
素材特性に合わせた試験基準がある ~生地には必ずメリットとデメリットが存在する~
2022年8月8日 素材 0
皆さんこんにちは。
USです。
暑い日が続きますね。
外は暑いですが、引きつけ発注型のアパレルや、QR対応が求められるOEM・ODMメーカーはAW(秋冬)、特に冬物生産の真っ只中なのではないでしょうか。厚地のニットや起毛品の織物の生地試験依頼をされている方も多くあると思います。(ボリューミーな編み地で作られたセーターをこの時期に見るとなかなか圧迫感があり、息が詰まりそうになりますね。)
見た目に暖かく、保温性にも優れているニットや起毛品は、秋冬の洋服ではかなりの品番数が展開されます。
それらの素材は見た目に暖かく見え、保温効果も期待できるという特性がありますが、毛玉ができるという素材特性もあります。
素材特性については先日南さんがブログにも書かれてらっしゃいましたし、(『当たり前のことが低評価レビューになってしまうことの弊害』)、ヤマモトハルクニさんもブログで書かれておりましたが(『不良か、良さか。』)、今回は試験目線で書いて見ようと思います。
お二方のブログに記載があるように、素材には特性があります。それをメリットと捉えるかデメリットと捉えるかは捉え方次第であり、そういう物も引っ括めて特性であるといえると思います。
先日のヤマモトハルクニ氏のブログで『第三者機関による性質試験があり、認められるべき基準が存在し、それに準じてデメリットタグなどを作成している。』とありましたが、各アパレルメーカー等の基準では『認められる基準=特例基準』というものが設定されている素材があります。
では特例基準とはどういう物なのでしょうか。
下記に代表的な例を挙げてみます。
<代表的な特例基準>
・摩擦堅牢度
→デニム/コール天/別珍/その他起毛品等に適用する基準
摩擦堅牢度とは白い試験用の生地を擦った時に、どれだけ白い試験用の生地に色がつくのか(色が移るか)を見る試験です。
デニムの染色に使用される染料は色が落ちやすいです。また、コール天、別珍等の起毛品は、起毛しているが故に摩擦係数が高いので摩擦堅牢度悪い傾向にあり特例基準が設けられています。
・ ピリング
→合繊混素材に適用する基準
ピリングとは毛玉のでき方を見る試験です。
ポリエステルやアクリル等の合繊が生地の組成に混じっていると、出来た毛玉が脱落しにくく、生地の上に毛玉が残ってしまいます。
合繊は繊維長の長さが長い物が多く、また天然素材に比べると強度が高いので出来た毛玉が脱落しにくいので特例基準が設けられています。
・物性試験
強度関係(引張・引裂・破裂・滑脱)
→厚地/薄地に適用する基準
生地は分厚ければ強く、薄ければ弱い傾向にあります。
分厚い生地には分厚い生地なりの、薄い生地には薄い生地なりの強度が設定されております。
上記に挙げた特例基準の例は、それぞれの素材特性を鑑みた基準です。
これらを解決するために日々努力を積み重ね、新しい物が開発される事もありますが、多くの場合解決しようとすると、根本を変更しないことが多いです。
例えば、濃色のインディゴデニムの摩擦堅牢度を特例基準以上の数字に改善しようとすると、インディゴ染料を使用せず他の染料を使用したり、樹脂等で物理的なコーティングをしたりすると解決できるでしょう。
しかし、インディゴではない染料で染めた物はインディゴデニム特有の色落ちがなくなってしまいますし、樹脂コーティングをすると生地の風合いが大きく変わってしまう事になるでしょう。
また、ピリングを改善するために施される抗ピリング加工は、一般的には樹脂で加工することが多いと思いますが、樹脂加工をすると本来生地が持っていた風合いを損ねる事になります。(固くなる傾向があります)
風合いの良さで生地を選んだのにも関わらず、ピリングを良くするために風合いが固くなると、その生地を選んで服を作った意味が無くなってしまいます。
このように何かを改善すると、それに伴う犠牲が発生し、全く違うものになってしまう場合があります。
洋服販売に従事されている方は、商品のデメリットタグを確認し、素材の特性を理解することをオススメします。お客様へ商品説明する際に、素材特性を理解することでよりその商品の特性をお客様にご説明できると思います。(例えば、『毛玉が出来やすいというデメリットはあるが素材柔らかいです』とか『毛玉が出来やすいですが、メンテナンス性の高いポリエステルなので洗濯機洗いできます』等)
そうすることでお客様の素材に対する理解も深まり、簡単に「毛玉ができるから悪い素材」という風にならないのではないか、と思います。
残念ながら自分の販売員時代は「毛玉ができること=悪い素材」と捉えており、恥ずかしながら素材特性のことなどは考えたことがありませんでした。
『あちらを立てればこちらが立たず』という言葉があるように、機能・素材・風合い等のすべての分野でいいとこ取りをすることは非常に難しいです。良い部分もあれば悪い部分があるのが当然なので素材特性として受け入れ、それを消費者に認知して頂くことがクレームや返品を減らす近道にもなるかもしれません。
以上USでした!
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