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南充浩 オフィシャルブログ

ブランディングをすれば必ず売れるというわけではないという話

2022年9月6日 企業研究 1

以前から書いているように、消費環境や販売環境が異なってきたため、製造加工業者が生き残るためには、これまでのように生産を受注するだけでは難しい。自社オリジナル製品を作って販売する必要に迫られている。そのためいたるところで製造加工業によるオリジナルの製品ブランドが立ち上げられている。

しかし、実際に成功するのはほんの一握りで、あとはほとんど売れ行きが無いままでダラダラ続くか、いつの間にか消えているかである。

たしかに生地や縫製仕様の品質は良いのだろうが、商品デザインや細かいディテール、アレンジ、全般的な雰囲気などはどうだろうか?消費者に支持されているだろうか?

また販売戦略や販促施策、広報戦略はどうだろうか?

さらに言えば、ブランド名は「ただ単に名前を付けただけ」になってはいないだろうか?

 

もちろん、犬でも猫でも飼えばなにか名前を付けなくてはなかなか不便である。だから、コロとかポチとかタマとかココアとかそんな名前を付ける。多くの場合、ペットの名前にそんなに深い意味はない。当方なんかは白い犬だからシロ、黒猫だからクロで構わないと思っているが、多くの新しく作られたブランドのブランド名もそんな感じになってはいないだろうか?

そういう「とりあえず名前を付ける行為」を「ブランディング」と呼ぶ風潮が業界内外にあるが、名前を付けてカッコイイロゴを作ればブランド化でき、売れ行きが上向くのかというとそうではない。

これは何も製造加工業に限ったことではない。苦戦が続く大手総合スーパーの衣料品戦略で繰り返し行われていることで、いまだに奏功していない。

製造加工業だけが下手くそというわけではなく、ほとんどの企業が下手くそで、ごく一部だけがまぐれも含めて成功するというのが実態ではないかと思う。

 

例えば、昔からいろいろと教えていただいた生地雅之さんのブログにはこんなことが書かれている。

イオンスタイル | コンサルタント | 生地 雅之 | アパログ | ファッション、アパレル業界のブログポータルサイト (apparel-web.com)

「イオンスタイル」という名称はイオンリテール(GMS)の前社長からつけられた模様(イオンGはすべてイオン名が付くために、「差別化したいからか?」ですが、全く意味不明です。名前を変えたからMDが替わり、お客様のイメージが良くなると勘違いされているように映ります。イオンリテール(GMS)の核店舗に使用したり、イオンタウンの核店舗として導入したり、イオンスタイル単体での展開もあり、使い方には統一感もないのです。

お客様にとってのGMSへの現在の期待値は、店名は何でも良いので展開されている食材が必要か否かだけなのです。この「イオンスタイル」名は記号そのものの位置付けなのです。

 

とある。

ハッキリ言えば、トップバリュというPBがあり、知名度は低いとはいえトップバリュにも衣料品がある。にもかかわらずまたイオンスタイルというPBを作り、そこでも衣料品の展開がある。トップバリュとどう違うのか?「とりあえず名前を付けただけ」ではないのか。当方にはその違いがわからない。

 

ところで、先日、教えていただいた記事がある。

P&Gでの失敗で気付いたブランディングの誤解 顧客は便益で買う:日経クロストレンド (nikkei.com)

これを読んで、全てがピタリと衣料品業界に当てはまるわけではないが、相当な部分当てはまると感じた。さらにいえば「とりあえず名前を付けたらブランディング」という事態は意味がないということは理解できた。

 

世の中のブランディングの成功例といわれるものは、結果として既に大きくなったブランドを見て、重要性を説いていることが大半です。例えば、ブランディングにまつわる書籍でも、「Apple」「コカ・コーラ」「SONY」「パタゴニア」「メルセデス」といった既にできあがったブランドを解説しているものが多い。

ところが、そうした成功企業も創業時の変遷をたどると、ブランディングへの投資が先にあったわけではありません。独自性と高い便益を持った製品をつくり、何十年の歴史で積み上げた結果論でしかありません。

独自性のあるロゴやネーミングで、最初から顧客が識別しやすくしていたという点においては大切です。ですが、本質的には製品で便益や独自性を積み上げて、顧客の満足度を高めたことが重要です。その結果として、「Apple」や「SONY」のロゴが消費者の目に特別に映るわけです。

