MENU

南充浩 オフィシャルブログ

新しそうな切り口だが実は何十年か前の状態に戻ったという話

2022年9月9日 企業研究 0

多くの人は、時代が進むにつれてあらゆるものが進歩すると考えているが、現実はそうではないことが多い。技術的・物理的制約から全く進歩しない分野も珍しくないし、何十年かかけてもとに戻ってしまうことも多々ある。

最近だと、SDGS(一説には日本くらいでしかこの言葉は使われていないとも)かそのあたりの風潮によって、ペットボトルが槍玉にあげられ、ペットボトルを廃止して回収可能なガラス瓶にしました、なんて取り組み発表を見ていると、50年前に近所の酒屋がビール瓶を回収して、それを再利用していたことを思い出してしまう。50年かけて元に戻ったということになる。

 

衣料品業界でもそんな話題を先日見かけた。

ボトムスを中心に展開 「ストライド バイ ジョンブル」新店舗が大阪にオープン (fashionsnap.com)

 

「ジョンブル」が、ボトムスを中心に取り扱う「STRIDE BY JOHNBULL」の2店舗目となる「ストライド バイ ジョンブル ルクア イーレ」を大阪ルクアイーレ8階にオープンする。開業日は9月17日。

 

とのことである。

ジョンブルというのは、当ブログの読者ならご存知の方も多いが、念のために解説をすると、岡山県児島に本社を置くジーンズ、カジュアルパンツメーカーである。

創業からもう60年以上経過している老舗である。

そのジョンブルがボトムス(パンツ類)を主力としたいわゆるボトムス専門店を東京の1号店に続いて大阪に2号店を出店するというニュースである。

業界関係者の方々はこのニュースをどうお感じになっただろうか。

若い世代の方ならもしかすると

「すごく新鮮。新しい切り口」

と感じられる人もおられるかもしれない。

また若くなくても、ジーンズや厚手カジュアルパンツ業界に詳しくない人は同じように「新しい切り口」と感じられるのかもしれない。

しかし、業界歴30年にも及ぶ初老のオッサン、しかもジーンズ・厚手カジュアルパンツ分野に長らくいたオッサンとしては、30年かけて元に戻ったと感じられてしまう。

そうちょうど、ペットボトルが廃止されてガラス瓶が復活したように。

 

ジーンズ業界のこれまでの歩みを振り返って見よう。

90年代末期にビンテージジーンズブームが沈静化すると、レディースではマルキューブームやバーバリーブルーレーベルブームなどがあり、メンズでもセレクトショップブームやトータルSPAブランドブームなどが起きた。その結果、ジーンズ単品の卸売りや直販は「ダサい」「時代遅れ」という風潮になり、いわゆるジーンズ専業メーカー各社も単品ではなくトータルカジュアル化すべきという風潮が起きた。

世の中には「餅は餅屋」という言葉があるくらいに、やはり専業メーカーというのは一朝一夕に築き上げられるものではない。逆に専業がトータル化するにはまた違うノウハウを長時間かけて積み上げる必要がある。

その結果、大手ナショナルブランドと呼ばれる数社以外の中堅規模のジーンズ・厚手カジュアルパンツメーカーの多くはトータルジーンズカジュアルメーカーへと転身することになった。

長い付き合いなので忌憚なく言わせてもらうと、ジョンブルもその1社で、90年代後半にはすでに大手ナショナルブランドよりは確実にトータル化できていた。

そして何なら、ジーンズよりも厚手カジュアルワークパンツ・厚手ミリタリーパンツの方に力を入れており、もちろんジーンズも企画生産していたが、大手ナショナルブランドの隙間を狙うようなワーク、ミリタリーパンツを主力としていた。

そして、2000年代に入ると、ジョンブルは直営店を全国のファッションビルに出店するようになっていったが、もちろん品揃えはトータルカジュアルで、何なら2010年代からはカジュアルに崩したテイラードセットアップ(いわゆるカジュアルスーツ)までを投入するようになった。

トータル展開も極まったといえる。

 

そんなジョンブルもトータル路線では踊り場に差し掛かり、2020年にコロナ禍が始まったことも相まって、新たな切り口の模索が顕著になった。

その一つがボトムス専門の「ストライド」だということになる。

これまでの30年間に渡るトータルアイテム化の歩みを断続的に外野から眺めさせてもらっていた人間からすると何とも感慨深い。30年かけて元に戻った。

また、先日、久しぶりにジョンブルの23年春夏展示会も覗かせてもらったが、これまでよりもブルーデニムの提案品番数が増えていた。これも原点回帰ということになる。

 

 

さて、このボトムス専門店だが、過去の歴史でいうと成功したブランドがない。辛うじて、レディースのビースリーが挙げられるくらいだが、そのビースリーも2010年代後半からは往年の勢いがない。

オリゾンティーが展開していたころの「ドゥニーム」がジーンズだけの店を2000年前後に京都にオープンしたことがあったが、短期間に撤退している。内部の方に聞いたところによるとやはり売れ行きが悪かったそうだ。

また、ここ最近、アパレル業界で好調ぶりが再注目されているハニーズも2010年頃低価格のパンツ専門店「パンツワールド」の出店を開始したが、これも短期間で無くなっている。1900円中心の低価格とはいえパンツ専門店ではやはり売れ行きが悪かったのだろう。

 

初老ジジイの古い感覚かもしれないが、Tシャツやシャツなどの軽衣料トップスに比べると、パンツ類を買う頻度は低い。半袖Tシャツが790円に値下がりしていたら「安いやん」と言いながら、思わず衝動買いしてしまう人も少なくないだろう。しかし、パンツが1000円に値下がりしていても「安いやん」とは言うものの、Tシャツほど気軽には買わない人が多いのではないかと思う。少なくとも当方はそうである。軽衣料トップスの方が買いやすい。

メンズに限って言えば、パンツのバリエーションは恐ろしく少ない。カラー展開も4つか5つあれば十分である。

自分のタンスでいうと、パンツはジーンズも含めると紺・黒・グレー・オリーブグリーンの4色で十分で、サンドベージュのパンツはあまり買わない。それは自分がコーディネイトするのが苦手だからだ。

また形も大きく分けると長ズボンか半ズボンで、長ズボンにしろそんなにたくさんのデザインバリエーションがあるわけでもない。

となると、パンツ専門店では顧客の購買頻度が低くなる可能性が極めて高いのではないかと考えられる。ドゥニームもハニーズも価格帯は異なるが同様の状態だったのではないだろうか。

ビースリーの失速も中高年レディースターゲットとはいえ、同様の原因があるのではないだろうか。

 

となると、過去の歴史に照らし合わせるとジョンブルの新形態も飛ぶように売れるとは考えにくい。しかし、長年かけて時代の環境が元に戻ったように、もしかすると今の時代なら飛ぶようには売れなくても採算ベースに乗せるくらいには売れるのかもしれない。

そんなわけで頑張ってもらいたいと思っている。

 

仕事のご依頼はこちらからお願いします~↓

SERVICE

この記事をSNSでシェア

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