MENU

南充浩 オフィシャルブログ

タカキューの債務超過拡大で振り返るアパレルブランドの盛者必衰

2022年10月7日 回顧 4

52歳にもなると、業界の中でも年長者になってしまっていて、年下の人間とのやり取りや商談が増える。

30歳当時に52歳と聞くと、もう死にかけたようなジジイくらいしか想像できなかったが、今の若い人たちからすると、自分が死にかけたようなジジイに見えているのだろうと思う。

交流のある年下の人たちの福祉精神が旺盛なのか、幸いにしてまだ普通に意思疎通がこなせる場合が多いが、よくよく話してみると、当方の体感では30代と20代ではアパレル業界やアパレルブランドに対する認識がけっこう異なっている。

30代後半より上の世代は当方に近い感覚で、30代前半より下の世代は全く違う。

先日も20代半ばの青年と話す機会が続いたのだが、ファッション好きな人はラグジュアリーとかデザイナーズブランド、欧米のトラディショナルブランドに目が向いている。ファッションにさほど興味がない人はだいたいがユニクロ、ジーユーくらいしか認識していない。

また、別のアパレル企業の同年代の方と話していると、消費動向は高額なラグジュアリーブランドか、ユニクロ・ジーユーなどの低価格ブランドの二極化が進んでいるという。

消費の二極化はそれこそ90年代後半から言われていたことだが、近年はますますその傾向が強まっているように感じられる。

商品単価3万円くらいの百貨店に並んでいたようなブランドが軒並み存在感を失っていると感じられ、特にメンズブランドでは存在感どころか、存在そのものが無くなってしまったものも多い。

辛うじて、その辺りの消費者を吸収できているのが大手セレクトショップということになるだろう。

 

当方が衣料品に興味を持ち始めたのは、仕事を開始した90年代前半からである。その当時はまだラグジュアリーブームもそれほど大きなものではなかったし、ブランドによってはリニューアルされておらず、古色蒼然とした年寄り向けブランドという認識も強かった。

そのため、ジャスコやダイエー、イズミヤの低価格衣料品では満足できない層が買うのはまだ勢いが残っていたDCブランドの系譜ということになってしまう。

ジュンメン、ドモン、コムサ・デ・モード、ニコルクラブフォーメン、メンズビギ、メンズメルローズ、Rニューボールド、PPFM、アバハウス、アトリエサブなど

というラインナップである。

このうち、もう無くなってしまったブランドも多い。ジュンメン、ドモン、Rニューボールド、アトリエサブなどはそうで、残っているブランドも往年の面影は全くない。

今の当方を知っている人からすると信じられないかもしれないが、当時はこれらのブランドを夏冬のバーゲンで買い漁っていた。だいたい半額くらいに下がるが、それでも最低でも中軽衣料で5000円、重衣料は2万円前後である。今の当方の衣料品購入金額は月額で2万円弱だから、重衣料1着分のも足りないほどである。

よく金のやりくりができていたなと、我ながら不思議で仕方がない。どうやっていたのだろうか。

 

さて、98年からユニクロのフリースブームが全国規模で起きるわけだが、2001年・2002年にその反動で大きく業績を傾けながらも乗り切ると2004年から「ファッション化」に取り組み始めて今に至るわけだが、大きかったのは2009年に世界的デザイナーのジル・サンダー氏とコラボ契約できて+Jを発売したことだろう。一気にユニクロ=ファッションという見方をする消費者が増えた。

80年代後半から90年代半ばに隆盛を誇ったDC系ブランドの多くは消滅したり、残っていても存在感を示せていないものが多い中、ユニクロは98年以降25年近く存在感を日本国内で示し続けているのは業界としては異例といえるのではないかと思っている。

 

タカキュー、最終赤字7億1300万円 3~8月: 日本経済新聞 (nikkei.com)

紳士服専門店のタカキューが5日発表した2022年3~8月期の単独決算は、最終損益が7億1300万円の赤字(前年同期は12億円の赤字)だった。新型コロナウイルスの感染再拡大で販売の回復が鈍かった。8月末の債務超過額は15億円と、2月末(8億7600万円)から拡大した。

売上高は前年同期比5%増の57億円、営業損益は7億2400万円の赤字(前年同期は12億円の赤字)だった。従業員の労働時間を減らして人件費を削減したが、補えなかった。

