アパレルの生産リードタイムは短縮どころか現状維持ですら困難になっているという話
2022年9月15日 製造加工業 3
さて、今回もアパレルにおけるクイックレスポンス(QR)対応について考えてみたい。
QRというと、一般的にはQRコードと捉えられるが、アパレル業界に限ってはクイックレスポンスと捉える人も相当数存在するので、商談の際には明確な使い分けが必要となる。
イキリIT業界からするとDXがデジタルトランスフォーメーションを指すのに対して、一般的には大多数がデラックスと捉えているのと似ている。
クイックレスポンス対応とは、90年代後半にワールドが主導して広めた概念で、商品企画から店頭投入までのリードタイムを2~3週間にまで短縮するという考え方で、この考え方を支える太い柱の一つが「その商品と同じ生地が無くなっていたら、他の在り生地で代替して生産する」というものである。
何も全く同じ生地を使う必要はないじゃないか、業界に流通している在り生地を使って同じ形の商品を作ればいいという考え方である。
これはこれで当方は一理あると思う。寸分たがわぬ生地を欲している人ばかりではないだろう。
だが、これとてもいわゆる生地問屋・繊維商社がある程度の生地在庫を抱えることが前提となっているといえる。生地問屋・繊維商社がなるべく在庫を抱えないという商売形態に移行すると、「在り生地」自体が存在しなくなってしまうからだ。
さらにいうと、生地問屋が生地を抱えるためには、生地工場が生地を生産する必要がある。生地工場が生地を生産するためには糸が必要となる。この糸も原糸メーカーから生地工場に売られるだけでなく、糸商社が在庫を抱えていないと、作りたい時に生地が作れないということになる。その都度糸を生産してもらっているのでは、これまた生産リードタイムは伸びざるを得ない。
しかし、生地問屋・繊維商社もだんだんと在庫を抱えなくなってきている現実がある。その方が決算上有利だからである。また糸商社も在庫を抱えなくなってきている。
余談だが、オシャレでイメージの高い某糸商社がある。ところがこの商社は在庫をあまり抱えていない。逆にイメージはあまり高くない糸商社もある。この糸商社は在庫を抱えているので、そこが重宝されている。どちらが正しいとは一概には言えない。どちらもその商売スタイルで重宝されているのだが、このように糸商社でさえ、在庫を極力抱えない企業が出てきているということである。
もちろん、在庫を抱えない生地問屋・糸商社ばかりになるとは思わないが、QR対応が提唱され始めた25年前と比べると「在り生地」を確保することは年々難しくなっているといえる。
さて、US君と当方のブログに触発されたわけでもないだろうが、山本晴邦さんもQR対応に言及したブログをアップしておられる。
もうブログのタイトルだかなんだかわからないくらいに短い(笑)。
一般的に想像されるQRの期間はどのくらいだろうか。
発注後2-3週程度のイメージか。
絵型描いて仕様書ができていて、パターンも生地も準備出来ていて、サンプル確認も終わっていてからの本生産数量発注で縫製期間だけが2-3週というのは物理的には不可能ではない。カタチや数によるけれども。
とのことで、一般的なアパレルやコンサルが考えるQR対応はこれだろう。縫製以外のすべての手はずが整っていて最速で2~3週間というところである。
そして当たり前だが、縫製以外のすべてが整っていなければ、洋服の生産リードタイムはどんどん伸びて行くことになる。
山本晴邦さんのブログから図をお借りする。
ざっくりとした目安の期間はこんな感じになる。
わたレベルというと、糸になる前の原綿の状態からの生産リードタイムは短くても半年くらい、長いと数年単位となる。
糸の段階から生産に入るとするとこれもだいたい半年前後、生地製造の段階から入ると早くても3カ月となる。白生地はあるので染色から入るというと2カ月~4カ月くらいが必要となる。
当然、正確な期間は個々の企業や工場、また製造する物によっても前後はあるが、だいたいザックリとこんな感じになるため、例えば「在り生地」が無い状態だと生地の状態から製造しなくてはならなくなるので、早くて3カ月、遅いと半年くらいは確実に必要になる。
で、話は元に戻るが、生地問屋(繊維商社)、糸問屋が在庫をどんどん抱えなくなってきているという状況を考えると「在り生地を使って最短2週間で店頭納入します」なんてことは年々やりにくくなってきているということになってしまう。
おまけに前回でも書いたように、中国は今後も断続的にその都度ロックダウンを繰り返すし、停電の頻発も継続するだろう。さらにいえばまだロシアによる侵略も終結していない。
となると、海外生産、海外物流の混乱・遅延はまだまだ断続的に起きると考えた方が良いだろう。国内生産・国内調達に切り替えたところで、先にお借りした図で示したように基本的な生産リードタイムは変わらないから、ますますQR対応はやりにくくなっている。
「シーインでは~」という声も聞こえてきそうだが、そのシーインも工場の労働問題、デザインのパクリ問題が多数指摘されており、一般人が夢想するようなホワイト体質では全くない。
過剰在庫、不良在庫を抱えないという工夫は必要であることは否定はしないが、ワールドが25年前にQR対応を唱えた時とは環境が変わりすぎている。そのワールドが25年後の今、経営陣が一部を除いてほとんど入れ替わったとはいえ、QR対応の精度をさらに高めますともとれるような発言をすることは「いかに製造がわかっていないか」ということを露呈しているに等しいといえる。
機会ロスを減らすために納品までのリードタイムを縮める努力と工夫が必要だということは決して否定しない。ただ25年前のQR対応は強化するどころか維持することすら難しいという現状となっている。逆に企画担当者やバイヤー、MDの先見性の高さや商品構成力の高さが、これまでになく求められているといえるのではないかと感じる今日この頃である。
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comment
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通りすがりの初老 より: 2022/09/19(月) 2:03 AM
QRというと文化放送なラジオ民
コロナ初期のマスク不足で政府が配布する時も遅いだなんだという感じで
大半はどこからか唐突にマスクの完成品がでてきて店に並ぶものという認識なのでしょうか、と思ったものですそんな認識の人たちが生産計画やらMDなんてやっていたらどうなるかと考えてしまい
挙句、物流など他業種にしわ寄せを押し付けて全体にご迷惑をかけることになるというSDGsの欠片もないしんどい話まで想像したところでよし、ねるか!
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キムゴンウ より: 2022/09/21(水) 11:09 AM
埋められるギャップを埋めようともしないのは問題だが
現状を見ない希望的観測を目標とするのは、経営者として無責任というものだろう
SPAを導入しQRを実現していた会社が 他社との商品の差別化もできず迷走し
今度は百貨店向け商品を国内生産にするとの宣言は噴飯ものだろう
プルーストではないが 縫製業をまつわる失われた時間は相当なものだろう
今更淡路島の人たちが 百貨店向けの商品を作るから縫製を始めようと思うだろうか
おそらくブログ主は 特定に企業をコメントするのでは無く
旧態依然とした業界の中でも スマートな社風でありながら 悪習に犯されている企業を
歯がゆい思いもあって ある種の叱咤を含めて書いているのでは無いかと思う
また 自分が身を置く業界を悪く言うことに疑問を持たれる人もいるようだが
健全な批判は重要だろうし ブログ主の批判は的はずれではないと思う
仕事に限らず、理想(目標)と現実のギャップはどこでもある話しだと思います。それよりも特定アパレルへの執拗な批判ブログのほうこそ、そのバランス感覚を疑います。
アパレル業界に身を置く身でしたら、わざわざ対外的に印象を悪くするようなコメントは必要ですか?