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南充浩 オフィシャルブログ

生活習慣や風習を無視したビジネスは成り立たないことが多い

2022年8月12日 トレンド 2

業種にもよるが、小売やサービス業を除いてお盆休みに入った企業が多く、お休みの方も多いことだろう。

当ブログも16日までお盆休みとしたい。

 

さて、世の中には「理論的には正しいが売り上げ規模が成長しないビジネス」というのが多々ある。まあ「成功しない」どころか「失敗に終わった」企業も珍しくない。

先日、洋服の月額レンタルサービスのエアークローゼットが上場したが、当方は上場ゴールに終わるのではないかと思っていた。

今日現在までの株価推移を見ると、落ち続けており、ついには公募価格を下回って750円台で推移している。出来高も減少していて現在のところはどう見ても上場ゴールに終わっており、当方は今後一時的に好転することはあっても中長期的に成長し続けることは難しいと見ている。

 

 

一方、ファイナンス関係の記事を読むと、概ねアナリストなどは「成長性」に関しては「有望」としていて、当方の肌感覚とは随分と異なっていることに驚かされる。

アナリストからすれば、恐らく、月額の洋服レンタルサービスは利用者総数も少なく、競合企業も少ない(既製服販売ビジネスに比較すると)ので「成長性有望」という分析になるのではないかと思う。

たしかにその理屈は正しいが、ただ、問題は「カジュアルウェア、通勤着の月額レンタルサービスが必要だ」と思っている人がそれほど国内にいるのかどうかではないかと思う。

統計を取ったわけではないが、当方の身の周り調査によるとカジュアルウェア・通勤スタイルの月額レンタルサービスを必要だと考えている人は数少ない。

需要が少ないから供給側である競合企業も少ないのは当たり前ではないかと思う。そのため、当方からすれば「成長性は有望とは全く思えない」わけである。

 

こう書くと完全否定しているように受け取る人がいるが、完全否定はしていない。レンタルサービスの需要もゼロではないだろう。だから供給する企業があっても良いだろうと思っている。ただし、企業規模が何百億円、何千億円にまで成長できるほどの需要はないだろうと考えているだけである。

だから、例えば、細々と淡々と年間何億円かを稼ぎ続けられれば良いというなら、企業存続は可能なのではないかと思っている。

とはいえ、アナリストの理屈も正しいといえば正しい。しかし、それを利用する側の心情やら風習やら文化背景やらそういう物と合致しないと、マスに支持されるサービスにはなりにくい。それだけのことである。

 

5月か6月ごろから「妙佛 DEEP MAX」というYouTubeチャンネルを欠かさずに視聴するようになった。これはたまたま自分へのお勧め動画に上がってきたので、何気なく聞いてみたら非常に内容が良かったので、そのままチャンネル登録したわけである。

このチャンネルはほぼ音声と字幕だけだが、毎日更新されている。その中でこんな回があった。

 

短い動画だし、滑舌が良いので倍速で聞いてもわかりやすいので詳細が知りたい方は聞いてもらった方が早い。

2014年に中国で「毎日優鮮」という食材デリバリー会社が設立され、巨額の資金を集めたが倒産寸前という内容である。

中国生鮮EC「毎日優鮮」、破産で解散の危機 ナスダック上場廃止も待ったなし

動画や記事の内容をまとめると、中国では今でも市場で食材を買う習慣がある。しかし、市場の売り方だと食材は短時間でダメになり、廃棄処分することになってしまう。そこで、大都市の近隣もしくは都市内部に小型の倉庫を複数構え、ネット注文を受けたらそこから食材をデリバリーするという仕組みを考えた。

ネット通販大国の中国でなおかつ冷蔵・冷凍保存された食材をデリバリーしてもらえるというビジネスモデルだけを見ると、かなり有望なのではないかと映る。おまけにコロナ禍もあったのでデリバリーの需要はさらに伸びたのではないかと考えてしまう。

