マス層が機能性素材を使った衣料品を好む傾向は今後も覆らないだろう
2022年10月18日 素材 7
先日「1日に50メートルしか織れないデニム生地を使って云々」というブランドの記事がウェブメディアに掲載されていた。
単純に「もっとたくさん織れよ」と思ったのだが、いわゆるお高いブランドなので、商品の価値と生地の希少性をアピールする施策であり、むしろこの手のブランドとしては正攻法といえる。
だが、52歳のジジイからすると「この施策で買いたくなるような消費者は少なくなっているのではないか」という懸念しかなかった。
なるほど、90年代半ばのビンテージジーンズブームのころなら、この施策はかなり効果があっただろう。だが今のマス消費者には全く響かないだろうと感じる。当方も含めた今のマス消費者にとって響くのは「1日に50メートルしか織れない云々」という生地よりも機能性生地である。ストレッチ性だとか軽量だとか吸水速乾だとか、防風、発熱、防水透湿、防シワとかその手の機能性である。
なぜ、そう思うのかというと当方の嗜好がそのようになってしまっているからだ。1日に50メートルしか織れないとかいうそこまで希少性の高いデニム生地で作られた服は着たことがないが、それでもそこそこに手の込んだデニム生地で作られたジーンズをこの30年間ではデイリーに着用してみたこともあった。
だが、その結論としては
「たしかに手の込んだ生地であることはわかるが、着用してみても特別に気持ちいいとかそういう感想はない。機能的に優れているともいえない」
である。お分かりいただけるだろうか?
これは何もデニム生地に限ったことではなく、ウール生地のスーツやジャケット類でも同様だし、ウールのセーターでも同様だ。また綿のTシャツでも同様である。
一応、この業界で30年も仕事をしていると手の込んだ生地かどうかは何となくわかるようになる。しかし、手の込んだ生地の服を着用してみても、特別にこれまでと違った気持ちよさとなんていうものは感じられない。機能性は無い物が多く、逆に洗濯や補完などメンテナンスがめんどくさい。
以前、某プラダと同じデニム生地を使ったというサンプルのジーンズというものをいただいたことがあった。このデニム生地はビンテージ系で、たしかにその表面感や厚さは希少性の高い物だと感じられたが、実際に着用してみると分厚くて動きにくい。洗濯をすると逆に生地が硬くなってしまって、これを馴染ませるのは相当に時間がかかることは明白だった。
マニア的洋服好き・生地好きな人ならば長時間をかけて馴染ませて行くのだろうが、当方にそんな堪え性はない。柔軟剤をたっぷりぶち込んで少し柔らかくしてやったが、それでも動きにくくてめんどくさいので穿かなくなり、タンスの奥底に眠ったままとなっている。
逆に、ユニクロやジーユー、ライトオンなどで買ったストレッチ混ジーンズはその動きやすさから毎日のように穿いている。
ジーンズのことを書いているとジーンズのことだけと捉えられてしまうかもしれないが、先ほども書いたようにウールでも綿でもすべてそうである。
昔、バーゲンで値下がりして5万円くらいのウールのスーツを買っていたが、ハッキリいうと手入れがめんどくさい。最近はユニクロでウールに見える合繊の感動ジャケットとか感動パンツを買っているが、そちらの方が手入れがめんどくさくなて便利である。
商品の見た目が明らかにかっこ悪ければそんな物は買わないが、テイラードマニアでない限りわからない程度だし、ビジカジ風に着用するなら問題はない。そしてストレッチ性がありメンテナンスも楽ならこちらの方が使い勝手がいい。
Tシャツ、ポロシャツだってそうだ。
ナンタラ綿の手の込んだ生地は確かに惹かれるものがある。だが、汗っかきの当方としては不快感があり使い勝手が悪い。特に真夏は吸水速乾生地の方がありがたい。
20年前の吸水速乾生地のTシャツ・ポロシャツ類は、カジュアルというよりもスポーツ競技のユニフォーム的な表面感があった。練習の行き帰りではないので、そんな物をデイリーカジュアルとして着ることには大いに抵抗があった。
