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南充浩 オフィシャルブログ

「EC化率が高ければ高いほど優秀」という論調の意味不明さ

2022年10月6日 ネット通販 0

2020年にコロナ禍による店舗の長期休業によってネット通販売上高は格段に上がった。

過去にもブログで採りあげているので、細々したことは繰り返さないがだいたい20%増くらいになった。理由は実店舗の多くが長期休業していたからネットで買わざるを得なかったからである。

21年に入ると、飲食店の営業時短はあったものの、それ以外の店舗の長期休業は特殊な場合を除いてほとんど無くなった。このため、ネット通販の売上高は20年と比べて微増程度に縮まった。

22年も同様で、もう飲食店の営業時短すらなく、ネット通販売上高は21年対比で微増から横ばいという状態である。

断っておくと、もちろん企業ごとに格差はあるからもっと伸びている企業もあるし、その一方で前年割れしている企業もある。もうすでに「ネット通販をやったら必ず伸びる」という情勢ではなくなっている。

 

衣料品でいうと、ネット通販が伸びているブランド、企業もあるが、一方で横ばいや前年割れの企業、ブランドも珍しくない。

個人的に仕事でかかわってい企業でいうと、衣料品のネット通販で100億円規模を目指そうとすると、現在だと相当な金額の投資が必要となる。サイトの更新、保守メンテナンスの費用も値上がりしているし、それ専用の人員も複数必要となる。また販促、広告費用も年々値上がりし続けている。

ネット通販は実店舗よりコスト安とは決して言えない状況となっている。

衣料品以外のジャンルでも同様ではないか。

 

日本で本当にECは拡大しているのか? EC化率が8%台でとどまる:世界4位だが……(1/3 ページ) – ITmedia ビジネスオンライン

この記事は統計データとしてはそれなりに有用だが、それ以外の見方は2020年以前の「ネット通販バラ色論」に終始しており、有用どころか有害であるとさえいえる。

2019年までのジジイ経営者たちの見方そのものである。

調査によれば、令和3年の日本国内のB2C-EC市場規模は、20.7兆円(前年19.3兆円)と、前年比7.35%増だったという。世界各国との比較でいけば、日本のEC市場規模は中国、アメリカ、イギリスに続いて4位となっている。この発表を受け、日本においてもECが非常に成長しているという論調が目立つ。

しかし、果たしてそうなのか。EC化率(全ての商取引金額に対する、電子商取引市場規模の割合)はわずか8.78%で、前年より0.7ポイントの上昇にとどまっている。つまり、ECの市場規模では世界4位だが、世界各国に比べればEC化率の伸び率は低く、ECの市場規模でも今後は世界においてもシェアは少なくなっていくのではないか。

とある。

とりあえずは日本のネット通販市場は世界4位の21兆円弱で、前年よりも1兆円強増えている。この事実は知っておくに越したことはない。

しかし、ECの市場規模でも世界シェアが少なくなっていくのではないだろうかというのは単なる憶測でしかない上に、シェアが縮んで何の不都合があるのかわからない。

 

この記事が2019年以前の物のわからないジジイ経営者と同じだと当方が断じる理由は「ネット通販比率が高ければ高いほど優秀」だと考えている点である。

アパレル業界にもそういう考え方で煽るコンサルタントが何人もいた。多分今もいるのだろうが、20年以降のネット通販の現実を見ると、踊らされる経営者は随分と減っているのではないかと考えられる。いまだに踊らされる経営者がいるなら、随分と情弱だと言わざるを得ない。

 

 

実際に、商品アイテムごとに見れば、「書籍、映像・音楽ソフト」(46.20%)、「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」(38.13%)、「生活雑貨、家具、インテリア」(28.25%)となっており、アイテムによっては高いEC化率が実現している。この事実を考えれば、2割程度のEC化率となっていてもおかしくない気もする。

 

とある。アイテムごとに見るとネット通販比率の高い分野が存在するが、当たり前の話で、ネット通販に適した(ネット通販で買う方が便利な)商品と、そうでない商品があることに何故思い至らないのかが不思議でならない。

1つずつ考えてみると、書籍やソフトは実店舗で買うことにこだわる必要がない。まして電子書籍や音楽のデータ配信なら実店舗よりもネット通販で買わないと逆に不便とさえいえる。ネット通販比率が高まるのは当たり前である。生活家電やPC、家具インテリアは重量が重く、体積がかさばる物が多いため、実店舗で購入して持ち帰るよりネット通販で買って自宅やオフィスまで運んでもらった方が便利である。これもネット通販比率が高まるのは当然である。

