
スポーツブランド・アウトドアブランド人気がマス層に機能性素材の利便性を広めた
2022年10月19日 素材 2
あまり意識されていないと思うが、スエットプルパーカが地味に復活したことはちょっと驚きだった。
何を言っているのかわからないという方もおられるかもしれないが、頭被りのスエットパーカというアイテムは一時期ほとんどカジュアル店から姿を消していた。
当方が大学生時代、今から30年くらい前は定番アイテムだったが、2000年ぐらいから突如として急速に姿を消し始めた。その理由はわからない。
スエットパーカというアイテム自体が忌避されたわけでは決してない。なぜなら、ジッパーでの前開きのスエットパーカは依然として定番アイテムとして各カジュアル店で並び続けていたからだ。
そんなわけで、当方もすっかりとスエットプルパーカの存在を忘れ去っていた。
復活し始めたのは2010年代半ば頃からだった。消え去ってからだいたい15年後くらいである。
15年間ほぼ消えていたアイテムだから、当時の10代後半~30代前半にかけての若い世代には新鮮に映ったのだろう。そこから爆発的に復活を遂げ、今では「ずっと定番品でしたけど?」みたいな顔をして各店舗に並んでいる。
少し回顧してみると、2018年初頭か2019年初頭に古着好きでもあるマサ佐藤氏と「そういえばスエットプルパーカは15年間くらい店頭から消えてたよね」という話をしたことを思い出す。
さて、そんなスエットプルパーカだが、この5年間くらいで当方のタンスにもめっきりと手持ちが増えてしまった。オーバーサイズのダウンジャケットのインナーとしてはかなり便利なのである。
丸首やV首のセーター類やトレーナー類の上からダウンジャケットを羽織ると、首からの皮脂をモロに受けてしまい襟裏に汚れの首輪が出来てしまう。黒、濃紺あたりだと目立たないが明るい色や淡色ダウンは要注意である。しかし、スエットプルパーカの上から羽織るとフードがあるため、ダウンジャケットの襟裏と首は直接触れ合わない。よって汚れの首輪も出来ない。
そんなわけで何となく便利なのでついつい毎年2枚~3枚買ってしまい、今では10枚くらいタンスに収まっている。
で、業界のベテランとなると、スエットというと綿100%の裏毛素材ということになる。裏毛素材の作り方にもいろいろと深い蘊蓄があるがめんどくさいので省略する。原則として目付は軽い物よりも重い物の方が玄人受けする。特に95年からのビンテージジーンズブームの頃にはスエットもそのような裏毛素材が好まれた。
丸首のスエット(いわゆるトレーナーというやつ)はジャケットインに着るには不便であるだけでなく、丸首セーターに比べるとオッサンやジジイの老けた汚らしい顔には似合いにくいという難点もあるため、当方は今でも所有していない。そんなわけでスエットプルパーカを所有するようになってから本格的に綿100%裏毛素材と付き合いだしたのだが、低価格ゾーンの中ではユニクロUのスエットプルパーカの裏毛生地が最も目付が重くて密度が高かった。恐らく、生地的には相当に良い物だろうと考えられるが、洗濯をすると逆に最も不便だった。
分厚いスエットなんて着られるのは晩秋以降の寒い時期だから、洗濯して干してもなかなか乾かない。
そんな中2010年代後半になると合繊の塊であるダンボールニット使いのプルパーカが各ブランドから発売されるようになる。こちらは綿裏毛独特のビンテージ感やカジュアル感はない代わりにツルッとした表面感でスポーツ感や近未来的なモード感がある。
ビンテージブームの洗礼を受けたオッサンたる当方は最初はダンボールニットパーカを馬鹿にしていた。しかし、値下がり品を試しに買ってみると、軽量である上に洗濯して干してもすぐに乾くので、ユニクロUの重い綿100%スエットパーカよりも便利であることを痛感した。
感性としては綿100%のド詰めで重い裏毛スエットを好んでいるが、実際に着用して洗濯して日々生活することを考えるとダンボールニット(ユニクロやワークマンなどではダブルフェイスと表記されている)パーカを選ばざるを得ないというふうに考えるようになっている。
何が言いたいのかというと、業界的には綿100%の重い裏毛素材が良品だとされるが、実際に着用し洗濯することを考えると合繊100%のダンボールニットの方が利便性が高いため、利便性を選ぶ消費者が増えるのは仕方がないということである。そして、業界的に良品だと位置づけられる綿100%裏毛は消費者にとっては「良品とされる理由がわからない」という代物となってしまっているということである。
前回はデニム生地を、今回は裏毛素材を例に挙げてみたが、この2素材に限らず、多くの「価値あるとされている」天然素材は、消費者にとっては麻にしろシルクにしろウールにしろ同様なのではないかと強く感じている。
