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南充浩 オフィシャルブログ

シーインの急成長は多くの消費者がクリーンさよりも安さを求めていることの証明

2022年10月5日 トレンド 1

値段の安い商品の方が売れやすいというのは、日本だけではなく世界的に共通している。

ただし、高くても売れる物がある。それがなぜ売れたのかという分析が必要になる。モノヅクリガーの人たちやイシキタカイ系の人たちが言うように「高くても良い物なら売れる」というのは神話である。売れるためには何らかの理由があり、そこを上手く衝けた商品なりブランドは売れるが、良い物は黙っていても売れるなんていうことはない。

一方、物が飽和していれば安くても売れない商品も出てくる。

 

衣料品に関していえば、日本ではもう96年当時のようなバーバリーブルーレーベルブームとか95年当時のビンテージジーンズブームなんていう「平均単価が3万円くらいするけど大ブームになるファッション」なんていうものは二度と生まれないだろうと見ている。また欧米でもそういう「そこそこ高いけど大ブームになるブランド」なんていうものはもう生まれないだろうと見ている。

日米欧ともに大ブームになりやすいブランドは激安かラグジュアリーの二極化しているといえるが、今の日本人は一部を除くと、当方も含めてラグジュアリーにはあまり興味を示さなくなっている。一方、欧米では日本以上に貧富の格差が激しい上に社会階層が厳格だからラグジュアリーの需要は底堅いといえる。

 

最近、ファッション分野での急成長案件が少ないためか、急成長中と「されている」シーインを取り上げる報道が相次いでいる。

急成長とされているとわざわざ書いたのは当方が嫌味な性格であるからだが、先日のシーイン報道でもあったようにほとんど何も明かされていないからである。明かされていないからこそ「俺は特別だから知っている」というコンサルや書き手が飯のタネにしているといえる。

 

公害や環境問題には対応すべきだと当方でさえ思っているが、欧米発のエシカル圧力は2020年頃から増すばかりで、日本国内では「アメリカでは誰もその用語を知らない」と噂されるSDGsに血道をあげている。

元来は不要な一手間・二手間を加えて製造するからコストアップし、エシカルだかSDGsだかサステナブルだかをやればやるほど衣料品の価格は上がらざるを得ない。

また原材料費・燃料の高騰や円安基調も相まってそこに環境問題を絡めて「安い洋服は悪だ」というキャンペーンも見受けられるが、しかし、世界的に見て2021年以降ビッグビジネス化したブランドは激安が売りのシーインだけである。

日本ではどれほどの売上高があるのかはわからない。極小ではないだろうが、イキリコンサルたちが主張するような「若者はみんな買っている」という状態でもないため、100億円単位の売れ行きではないかと当方は想像している。

たしかに日本人は安い商品が好きだが、ファストファッションはそもそも欧米社会が作り上げたビジネスモデルである。GAPはアメリカのブランドだし、ZARAはスペイン、H&Mはスウェーデンである。欧米人がすべて意識と収入が高いわけではない。むしろ「安くてマシな服」が求められていたからこそ、低価格SPA型ブランドが開発され一気に広がったといえる。そして欧米以外の諸国だって「安くてマシな服」へのニーズは大きい。かくしてシーインは世界的な巨大ブランドに短期間で急成長できた。決して「トレンドサイクルの速さガー」とか「近未来的なシステム構築ガー」とかそんな理由ではない。トレンドサイクルへの対応の速さは買う要因にはなり得るが、ラグジュアリー価格ならそれほど売れなかっただろう。近未来的な最新鋭のシステム構築なんかで服を買うようなド変態はかなりの少数派でマストレンドにはなり得ない。シーインが急成長できた最大の要因は「激安」と考えるべきだろう。

 

クーリエ・ジャポンにこんな記事が掲載された。

激安ECサイト「シーイン」がアメリカの若者から絶大な支持を得ている理由 | エシカルじゃなくても爆買いする

全文は無料会員登録して読んでいただきたいが、一部を抜粋したい。

ECブランドとして成功しているシーインが、わざわざポップアップを行う理由には、「中国のファストファッション・ブランド」に対するアメリカ人消費者の懐疑心を軽減する狙いがあるようだ。

