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南充浩 オフィシャルブログ

イメージが良くても意味の無い取り組みに支持は集まらない

2022年9月16日 トレンド 0

世の中には「あの一時期の熱狂は何だったんだろう?」という事例がよくある。

もちろん衣料品業界にも多数存在する。例えば「シーナウバイナウ」とか「ノームコア」とかである。何事も挑戦してみることは必要ではあるが、ムード先行で中身がわかりにくいものや、利便性が高くないものは、短期間のうちにマスから見放されて普及することはない。

当方も含めて大多数の人間は、イマイチ意味が分からなかったり、利便性が悪かったりすれば長く使い続けたいとは思わなくなるし、それを使い続ける根気も持ち合わせていない。

最近、そんなものの一つだと感じているのが「エバーレーン」である。

ちょうど10年くらい前にDtoCという新機軸の旗手として散々我が国メディアでも持ち上げられたネット通販SPAブランドである。

最近は全く報道されない。報道されたことがあるとすると、コロナ禍による従業員のリストラ騒動である。

 

エバーレーンが従業員約300人を一時解雇 「説明もなくある日突然解雇された」と一部従業員から不満の声

これは2020年4月の記事で、今からもう2年半も前のことになり、その後、全く我が国では報道されない。当方は米国事情には疎いのでご存知の方がおられたらお知らせいただきたい。

 

で、このエバーレーンだが、ネット通販専業ブランドなので、試着用ショップを何店舗か設けて着心地や素材感を確かめてもらうという手法に注目が集まった。

今から思うと、この辺りが「売らない店」のきっかけではないだろうか。

 

自身もネット通販を使うようになると、「生地が思ったより厚すぎた」とか「薄すぎた」「生地が硬すぎる」「柔らかすぎる」とか、実際にいざ着用してみると「思ったよりも似合わない」とかそんなことが日常茶飯事となる。

こういうときに「試着できたらなあ」と感じずにはいられないのだが、エバーレーンの試着専用ショップはそれを解決するために考案されたといえる。

困ったことが起きれば解決策が提示されるのは当然である。

 

で、ここから「試着専用店」というのが我が国でもパラパラと作られるようになった。コロナ禍前の話である。この辺りから我が国でも「売らない店」が本格的に注目され始めたと感じる。

代表的なものは、ジーユーが原宿に設けた試着専用店だろう。2018年11月のことだ。しかし、先進的で未来感のあるイメージとは裏腹に、利用者からは不評の声、存在意義を疑う声が溢れることとなった。

例えばこの記事である。

 

話題のGU「試着専門店」に行ったら本末転倒だった…格安セール品なし、ほぼメリットなし (biz-journal.jp)

 

結局、このジーユーの試着専門店は2021年10月10日に閉店されている。コロナ禍があったとはいえ稼働日数でいえばまる三年と短く、今から振り返って見れば果たして存在意義があったのかどうか甚だ怪しい。コロナ禍が無かったとしても早晩閉店していただろう。

ジーユーの試着専門店とエバーレーンの試着専門店は機能としてはほぼ同じでも、存在する意味が全く違う。端的に言えば、エバーレーンは試着専門店を設ける意味はあるが、ジーユーが試着専門店を設ける意味はゼロである。

 

エバーレーンはネット通販専門のブランドなので、基本的に商品の実物を見て触ることができない。これを解決するためには試着専門店が必要不可欠ということになる。画像と実際の商品の印象が異なるということはネット通販ではよくあることである。

一方、ジーユーはというと2021年8月期末時点で国内に439店舗も存在する。

となると、原宿の試着専門店に出向かずとも、近隣にあるジーユーに行って試着をした方が効率的ということになる。

おわかりだろうか。日本人が全員東京のそれも原宿近郊で生活しているわけではない。東京都内在住者だって原宿が遠くて自宅の近隣にジーユー店舗があるという場合も決して珍しくない。

じゃあ何も原宿くんだりまでたかが試着に出向かずとも自宅近隣のジーユーで試着をすれば済む話である。

 

繰り返すが挑戦することは全て無駄とは言わないないが、表層的に真似てみるだけの取り組みはほぼ無意味といえる。

 

そして、先ほど挙げたジーユー試着専門店を酷評した記事は、業界と一部自称識者が注目する「売らない店」のデメリットも端的にまとめているのでご紹介したい。

 

そうなると、スタイルスタジオのメリットは「試着した商品をその場で買えて、手ぶらで帰れる」ということくらいだ。すでに荷物を抱えているのに買い物をしたいときなどは便利かもしれないが、そんな局地的なニーズに対応したところで「利便性が高い」とはいいがたい。

 

とある。

先日、阪急百貨店うめだ本店のb8ta(ベータ)のポップアップ店でも感じたことだが、手ぶらで帰れること以外にメリットが感じられない。手ぶらで帰ること自体も商品がかさばらないとか重すぎないというのであれば、さほどのメリットでもない。

ベータでは電気自動車や、プロ野球投手とのバーチャル対決システムなど到底持ち帰れなさそうな商品があったが、それ外の商品はそれほどかさばるわけでも重量が重すぎるわけでもなさそうなので、何なら買ったらそのまま自宅に持ち帰れた方が便利で、後日受け取る方がデメリットではないかと感じられるほどである。

これはベータに限らず、他の「売らない店」でもちょくちょく聞こえてくる感想で、最近では、少しは在庫を積んでいて持って帰れる場合も出てきたと耳にする。

こと衣料品に関して言うなら、Tシャツ1枚とジーンズ1本を売らない店で買ったとしたら、この程度ならよほどの大荷物を抱えていない限りその場で持ち帰ることは何の苦でもない。

 

何が言いたいのかというと、最近は売り場の穴埋め的に導入が進む「売らない店」も先進的なイメージは良いとしても、実際の利便性を考えないと、ジーユーの試着専門店のように短期間でその役割を終えてしまうだろうということである。

 

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