 

とのニュースを見かけた。債務超過が2倍弱に膨れ上がっている点もかなりヤバイが、コスト削減案も人件費を削ることしかないという点もかなりヤバイ。

タカキューというと、当方が衣料品に興味を持ち始めた90年代前半にはすでに今と同様に「中途半端なブランド」という認識だった。ユニクロほど安くもないし、DC系ほど高くもない。商品デザインもユニクロほどベーシックでもないし、DC系ほど意匠性があるわけでもない。そんなブランドで一体だれをターゲットとしているのかよくわからないブランドだった。

90年代前半以降の当方の目には有象無象のブランドの一つとしか映っていなかった。

しかし、2000年代に入ってからのことだったと記憶しているが、何かのファッション雑誌で「昔、タカキューは超イケているブランド店だった」という記事を読んで衝撃を受けた。

70年代から80年にかけてのころは、タカキューは「御三家」と呼ばれるほどにファッション性の高い人気店だったというのである。1970年生まれの当方なので全く当時のタカキューには興味もないから記憶もないが、たったの15年間でこれほどブランドへの消費者の評価が変化するのかと驚いたものだった。まさに盛者必衰である。

 

2022年現在、このタカキューに近い変化を遂げたのは、既存ブランドの中ではコムサ・デ・モードではないかと思って眺めている。

DC系が90年代半ば以降、軒並み衰退していくのを尻目にどんどん出店数を増やしていた。コムサイズムで低価格路線に乗り出したが、2000年代後半くらいから諦めたのかコムサイズムの商品価格が安くなくなってしまい、当方からすると「本体と何が違うの?」というブランドになり下がり一気に市場でも存在感を喪失させたと見えている。

2010年代に突入すると、コムサシリーズの店舗数も減り始め、残念ながら2010年代後半になるとコムサの店自体をファッションビルや商業施設内でほとんど見かけなくなり、コロナ禍以降はさらにその存在感が消えている。

 

タカキューしかりコムサ・デ・モードしかり、隆盛を誇っても10年後・15年後にはブランドへの消費者の持つイメージは低下し、市場でも存在感を大きく薄れさせている。むしろ、戦後既製服ブランドの歴史を振り返ってみてもこれが正常なサイクルではないかとさえ思えてくる。逆に25年間も国内市場に君臨し続けているユニクロが異例といえるわけだが、2020年代以降に創業者が引退したあとも、この隆盛は続くのか、それともこれまでのブランド同様にイメージを低下させ存在感を薄れさせるのか、興味が尽きない。その行く末を果たして当方は死ぬまでに見られるのかどうか(笑)である。

 

仕事のご依頼はこちらからお願いします~↓

SERVICE

この記事をSNSでシェア
 comment
  • キムゴンウ より: 2022/10/07(金) 11:42 AM

    >よく金のやりくりができていたなと、我ながら不思議で仕方がない。どうやっていたのだろうか。
    との事ですが
    その当時は酒を飲みたければ、先輩にたかったりちょっと小言を言われることを覚悟すれば上司がおごってくれましたからね。まぁ、飲み食いはなんとかなりましたよ。
    ファストリ等と同じく安いイタリアンも安い寿司も、あの当時はなかったですから、昼飯とか大変だったような記憶もありますが。「弁当男子」なんてのも、寿退社を目指すOLから「金を稼げなさそうな男」と思われるんで無しだったでしょうね。今はむしろ「堅実でステキ」らしいけども。
    TAKAQですがかつてはポルシェのチームスポンサーしていたように記憶していますよ。レイトンハウスみたいに。モータースポーツの関心が高かったじだいですから、スポンサー料金も高かったでしょうね。
    そんな事ができたTAKAQ。イオンの傘下に入ったのが良かったのか悪かったのか。ターゲットがお兄系という死語の世界の気がします。難波のTAKAQは近所にホストクラブがうようよあるから、そこをターゲットにしてるので、お兄系なのかもですが。

  • とおりすがりのオッサン より: 2022/10/07(金) 12:01 PM

    90年代半ばに新宿のタカキューで何回かシャツ類買ったことありますが、私が買うくらいだからその当時はもうイケてる感じではなかったのは確実ですねw
    しかし、こんなに負債かさんでると、もう先が無いんじゃね?とググったら「倒産確率Web」とかいうサイトで1年以内の倒産確率15%とでていましたw

