工場の初オリジナルブランドが「ゴルフ」というのはハードルが高すぎないか?と思った話
2022年8月26日 トレンド 6
今年のお盆休みは墓参り以外はほぼ自宅の冷房の効いた部屋にいたのだが、1日だけ酒を飲みに出かけた。
随分と久しぶりの人たちとお会いしたのだが、その席上
「国内の製造加工場は今、自社オリジナル製品を立ち上げることしか生き残り策がなくなってきている」
という発言があった。
これは当方の体感とも合致するのでほぼ真実だと考えられる。
SNS上では、実際にオリジナル製品を立ち上げた製造加工場のアカウントが掃いて捨てるほど存在する。繊維・衣料品に限っていえば、もう大口の受注は一部を除いてほとんど望めないから、自社オリジナル製品・オリジナルブランドを作って売上高を稼ぐしかない。
だからコロナ禍による衣料品不況と言われながら、恐らくは市場全体で見るとブランド総数は却って増えているのではないかと思う。あとここに有象無象のド素人インフルエンサーブランドも加わるので、市場全体で見た場合のブランド総数というのはえらいことになっているのではないだろうか。
しかし、工場オリジナルブランドが売れているかと言われると、10年前・15年前と同様にほとんどが売れていないか小規模なまま留まっているかである。
もちろん、小規模工場が「数人で食えたら十分」というスタンスで企画製造販売しているブランドもあり、それはそれでれっきとしたビジネスだと当方は考えているが、大規模な成長を望みながら果たせていないという工場ブランドの方が大多数を占めていると感じる。
理由は、作ることと売ることは全く別のノウハウ・スキルが必要になるからで、工場には売るノウハウ・スキルが完全に欠落しているケースが多い。
そんな中、繊維ニュースでこんな記事を見かけた。
日興染織 ゴルフブランド展開 | THE SEN-I-NEWS 日刊繊維総合紙 繊維ニュース
プリント加工の日興染織(京都府城陽市)は、ゴルフブランド「N ストリーク」を立ち上げる。同社にとって初となるB2Cのファクトリーブランドで、22秋冬にプレデビューさせ、23春夏から本格展開を始める。
とのことである。
冒頭でも述べたように生き残るためには、自社オリジナル製品を開発するしかないという点については当方も賛同する。
しかし「ゴルフブランド」というのは勝算が少ないように感じる。しかもB2Cとあるからネットなのか実店舗なのか、その両方なのかはわからないがとりあえずは消費者に直販するということになる。
モノを売るという行為はどういう形態にせよかなり難しいのだが、これまで企業からの受注をこなしていた加工場が消費者直販することはかなりハードルが高いので、軌道に乗せるにはかなりの時間と労力と支出が必要になるだろう。
卸売りの方がまだ手慣れているだろう。(それでも加工の受注と製品販売ではまるで売り先も異なるが)
しかもよりによって「ゴルフ」である。
衣料品不振の中、数少ない有望分野と目されているが、市場規模はそんなに大きくない。むしろ、これまでゴルフ人口を支えてきた老齢男性が本当に健康寿命を越えてしまってゴルフプレイからも引退するので、ゴルフ人口はこれから減少して行くと考えられている。
おまけにすでに強い既存ブランドが存在しているばかりでなく、新規参入が相次ぎ、ブランド過多に陥っている分野である。製造には強くても消費者販売に強いとは思えない加工場が参入しても勝ち目は薄く、相応の投資を行って専門の人材を集める必要がある。
通常のキャンプやハイキングなどのアウトドアよりもマスには広がりにくいのがゴルフだと当方は見ている。
もちろんこの記事だけで、製品はまだ見ていないのでその辺りは割り引いて考えねばならない。製品のよしあしは確実に売上高を左右する。
「製品のよしあし」に加え「最適な人材収集」というファクターを除いて考えるとかなり勝算は薄いだろう。
で、ここからは全くの当方の推測である。
なぜ、この染色加工場がゴルフを選んだのかというと
1、ゴルフ市場が有望だと映ったから
2、ゴルフウェアは他のスポーツよりも機能性の必要度が低い
3、ゴルフウェアにはプリント柄の面白さ(ファッション性)が反映されやすい
という3点からではないかと当方は推測する。
この分析は1を除いては決して悪い判断ではない。とはいえ、売るという行為をあまり考えていないのではないかと思ってしまう。
失礼ながら、一般人にとって日興染織なる工場名はほとんど知られていない。その知られていない工場が知られていないゴルフブランドを立ち上げたところで、誰が買いに来るのだろうか?