とある。また導入部分には

「ブランディング」の誤解を解いていく。最大の誤解は「ブランディングをすれば売り上げが上がる」という過剰な期待だ。

という一節もある。その昔、「名前とロゴを付けたらそれでブランドになって、高い値段で売れる」とアホなことを口走っていた某染色工場のオッサンに効かせてやりたいくらいである。

 

そのため、原因と結果の履き違えが起こっています。「iPhone」を例に取ると、iPhoneの登場時の広告は決して洗練されていたとは言い難いです。iPhone成功の最大要因は、プロダクトです。スティーブ・ジョブズは「iPodに携帯電話機能がついた」と最初は紹介しました。ですが、iPhoneが進化する過程で、アプリストアが開発され、第三者も巻き込み多様な利便性を提供したことで、パソコンを超えて普及しました。

消費者はプロダクトやサービスを買っているのではなく、具体的な便益を買っています。ブランディングと呼ばれる表面的なデザインや広告表現だけでは継続的に購入してもらえる要因にはなりません。Appleですら、同じブランディングの下で数々の失敗を積み重ねています。

 

ともある。Appleとて全部が全部成功しているわけではないし、ユニクロだってファミクロ、スポクロ、野菜と失敗を続けている。個人的にはJブランドの買収なんかも明らかに柳井正氏の舶来コンプレックス丸出しの大失敗だと見ている。ユニクロでさえ一勝九敗である。ちなみに当方の人生は一生苦杯である。

 

ブランディングしたから売れたのではなくて、機能的な便益が十分担保された上で、クリエイティブの良さを付加的な便益にしたと捉えるべきでしょう。

ここを見誤ると無駄な投資が増えます。過去にはやったCI(コーポレート・アイデンティティー)が最たる例です。かっこいい企業名に変更すれば、ブランド力が高まり、売れるのではないかという発想で、1990年代にはやりましたが、多くの企業が失敗しました。いや失敗したとは自ら公言せずとも、CIが財務結果に明確に貢献したケースはありません。

 

とのことである。

まあ、かなり引用が長くなったが、繊維・衣料品業界にはこの提言を見つめてもらいたいと強く願っている。もちろん他業界のことなので90年代の失敗とくくられているが、繊維・衣料品業界は「ブランディングすれば売れる」といまだに思っている人が多い。

くりかえすが便宜上ブランド名は必要となる。またロゴも必要となる。どうせつけるのならカッコイイ名前とロゴの方が良い。そこまではその通りだ。だが、カッコイイ名前を付けてロゴを作れば必ず売れると言うわけではない。業界には「ブランド」が掃いて捨てるほど存在している。その中から選ばれるのは至難の業なのである。

衣料品は全て「便益」だけで選ばれるわけではない。しかし、何が顧客にとっての自ブランドの便益になるのか?ということを考えてみる必要はあるのではないかと思う。

例えばステイタス性の高さというのも便益の一つだろうし、色柄がかわいいというのも便益の一つだ。高機能性だってそうだ。自ブランドが顧客に提供できる「便益」とは何なのか?これを考えてみることは無駄ではない。少なくとも「カッコイイ名前を付けてロゴを作ったら売れる」と考えるよりははるかに有益である。

今回はまあ、そんなところである。

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2022/09/06(火) 11:26 AM

    うちの金属加工工場の元バカ社長も、CIとまでじゃないですが会社のロゴを赤から青に変えたことありますわ。当時、社長が信奉していた某経営コンサルタントが「赤は赤字を呼ぶ。オレは赤いトマトは食べない」とかアホなこと言ってるのを真に受けて、「うちは赤い会社ロゴだから赤字なんだ。青にしよう!」と無駄にコストを掛けて青く変更していました。
    BtoBの仕事なんで、ロゴの色なぞ顧客の誰一人として気にしているはずもなく、当然ながら青にしても全く何も儲かるようにはなりませんでしたが。
    だいたい、日本一の企業であるだろうところのトヨタ自動車のロゴが赤なのに気が付けよ、って話なんですよw

    ホント、世の経営者さん達は変なコンサルタントにコロっと騙される頭悪い人ばかりですw

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