記事では「食のネット通販の低さ」を指摘しているが、食料品でネット通販で買わなくてはならない理由があるだろうか。もちろん、遠方の名産品なんかを取り寄せるという人はいるだろうが、食品の購入用途は日々の日常生活用が圧倒的に多いと考えられるが、日々の日常生活食品は近所のスーパーやコンビニで購入する人が圧倒的だろう。しかも多くの場合、スーパーやコンビニが自宅の近辺にあるから、ネットで注文して到着を待っているより出向いて購入して持ち帰った方が早い。これの一体何が問題なのか理解に苦しむ。

 

で、

中国やアメリカと違い、国土が狭い分、すぐに買い物に行けるという理由はかつてから言われたが、コロナ禍で家から出るなと言われたにもかかわらず、さほどのEC化率の増加を見せなかったことを考えれば、それも違うのではないかと思える。

と指摘しながらも後段においては

 

まず、ユーザー側からしてみれば、特に都市部において、買い物に出かけることに不自由がないことがひとつ挙げられるだろう。都市部においては歩けばすぐにコンビニがあるような状況であり、配達の日時指定がある程度できるとはいえ、欲しいと思ったときに手に入る利便性は捨てがたい。こうした物販流通網の整備があればECの必要性もそれほどでもないかもしれない。

 

と指摘しており、この矛盾に気が付いていないのだろうか。どう考えても「それも違うのではないか」という前段の指摘が的外れであり、後段の指摘が正しく、後段が理由だから伸びないということで話は終わる。

 

衣料品でいうなら、実店舗での購買は絶対に無くならない。理由は試着して似合うか似合わないかがその場で確認できるからである。

衣料品のネット通販で困る点は

1、生地の質感がわからない(硬い、柔らかい、薄い、厚いがわからない)

2、サイズが合っているかどうかわからない

3,似合うかどうかわからない

2はサイズ表記をブランド側が詳細にし、買う側が慣れるというお互いが努力することである程度はクリアすることができる。

しかし、1と3は絶対に実店舗で実物を触るとか試着するとかしない限りはわからない。

特に3は、画面のモデルさんが着用しているとカッコイイのに自分が着てみると似合っていなくてカッコ悪いという場合が多々ある。それは服が悪いのではなく、着用する人の容姿がモデルさんより悪いからであり、それを事前に理解するには実物を試着するのが最も効果的である。

 

結局のところ、今の日本の消費者の多くは利便性や自分の都合によってネット通販と実店舗購入を使い分けていると考えられる。日常的に使う食品は近隣のスーパーやコンビニで、遠方の名産品はネット通販で取り寄せるという具合に。そして当方はこの使い方が最も合理的だと見ており、何が何でもネット通販で買えというこの記事の論調は「アホちゃうか」としか思えない。

この記事は

EC化率の上昇が日本の経済成長に寄与するのは間違いのないことであり、これからの経営者の大きな課題だ。

と締めているが、一体何の根拠があるのだろうと不可思議である。ネット通販業者の寝言のポジショントークとしか思えない。

 

日本人の消費傾向から考えると、ネット通販での消費が増えれば実店舗での消費がその分減るから、トータルした売上高は変わらないだろう。

例え所得が増えたところで、実店舗購入は今のままで、さらにネット通販分をプラスオンするなんていう買い方をする人はほとんどいないだろう。そんなにたくさん持っていても処理や保管場所に困るだけである。

日本人の多くは富裕層も含めて無駄遣いを極端に嫌う。借金をしてまで買い物をしたいと思っている人は少ない。当方もそう思っている。一方、米国、中国では金を持ったら持っただけ使う人や借金をしてまで物を買う人の比率が日本人よりも格段に高い。そういう国民性ならネット通販でも実店舗でも買うという消費行動が起きるかもしれないが、日本人の多くはどちらかでしか買わない。

「EC化率の上昇こそが日本経済の成長に寄与するのは間違いない」というのは、2010年代のイキリIT信者か、物の分かっていなかった経営者の誤った考えでしかない。ネット通販業者が業界の成長を目指すのは極めて当然だとしても、EC化率の上昇こそが日本経済の成長に寄与するなどと考えるのは傲慢に過ぎると言わねばならないだろう。

 

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