しかし、今はいろいろと技術も進歩してそこまでユニフォーム的な表面感の物は少なくなった。
そうなると、圧倒的に吸水速乾生地のTシャツ・ポロシャツの方が使い勝手が良い。
もちろん、一応は業界に関わっている人間なので、手の込んだ生地の価値は理解している。それでも自分がそれを好んで使うかというとめんどくさいから嫌である。
20年前のように機能性素材の見た目がいかにもスポーツチックなら着用しなかったが、今ではほとんど見分けがつかない物が多い。見た目でわからないのなら機能性素材を使った方が快適だし、めんどくさくない。
当方はそのように考えており、恐らくはマス層もそのように考えているだろう。
ここに繊維業界人や業界メディア人とマス層の乖離が生まれる。
業界人、とりわけ製造加工業関係者はそれが本職だから手の込んだ生地を好む人が多い。だが、その好みはいわゆる超玄人好みであり、ど素人が多いマス層には理解されにくい。啓蒙活動が不要だと言っているわけではないが、実際に日々着用して洗濯してメンテナンスする生活者としてのマス層は、生地の価値を理解したところで購入品を変えないだろう。
スポーツブランドブーム、アウトドアブームも機能性衣料品のマス化を後押ししたところも大きくデイリーユース化と体感機会の増加につながったといえる。
実際に着用してみて一度快適さを味わってみれば、元に戻ることは難しい。
手の込んだ生地を使った衣料品にマス層が再注目することは今後もほぼ無いと考えた方が良いだろう。もちろん、製造する技術継承は必要だからそれはそれとして継承し、マニア層に向けて売ることを考え、マス層には機能性素材で対応するのが最も現実的といえるだろう。
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BOCONON より: 2022/10/18(火) 11:38 AM
スーツについて言えば,むかしは安物のスーツは色とか生地の質感がいかにも安っぽいので一目見れば分かったし,今でもある程度見る目のある人ならおおよそは分かると思います。昔と違うのは化学繊維でも一見ウールに見えるようなものが探せば見つかるようになった事。別に宣伝でも自慢でもないが,たとえば僕が着ている夏物の MACKINTOSH PHILOSOPHY の紺ブレザーなどは初めて見た時はてっきりウールだと思った。その上買ってしばらく着ていて少し汗が沁みた頃合いに「そう言や “家で洗える” って触れ込みだったな」と思って洗濯機でざっと水洗いしてみたら(うちはそれ用の二層式もあるのです)ちょっとシワになって慌てたけど,干したらほぼ元通りになった。
今どきダッフルコートやピーコートを着るオジサンは「昔通りの分厚いメルトンのものじゃなきゃ承知せん」て人が多いらしいけど,僕はもうあんな重たいものを着るのはイヤだな。スーツ等が化学繊維でもある程度高級感があって,洗えて,防虫剤(洋服箪笥が4つもあると毎年ばかにならない金額になる)も不要,あまつさえ今はイタリア風の柔らかく軽い作りで着ていて楽なものが多い…となると,サイズが合えば僕もどうしてもそういうのを選んでしまいますね。お若い人ならなおさら「セットアップスーツでたくさん」でしょう。とは言えストレッチ素材はスーツやテイラードジャケットの場合型崩れする惧れがあるから僕ならイヤだけど,お若い人たちは「どうせ安いんだし,事実上流行り物しか選択肢がないんだからそんなに長く着られなくてもOK」なのだと想像します。これはジーンズなどカジュアルでも同じですね。
お若くない男女でもまだ真っ黒いスーツなんて(本当は堅気の人間が仕事の時着るようなものではないものを)着ている人は多くて,しかも一年中夏物みたいな生地だったりするから,あれだと良いウールの生地なんて使っては MOTTAINAI ようなものだ ...
