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南充浩 オフィシャルブログ

自社工場を所有するアパレルが成功するには「商品を売る力」が強く求められるという話

2022年7月29日 製造加工業 1

繊維・アパレル業界の人は基本的に、製造関係者は売り場に弱く、売り場やファッション関係者は製造に弱い。本来はこれらが一体とならねば、現在売れにくくなっている衣料品市場でヒット商品を安定的に生み出すことは不可能なのだが、その断絶は深くて広い。

現在、コロナ禍による海外工場の不安定さ、人件費高騰、材料費・燃料費の高騰、円安基調という特殊要因が重なり、衣料品の国内生産ばかりでなく、アパレルの自社工場所有への見直しが起きている。

そこで前回は以下の内容をまとめてみた。

アパレルが自社工場を持つメリットとデメリット

だが、文章を書く技術が拙いため、何となく抜け落ちた部分もあり、今回はその補足をしてみたいと思う。

 

ワールド、TSIなどが自社工場の稼働率を高める計画を打ち出している。単なるOEM丸投げや協力工場との契約増ではあの生産率の向上は到底望めない。必然的に自社工場の稼働率を高めざるを得ないと考えられる。オンワード、三陽商会にしても同様だろう。

ワールド、TSI、オンワード、三陽商会などのほか、旧大手シャツアパレル、旧大手ジーンズアパレルなどは必ず自社工場を所有していた。

自社工場を所有していると、他社との生産ラインの奪い合いをせずに済むし、スピーディーに商品を製造することができる。

他方、一旦売れ行きが鈍ると、毎日どんどん製品は作られ続けるので、多少の生産調整をしたとしても早晩過剰在庫に陥ることになる。

これが大雑把な自社工場を所有するメリットとデメリットである。

 

では、どうして、これらの設立の古いアパレル各社は自社工場を所有したのか、である。

それは、当方も体験したことがないが、1960年代以降2005年ごろまで、洋服は売れやすかったからだといえる。バブル崩壊(91年)で急激に景気が低迷したわけではなく、実際に不況感が強まったのは97年以降で、その97年でさえ百貨店婦人服売り場の売上高は過去最高を記録している。

バブル崩壊以降ですらこの調子なので、バブル崩壊より以前はどれほど服が売れやすかったかが今の若い人たちにも想像できるのではないかと思う。

もちろん当方もバブル以前のことはわからないが、類推すると、衣料品への消費意欲は旺盛だったから大量に作っても売れやすかった。よしんば売れ残ったとしても夏冬のバーゲンをすればだいたい売りさばくことができた。夏冬のバーゲンで残ったとしても年に2~4回程度行われるファミリーセールで投げ売りをすれば売れた。また年に何回か百貨店の催事売り場で投げ売りすればほとんど完売した。

だから自社工場を所有して少し多めに作ったところで、必ず売り捌くことができた。

それどころか、迅速に補充追加を行うためには自社工場を所有した方が効率的だったといえる。

 

しかし、2005年以降、洋服の売れ行きは鈍り、バーゲンやファミリーセール、催事でもすべての在庫を売り捌くことはできなくなった。

そうなると、自社工場を所有していたこれまでの強みは、弱みと負担へと変貌する。

何事もメリットとデメリットは同じなのである。

そのため、90年代以降、特に2000年以降はOEM屋に丸投げするというファブレスアパレルが主流となった。

こちらは、欲しい時に欲しいだけ注文をすれば済むという身軽さがある。発注のない時まで工場の人件費の心配までする必要がない。

 

2010年以降、原料高はジワジワと進んでいたが、2020年春コロナ禍という誰も予想しなかった事態が起きた。

店舗休業による売れ行き不振もさることながら、海外工場の操業停止や物流網のストップなど、こちらの方が想定外の出来事といえる。

そしてウクライナへの侵略によって燃料費の高騰や円安基調が加わったため、国内生産回帰や自社工場復活論が取りざたされるようになった。

 

議論するのは簡単だが、国内生産回帰というのはそう簡単ではないということはこれまで何度もこのブログで書いているので今回は省略する。

自社工場復活というのも現在の状況だけを見るとそれはある程度の正解なのかもしれないが、3年後、5年後、10年後を見据えて考えると果たしてそれが正しいかどうかは甚だ疑問である。

いや、自社工場を復活させること自体に反対しているのではない。どちらかというと賛成だが、3年後、5年後、10年後は世界はどのように変わっているのかわからないし、その時にそれが最適解かどうかは分からないという意味である。

 

で、自社工場復活について考えてみると、現在の国内市場では容易なことではないと考えられる。

作ること自体は難しくはない。

だが、自社工場を所有するということは、同時に「出来上がった物を売る力」も強く求められることになる。2005年以前のように大量に売れる風潮、在庫は値下げすれば容易に売り捌けるムード、これらは現在の市場にはないし、今後もないだろう。

となると、自社工場を所有したアパレル企業やブランドというのは、非常に強い売る力も持たなくてはならないということになる。

これは直販、卸売り問わずである。

直販なら、直営店舗やネット通販でどれだけ売るか、卸売りなら小売店へどれほど売れるか、が重要になる。

大量消費も値下げ処分もはかばかしい成果が望めない衣料品市場において、自社だけ・自ブランドだけは、抜きんでた売り捌く力が求められるわけだから、かなりハードルは高いといえる。

 

自社工場を所有したアパレルというのはある意味で究極の完成形態といえるが、作る力と同時に売る力も求められるということになり、今でいうところの大谷翔平選手ばりのレベルの高い「二刀流」の能力が求められるということになる。これはなかなかにハードルは高いし、これを組み立てる人には、我々凡人(当方は凡人未満だが)とは比べ物にならないほどに高い能力が必要ということになる。

これを完遂できるアパレル企業やブランドが果たして日本国内に現れるのかどうか、当方は外野から眺めていたいと思う。

 

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 comment
  • kta より: 2022/07/29(金) 12:46 PM

    自社工場に自社生産分以上のキャパを持った体制を取って、
    他社分のサンプル~量産対応もするとかじゃダメなんですかね。
    閑散期などに関わらず、通年外注の余裕を持たせて仕事を組めば、
    外野から見たらwin-winなように思います。
    何も自社工場を自社で完結させなくても良いのでは?

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