消費者にとってのシーインの魅力は、流行のアイテムがどこよりも安く買えることだ。たとえば、流行のタイダイの帽子は450円、ネックレスやピアスなどのアクセサリー類も一個あたり150〜400円、洋服もトップス600円〜、デニム1400円〜と、とにかく手頃だ。その上、プラスサイズまで幅広いサイズが用意されている。

 

ただ、シーインは成長に伴い、盗作、知的財産の侵害といった問題に加え、労働法に違反するサプライヤーと協力していることや、工場の状況について必要な開示を怠ったことなどで、批判されてきた。

昨年はカナダのメディア「CBCマーケットプレイス」の調査で、幼児用ジャケットや財布など一部の商品で鉛の量が基準値を超えていたことも判明。決して「クリーンなブランド」という印象はない。

しかし、それでも、アメリカの消費者、特に若い世代を惹きつけ、熱烈なファンを増やしながら急成長を続けていることは注目に値すると、同紙は述べている。

というのも、若い世代は一般的には「環境意識が高く、よりエシカルな消費を心がけている」と言われており、ファストファッション・ブランドのシーインは、その倫理観に合ったブランドだとは言い難いからだ。

 

で、なかなか興味深いのが記事で書かれている以下の消費者のコメントである。

カナダのファッション・インフルエンサーで、シーインのファンである25歳のアン・テイラーという女性は、同紙にこう語っている。

仮にもしシーインが子供を強制的に働かせているなど児童労働法に違反しているという報告があれば、「私は絶対にボイコットする」。けれど、サプライヤーが労働法に違反して、その労働者が超過労働分のお金が支払われていないと訴えているという話には、それほど心を動かされていないと明かしている。

また、彼女は盗作についても「絶対反対」。だが、バレンシアガの靴に非常によく似たデザインの靴を、別のブランドから4000円ほどで購入したと述べている。

 

多くの消費者の本音はこれだろう。

SDGsなのかエシカルなのかサステナブルなのか呼び名はどうでもいいが、その手の世論は何となく盛り上がっているし(強制的に盛り上げさせられている)、SNS上ではヒステリックな書き込みも増えている。しかし、いかにイシキタカイ系がSNS上で叫ぼうが、シーインが短期間のうちに急成長を遂げ、世界中で売れている理由は「安いから」であり、高ければいかにファッショントレンドキャッチが速かろうが、先進的なシステムを使用していようが売れていない。そして、SNS上で綺麗事をヒステリックに並べているような人間も本音では、サプライヤーの過酷な労働などどうでもいいし、盗作を怪しからんとは思うが、似たようなものが安く売られてたら買ってしまうのである。

シーインに対する熱狂なんていうのは、当方はさらさら感じたことがなく、激安の特売品が発売されるから並んでいる行動の延長線上でしかないと感じている。

 

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 comment
  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/10/06(木) 9:59 AM

    >それがなぜ売れたのかという分析が必要になる

    売れた理由の解析は高額品でも激安品でも必要です

    もちろん、売れた理由が「安かったから」それだけでは
    売れた理由の分析になっていません

    けど、株価ほーかいとか相場大混乱の原因を正確に分析しても
    誰も喜ばないんですよねw

    それよか物が売れてウハウハとか相場爆アゲに
    チョウチンつけるほうがみんなホクホクになるからみんな喜ぶ

    「安かったけど売れなかった」ケースの原因は
    皆さんそれなりに考察されてる感じがします

    けれど「安いから売れた」を一歩進めて「安いのに売れた」
    のをスタートとする考察があってもいいんじゃないですか?

    そもそも服は安くてあたりまえなのが2022年現在です

    それなのに「安いから売れた」というだけでは
    売れた理由を考えた事になっていないと思います

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