実際にそのように考えて巨額の投資をした国内外の大手企業は多かった。

しかし、毎日優鮮は売れず巨額赤字をたたき出して倒産寸前となっている。

先ほどの動画にその理由が3つ説明されている。

 

1、大都市圏の土地価格が高騰していて倉庫を複数構えるのは高コストになってしまう

2、中国の都市圏の若者は自炊をあまりしない

3,中国の都市圏の老人は自炊するが市場で買うという風習を捨てない(実物を見て買いたい)

 

である。

土地価格の高騰は置いておいても、2と3は文化というか風習というか生活習慣というか、そういうものである。

いくら、ネット通販が盛んで~、新鮮な食材を毎日自宅まで運んでくれて便利で~、と「正しい理屈」を並べてみたところで、中国人の生活習慣を変えるには至らない。

仮に何十年間もやり続ければ生活習慣は変わっていくだろうが、倒産寸前の会社がそこまで持ちこたえることはできないだろう。創業からたったの8年間では生活習慣や風習を変えることはできないということである。

 

翻って我が国でもこの蹉跌は多々ある。

中国やアメリカを見れば我が国でも洋服のネット通販はもっと売上高が伸びるはずだ

とか

中国やアメリカを見れば我が国もキャッシュレス化がもっと高まるはずだ

とか

そういう言説である。

しかし、洋服を実際に見て試着してから買いたいという生活習慣は我が国においては根強く、それは中国人が市場で食材を見てから買いたいと思うのと同じことだろう。

また、キャッシュレス化が異様に高い国は偽札が多いとか、現金を持ち歩くことが危険だとか、民衆が銀行を信用していないとか、そういう背景がある。それも無視して我が国もキャッシュレス化すべきだと言ったところで生活習慣は変わらないし、我が国の貨幣に偽札は増えない。

「一方的な正しい理屈」だけではビジネスは成功しないということである。

 

お盆明けは17日から更新します。

 

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 comment
  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/08/12(金) 12:32 PM

    なんちゃらエモンが逮捕前にフカしてましたよね
    「山手線の中をぜんぶwi-fi化する!」

    これと同じレベルじゃないですか?
    んで、金だけ集めて何もやらず・最後はなむ~www

    小規模ベンチャーでワンピやドレスのような式服レンタルが
    そこそこ上手くいった時期があったんです

    しかも高学歴な連中がやってましたから

    それに流行りのwサブスクを足したのが
    今回の案件だったのでは?

    にしても「買ったほうが安い・しかも今や日本全国どこでも
    手に取って買えるレベルのもんを誰がレンタルするんだ?」

    とひとこと教えてあげる人はいなかったのでしょうか?

  • BOCONON より: 2022/08/12(金) 1:48 PM

    少し前話題になったユニクロの高校制服は,実際導入した学校の保護者からはおおむね「安くて助かる」と好評のようでありますね。僕も従来の制服はちょっと高すぎると思っていた,とは以前書いた通り。
            ↓
    http://blog.livedoor.jp/a_load/archives/56837960.html

    とは言え…ひっでえデザインだなw 特に女子。生徒の立場からすれば,このサイトの最初の方の女子生徒の声にもある通りで「可愛くない。安けりゃいいってもんじゃない」といったところでありましょう。関西人は知らず,関東では「制服で高校選ぶ」って娘は少なからずいるので,上記高校もこれから偏差値が下がって行く惧れなしとしない(本当かいな)。

    ・・・まあ何が言いたいかと言うと「こんなんでいいならいっそ制服なんてレンタルにしてしまえば良かろうに」という話であります。親御さんたちが「安い方がいい」と言うのは「子供たちはすぐ汚すしサイズも変わることが多いから」というのが大きいらしいし,制服のデザインなんてそんなにしょっちゅう変わるもんでもないから,結構レンタル向きなんじゃないか,とシロウトとしては思うのでした。

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