  • BOCONON より: 2022/10/10(月) 11:25 PM

    タカキューは昔はイオンモールだのIY堂のショッピングセンターだの,まあどこにでもあったようなチェーン店だから「”御三家” と呼ばれるほどにファッション性が高かった」というのはちょっと誇張が過ぎると思いますね。
    僕らジジイにとっては30年くらい前タカキューや三峰は「基本トラッドっぽい服が多く,百貨店と同品質(に見える)で,しかし百貨店よりはいくらか低価格」なので「”百貨店の商品にはちょっと手が出ないけど,スーパーやユニクロのあからさまに安物の服着てる人たちとは一線を画したい” と思うような層が買い物するところ」といったイメージでした。成人式用の紺のブレザーとかね(だからなさけない事に田舎に住んでぱっとしない中小企業に勤めていた僕のまわりでは「タカキューは高い」って奴ばかりだったw) その後無印良品と同じく急速に迷走を始めて,何をやりたいのかよく分からない店になって,店舗も激減していった。僕は「百貨店よりは安いったって百貨店自体がもうぱっとしないしなあ…」と思うようになって,それからもう20年以上はたつのに何とか存続しているのだから,百貨店同様案外しぶとい感じもする。

    新宿のタカキューは今は確かにアンチャン風と言うかホスト好きのするような服が多い。歌舞伎町が近いせいでもっているのかも知れない。でもよく見ると,ALEXANDER JULIAN ブランドのちょっと洒落たジャケットなど売っていることもあるので,選択肢は減ってもらいたくないですね。
    そう言や三峰も上野店はなくなったし,もうじき新宿店もなくして青山に1軒だけ統合店を出店するらしい。
    三峰もタカキューもお若い人たちには「高い」って言われるし,と言って今はオッサンはあんまり服買わないから,無印良品同様「一見誰が着てもいいように見えて実は若い人しか着られないサイズ感の服」なんて売ってたりするので,シャツなど試着してからでないとあぶなくて買えなくなっている。昔はシャツの試着なんてしない/させないのが普通だったから,どうもおかしな世の中になったもんだ。「なんでこんな中途半端な,誰にどう着てもらいたいのか分からない服売っとるんじゃ?」と思うけれど,これは時代というものだから誰にも致し方なくて,ひっそりとでも存続できれば良い方といった感じがしますね。書店は今は爺さん婆さん向けの本だらけだけど,そういう世代は本はともかく服代も食費も切り詰めて生きて行かなきゃならないから,ジジババ向けの洋服なんて事実上ユニクロさえあればたくさんでしょうしね。

  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/10/11(火) 1:22 PM

    タカQは「アパレルは上場したらオシマイ」という
    教訓を残した会社です。今は誰も覚えちゃいないけど

    消費者から支持されていたという意味でのピークは83年頃かな

    VAN没後~バブル前の頃、都会の若者が成人式に着ていくのは
    金持ち・ミエ張りがJUNみたいなDC系、ちょっと頑張る層が
    がタカQという感じでしたね

    上場時の89年頃は今のビームスのような立ち位置でした

    南サンのいう通りで「ユニクロほど安くもない・DC系ほど高くもない
    商品デザインもユニクロほどベーシックでもない・DC系ほど意匠性もない」

    そしてバブル崩壊と同時に売上がガタっと落ちて
    自社専売用のアパレル別会社を持ってなかった
    業界5位だか6位のスーパーのPB品製造部隊になりました

    ここ10年はスタイリスト愛用の会社でした

    もっともワイドショーの「うちのイケてないダンナ改造企画」
    専属でしたけどねwww

    遠くない将来、イオンが切ると思います

    自社が直で金をブチ込むよりも場所貸しのほうが
    よほど堅実に儲かりますから

    賃料がとれる所はウニクロGU無印ハニーズに貸し済み
    余った所の埋め草として使い道がなくはないかな・・・

    オフィスカジュアルはウニクロGU無印で
    女子のカジュアルはハニーズで
    スーツは祭事で十分です

    大衆衣料としてのアパレルに他社が入り込むスキ間は
    もうありません

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