その原因は何か?日本人の心に余裕が無くなっているとかそんな「お気持ちマンセー的」なことはどうでもいい。最大の原因は、2000年以降、息長く続いているスポーツウェアブランドブームとアウトドアブランドブームに依るところが大きいだろう。
ストレッチ素材、吸水速乾素材、吸湿発熱素材、防水透湿素材、軽量素材などすべての機能性素材はスポーツブランドとアウトドアブランドから取り入れが始まっており、それらをブームに乗ったマス層が日常生活で使うようになったため、機能性素材の利便性が周知・体感された。また、機能性素材のアイテムは効果・効能を実感できやすい。一方、従来型の上質素材はたしかに触感や表面感に対してその良さは理解できるが、着用したときに効能を実感することは少ない。そうなると、マス層にとってどちらが良い商品と感じられるかは火を見るよりも明らかだろうう。
そして、機能性素材商品なら効能がハッキリ実感できるため「少々高くてもその価値がある」と捉えられやすい。だからノースフェイスやモンベル、ナイキなどの人気アウトドアブランド、人気スポーツブランドの商品は少々高くても買おうとする人が多いと考えられる。
そしてその機能性素材(機能性の高低はあるが)を上手く使って支持を伸ばしているのがワークマンであり、ユニクロやジーユーの一部の商品といえる。
今後、従来型の上質素材がマス層からの支持や憧れを取り戻すことがあるのかというと、当方はそれは無いだろうと考えている。需要はゼロにはならないが、よほどのファッション愛好家かファッションマニアだけの需要にとどまるだろう。今後、マス層の機能性衣料品の需要は高まり続けると当方は見ている。
そんなことをつらつらと考えながらワークマンで税込み1500円のダンボールニットのビッグシルエットフーディーをついつい買ってしまった。
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南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/10/20(木) 9:32 AM
化繊セーターを40年前から愛用しています
物はずっとゴールドウィン-ノースフェイスつくづく思うのは、技術の進歩です
87年頃の物は毛玉がひどくて
黒地にシラミが沸いたふうになりました98年の物は毛玉はできないものの
繊維の抜落ちがひどく、ところどころ網戸にところが、この内容でオネダン1万以上です!
ネット洗い指定なので怖くて洗濯機にかけられません
つまりウールのセーターと同じケアが必要だった訳ですいっぽう、2022年物は、作りすぎて投売りのせいもあり
3000円程度。しかも毛玉もできない・繊維の抜けもない
洗濯機で乱暴に脱水OKで、2時間で乾きます直近のノースフェイス大流行まで、アウトドアブームが
数回ありましたが、過去のブームでは、化繊の技術が
追い付いていない上、値段が高かった今回のブームでは、実売で5千円しない商品が
たくさんあって、機能は歴代とは段違いです加えてウニクロの影響で色だしが上手くなった
さっこんの売上爆増の裏には
しっかりとした理由・根拠があります20世紀のブームのときのように
「流行っているから売れた」という分析が
当てはまる商品は、存在しないと思います今売っている化繊セーターは3000円なのに
洗濯機洗いで毎日着用しても
5年いけそうですね素晴らしい技術の進歩です
しかも色味やシルエットが練れてるから
売れてあたり前だと思いますさらに3000円なら気楽に試せますしね
アウトドア系,スポーツものばやりのせいももちろんあるのでしょうが――
スエット・パーカは MB 尊師の「黒スキニーに白T着てグレーの霜降り(ジップアップ)スエット・パーカ羽織れば誰でもおしゃれ」って御託宣に乗っかった人が多くて急に売れるようになったようですね(このアドヴァイスは「なぜならモノトーンは合わせやすいのでオシャレ初心者でも入りやすいから」と言えばまあ正しかったのだけれど,「黒スキニーはカジュアルでもありドレス(ドレッシーの意ならん)でもあるからオシャレに見えるのです」とヘンな理屈をつけたせいで黒スキニーが下火になったら皆わけ分からなくて結局大して役に立たなかった模様)。
で,むかしよく歌謡曲で一曲当てた歌手が2曲目おんなじような曲出してたようなアンバイで,アパレル業界は「パーカはパーカでも今はジップアップよりプルオーバーがオシャレ!」と根拠不明なキャンペーンやってはやらそうとしたのがプルオーバーが増えた一つの大きな理由だと思われます。しかしそんな違いを気にする人は大していないから,GAP その他のロゴ入りプルオーバー・パーカもあちこちで売ってるのは見るけどあんまり着ている男もおらず「残念でしたw」という結果になっている
・・・とまあ,これは僕の単なる印象論だし,別にプルオーバー・パーカが嫌いな訳でもないので「妄説お笑ひ下さい」といったところであります。