実店舗の出店なら、店舗自体が近隣を通る人に対しての広告になる。入店するかどうかは別だが。
しかし、流行りのネット通販だった場合、無名ということはブランド名でも工場名でも検索されないということになり、恐らくは一定期間の売上高は望めないだろう。しかもネットショップもこれだけウェブ内に溢れている状態だから、偶然立ち寄ってくれるということはかなり低い確率だということを覚悟しておく必要がある。
はるか昔、もう15年くらい前に、同じく染色加工場が母体となって、オリジナルブランドを立ち上げたことがあり、そのメンバーとは懇意にさせてもらっていたことを思い出した。
ブランド名は「ハンドレッド」だった。
プリント加工の技術を生かして、柄物のバッグを1型100個だけ生産し、売り切れたら新しい柄に切り替えるというビジネスモデルだった。
個人的には理論上は成功する可能性があったと今でも思っている。マスに向けての大量販売というのは、低価格でないと不可能だし、そんなポッと出の工場上がりのバッグブランドが勝てるはずもない。
とすると価格を維持し、1型100個限定という希少性を持たせるというビジネスモデルは理にかなっていた。
結局、無くなってしまったのは、工場側がブランドビジネスということを理解していなかったことも大きいし、例えば在庫を抱えるという物販の基本を理解しなかったことも大きかった。
デザインチーム、ブランドチームは傍から見ていた限りではそれなりに優秀な組み立てをしていたが、工場サイドがブランドビジネス・物販ビジネスを理解せず、工場メンタリティのままだったことが最大の要因だったといえる。
個人的には、ゴルフという市場がレッドオーシャンでしかないので、分野の選択自体を考え直した方が良いと思っているが、それを除いても工場受注とブランドビジネス・物販ビジネスは全く異なる物だという認識を持って臨んでもらいたいと願ってやまない。
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comment
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BOCONON より: 2022/08/26(金) 8:28 PM
バブル期と比べるとゴルフ人口は3分の一程度になってしまっているし,今後も減る事はあっても増える見込みはたぶんない(まあゴルフに限らずスキー/スノボ,テニス等々スポーツ関連はいづこも同じ,「気晴らしはスマホで」で見る影もないですが)。
しかし百貨店でもゴルフウェアの売り場はむしろ拡大していますね。新規参入する企業も引きも切らない様子。
こんな記事見ただけでも既にレッド・オーシャンなのは明らかだから,まことに不可解なことである。
↓
https://www.golfdigest-minna.jp/_ct/17554665なんでこうなるのか,ネット上で言われているのは――
・ゴルフやる層は比較的裕福であるから貧乏人相手にするよりはまし
・最近はゴルフウェアもお洒落になってきているから,プレイ用兼普段着としての需要が見込める
・コロナ禍中でも広いゴルフ場ならマスクなんてしないでのびのび出来て気持ちが良いから今密かなブームなのだウーム,説得力があるようなないような ...w
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ふぁ~ より: 2022/08/27(土) 10:52 AM
ZOYウエア契約の髙木優奈プロが
ステップアップツアー「ANA PRINCESS CUP」で見事優勝しました!!!この度、弊社株式会社日興染織のオリジナルブランドとして、「Niko Charmant」ニコシャルマンが「SHOP CHANNEL」様でデビューします。株式会社ダリドゥア様とのコラボブランドとして、本日よりSHOP CHANNEL様WEBサイトでご購入頂けます。
そして、4月24日(日)21時からSHOP CHANNEL様にて1時間の生放送でオンエアされます!
弊社の女性社員がゲストとして出演しますので、ぜひ皆さまご覧下さいませ。
本日4/22〜4/28までは期間限定で特別プライスになっております✨
チャンネルは、
CS放送 055ch (24時間放送)
地上デジタル 112ch
もちろん視聴料無料です。
宜しくお願い致しますゴルフ衣料OEMで実績ありか?
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南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/08/29(月) 8:56 AM
工場直売の行きつく先は「工場直販大セール@市民会館エントランス」
20世紀には、設備人員を遊ばせとくよかマシだろ的なノリで
残反を再利用して、ネームなしの商品を作って、
でも販路ナム~最後は投売りというケースが100%でした21世紀になって、工場が無くなり、残った工場も
そんな事する気力ある人1000人に1人もいませんへんなコンサルに煽られて「めざせインコテックス!」
とかいってたグループがいたけど、今はどうしてんだか・・・みんな「直販なら今日作って明日すぐ売れる!」と思っています
これホントウですwwんでワタクシ、ヤフオクに出せばすぐ売れるよと提案した事があります
ジャンルはごにょごにょですが、原価500円のものが3つセットで
250円にて落札されました間違いなくいえるのは、直販をやろうと思って
安定した売上につながるのに最低10年必要だという事実でしょうゼニアの下請だったインコテックスが自社ネームで商品を
作り出したのが約30年前ですから -
通りすがりのギャル より: 2022/08/30(火) 7:22 PM
まあ否定するのはわかるのですが、ゴルフだとloudmouthやbahoのベルトとか売れましたよ。派手で有名プロが使うように一点集中すればなんとかなると思います。そこまでの覚悟がこの工場にあるかどうかが一番の課題です。
機能性も昔はレインウェアの腋の下はナイロンで、スイングするたび音がしましたが、今は別の生地を使って音がしないようにしています。 -
南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/11/04(金) 10:13 AM
>1点とっぱだ~1点集中だ~
これもコンサル全員が大好きな売り文句ですよね
GEじゃあるあまいし、社員数名があたり前の業界が
1点集中で安定して食えるようにはなりません2022年の速度ベースだと、1点ヒットしたところで
もって3年がいいところでしょうそして軽工業製品だから少しでもヒットすると
すぐにマネされます。今はマネされる速度が
10年前の3倍だからあっという間に売上が減る・・・きょうびのファッションマーケットで成功するには
凡人はいうまでもなく死ぬほど努力した凡人程度では
不可能ですそして凡人が運よくヒットしてもすぐポシャるしね・・・
うちの金属加工工場(BtoBメイン)は、20年くらい前にオリジナルブランドでゴルフクラブを製造販売し始めました。先々代の社長も先代の社長もゴルフ好きで「自社のシャフト加工技術を活かし〜」なんて言ってましたが、誰にも知られていないブランドのゴルフクラブが売れるはずもなく、あっという間に製造販売は止めています。
先代のアホ社長は「市場では当社の飛距離が出るクラブより、コントロール性が良いクラブが求められていたから売れなかった」とかアホ分析していましたが、明らかにブランド力が無いから売れなかっただけだと思います。
世の中の中小企業の社長さんは、信じられないくらいアホな人がいるということで笑