目的とされていた。だが、現在だと防水透湿性を重視したいならゴアテックスを使えばいいし、防水機能だけならユニクロのブロックテックあたりで事足りてしまう。

 

何が言いたいのかというと「本物の〇〇素材」を完全否定する気はないし、生産自体をやめてしまえとも思わない。ただ、これは少数の愛好家とかマニア向けと割り切って生産した方がよいのではないかと思っている。縫製にせよ生地にせよ、ある程度の生産ロット数は必要で、1枚から縫います・1メートルから織りますというのは現在の機械設備ではあり得ない。ある程度の生産ロット数が欲しいのであればマス向けの需要を取り込まねばならない。

「本物の〇〇素材」ではマスを取り込むことは相当に難しい。マスに売りたいのならある程度の機能性を持った生地が適切だろう。

現在では「本物の〇〇」になっている生地の多くでさえ、開発された当時は機能性素材だったということを考えると、とかく「本物の〇〇」にコダワリがちな国内生地製造業者は、機能性を付加した生地にアップデートした方がよいのではないかと思っている。特にある程度の生産ロット数が欲しければそちらに移行すべきではないか。「本物の〇〇」はマニア向けに細々と生産し続ければそれでいいのではないかと思う。

 

 

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 comment
  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/10/26(水) 9:01 AM

    「伝統素材・伝統デザイン」が売り物の会社が

    「新素材・伝統デザインそのまま」

    の新商品を出すのはほぼ無理です

    伝統素材は65/35のように化繊が入っていても
    必ず綿もしくは毛が入っています。しかも厚手

    したがって独特のハリ・独特の質感がある

    この質感を化繊100%で再現するのが難しい

    加えて縫製の問題があります

    化繊100%は強度はあるけど薄いので
    厚手綿混の時の縫製仕様書を
    大幅に変更しなければなりません

    さらに副資材も変えなければいけません

    したがってゼロからデザインも縫製仕様も
    スタートさせたほうが手間がかからない

    モデルガンの世界で「鉄のような質感のプラ」
    が導入されて話題になりましたが
    この素材は仕上げも鉄と同じ方法が使えます

    こんな感じで、厚手の綿混素材と同じ資材で
    縫える・同じ副資材が使える化繊があれば
    いいんですがね・・・

    ただ化繊は厚く織ると綿もビックリな重さに
    なるからな・・・

    アクア・シェラと綿混デザインが続いたのを
    ひっくり返したのは、かのノースフェイスです

    あの黒地で補強が入ったデザインは化繊100%を
    前提にして、ゼロからデザイン・縫製仕様書を考えた
    革命的な存在でした

    ただ、20世紀の商品は、タウンユースするには
    化繊の機能・質感が追いつかない

    ここ10年で本当に使いやすくなって
    その結果、大ヒットです

  • とおりすがりのオッサン より: 2022/10/26(水) 12:56 PM

    鉄のようなプラスチック、エンジニアリングプラスチックの一種で、亜鉛合金とかを樹脂に混ぜ込んでる通称ヘビーウェイト樹脂というやつですね。
    サンドペーパーで磨いて金属の黒染め剤で染めるとまるで鉄のような見た目になるし、プラスチックよりも重くて触ると冷たい感じまでするという。ま、普通のプラより脆いから強度は低いんですがw
    天然素材は何でもかんでも高額希少になっていってるから、ヘビーウェイト樹脂みたいに本物より本物っぽい革とかカシミヤとか作れないものですかね~。

  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/10/26(水) 2:38 PM

    >本物よりさらに本物っぽい革とかカシミヤ

    いずれも存在します

    革はアルカンタラ-エクセーヌが日光にさらされる
    自動車の内装で定番中の定番

    カシミヤは近年流行中の「マシュマロタッチ」なニット
    がそれにあたります

    えー・ただ、耐久性や価格をクリアできると
    さらに贅沢な欲求が出てきます

    「天然素材らしい色味」なんですよ

    この手のフェイク素材はやはりユニクロの色になります

    ニット1枚ウニクロで買えば3ぜんえんなのに
    天然素材にペールカラーを乗っける技術に
    あと3万5万払っているようなものです

    もちろん強度・扱いやすさはウニクロのほうが上です

    ただ「風味」「色合い」がね・・・
    加えて今では街中疑似カシミアカラーの人だらけですから

    むか~し・50年ぐらい前のセーターは
    えらく色が濃かったでしょう?

    今ではああいう色味のほうが天然素材らしくていいかな

    ペールカラー=ウニクロ
    アースカラー=無印

    と2大低価格アパレルの好みの色ですから

  • BOCONON より: 2022/11/05(土) 9:47 AM

    ブルージーンズだってもともと「丈夫でガラガラ蛇よけにもなる作業ズボン」だったわけですからね。
    言うほど丈夫な生地とは思えないし,染料の “インディゴが蛇よけになる” というのもいくぶん眉唾な気もしますがw

    チノパンだって分厚いダッフルコートだって,メルトンの重たいピーコートだって軍隊や漁師の・・・いや,スーツだって歴史を遡れば「ヨーロッパの百姓の野良着」(うちも割と最近まで農家だったので別に差別しているのではない)だったって言うし。

  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/11/08(火) 9:27 AM

    実はダッフルやピーコート、マッキーノ・コートでは

    「新素材・伝統デザインそのまま」が成功しました

    旧素材はミリングをかけまくったウールもしくは
    超厚手のギャバなので、重くて閉口したものです

    その後カシミア混の生地やダブルフェイス物が
    出てきますが、これは趣味の贅沢着

    でもVAN健在の70年代には飛ぶように売れました

    そして30年前ぐらいかな?

    ナイロン混の服地が出てきます。化繊を入れる
    目的は、もちろん軽量化と耐久性向上です

    この新技術の服地のおかげでダッフルとPコートは
    見事に息を吹き返しました

    バブル前~95年あたりまで、DCブランドから
    果てはスクールユニフォームまで
    あらゆる会社がコレクションに入れていました

    その裏には

    「扱いやすくなった
     厚手だが軽量の化繊混ウールコート服地」

    があったからにほかなりません

    残念ながら、時代が下がると
    冬場の服地に
    厚手ウール特有のあたたかな風合が
    求められなくなりました

    実用一辺倒の時代だという事でしょうなぁ

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