かくして以前のコメントで僕は「スーツの時代は終わりの始まりを迎えているようだ」と書いたけれど,洋服全体が静かに,しかし根本的に変革期を迎えている感じがする。と言うのは,ZARA や H&M で売っているような服はこれ以上伸びしろはないと思うし,ユニクロはまだ長く着られそうなものも多いけれど,全体としては「良いものを長く着る」という人はたぶん減る一方で,流行り物の服を使い捨て的に着る時代に突入しつつある,という意味で。それがメンズ服であっても。
「良いものを長く着る」なんて事は,ある程度洋服にお金つぎ込んで経験も積んで洋服見る目が出来ている人でないと「そもそも何が長く着られる服かなんて分からない」ので無理ですからね・・・。 -
BOCONON より: 2022/10/18(火) 12:05 PM
ところで最近ユニクロはメリノウールを使ったニット等を CM で推しているようですね。確かに40年くらい前はメリノ種の羊はスペイン国内から持ち出し禁止だったようだけれど,もう30年以上前からオーストラリア産が出まわっていてメリノウールなんて珍しくもない…と僕などは思っていました。「カシミヤやビクーニャじゃあるまいし,多少高級感はあっても所詮ウールだしなあ」てなもんで。
それゆえお若い人たちが「え,メリノウールのセーター? そりゃ是非欲しい!」なんて思うものだろうか,そもそもメリノウールって何だか知っているのか,僕ははなはだ疑問に思うものであります。豆知識:「メンドくせえ奴」と言われるのを承知で言えば,げんみつには獣毛を使った素材は羊毛でもアンゴラでもカシミアでも総称としては「ウール」であります。”フリース” と言うのは本当は羊毛のこと。
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南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/10/18(火) 12:36 PM
「凝った服地を使ったネダンが高い服」に
興味のある人が指数関数的に減少していますここまで減ると、ひと巻60mすら消化できない
レベルでは?という次元で減ってます「所得が高い≒高い服に興味がある」という等式が
成立する年代は、2022年現在、下限が70代ですそう、ご隠居な世代です
現役世代で稼いでいる層は、ホント無頓着だし、
むしろ「今どき服にカネかけるなんてダサい」
と思っている人が多いそしてそのアダ花がUAのスーツで裁判に臨んだ
ホリエモン。もっとも彼もすでにアラフィフ・・・そして、マニア層が滅亡寸前状態の今、
ちょうど良い商売がオーダースーツですけど滅亡寸前の人数しかいないから
極小の売上にしかなる訳ないのにね・・・無店舗な樫山の出張テーラーなぞは
経費の関係で店舗がもてない業態を見通した
商売なのかな?と思ってしまいます超小ロット対応という点では
日本が半世紀かけてシステムを完成させた
ゲージ服ベースのオーダーが究極の完成度ですが・・・
スーツやJKTを必要とする人が
ここまで減ってしまうとね・・・裏地では物がすでにありますが、そのうち
「当店はポリ・レーヨン・ナイロン混服地
専門のイージーオーダースーツ店です!」なんてのが出るかもしれません
化繊が入ってるとストライプはとりわけ
くっきりでるから、案外売れるかも -
南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/10/18(火) 12:55 PM
B氏>てめいらそもそもメリノウールしってんのか?
それ以前に「ウールとは・メェ~と鳴くひつじの毛だ」
としっている人が今では少ないですしたがって、ウールの前置きに、
・シェトランドとかアイリッシュとか
・スコットランドとかメリノなどとと書いても100%無駄です
もちろんあの不思議なウールマ~クなぞ
高級品の証とは思う若者はいませんところが不思議なもので、婦人の巻物由来で
カシミアだけはいまだに知名度がある「カシミヤ=値段が高い・肌さわりが良い」
という構図をしっかり摺りこむシステムが
できておりますただ、これもアパレルというより
小物界隈の流れです服地でカシミアと言われても
「はぁ?」な女性が大半でしょう韓国あたりで開発された無名の化繊を拾ってきて
カコイイ商品名つけて高級品化するプロゼクトでも
立上げますかwネーミングは「カシミ・ヤ~ン」としようwww
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とおりすがりのオッサン より: 2022/10/18(火) 2:53 PM
前にも書きましたが、ホリエモンと同い年の私ですが、ホリエモンと違って裁判(民事被告)に出るために数年前に安いオーダースーツ作りましたw
それまでオーダースーツとか服全般に興味なかったですが、スーツとかは調べるとオタク的に色々面白いのでハマりました。それ以降年に数回ですが、カジュアル用にジャケットとかコットンスーツとかオーダーしてたりします。
なので、服に興味ない層でも掘り起こしは不可能ではないんじゃないですかね?ビキューナとかは流石に一般人には無理ですが、カシミヤのコートくらいならいつか作ってみたいとは思ってます。
来世はビキューナのコート着られるようになりたいなぁw(・∀・) -
BOCONON より: 2022/10/18(火) 3:44 PM
ナニ,カシミヤなんて今では中国産の安いのが入って来るので,スーパーでもたまにカシミヤのコート売ってたりするからそんなに敷居の高いもんじゃないです。
と言ってもあまりに安いカシミヤコートは生地をケチっていて丈が短かったりするので決してオススメはしませんがw
高級生地、高級服のゼニアでもジャージ素材売ってるくらいですからね。
テーラードジャケット型でもジャージ素材とかで伸縮性あるやつが、結構お高いブランドでも出ていますね。10万円のニットジャケットとかも見ますが、来世ではそういうのを買えるような身分になりたいです(´・ω・`)