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南充浩 オフィシャルブログ

アパレルが自社工場を持つメリットとデメリット

2022年7月28日 製造加工業 0

コロナ禍で海外工場の操業や物流が不安定になった上に、原材料費・燃料費・人件費の高騰、円安基調での推移によって、今年に入ってから一層、国内生産回帰ムードが強まっている。

しかし、実際のところ、すでに国内縫製工場は減少の一途をたどっており、それまで受注が継続していたブランドである程度埋まっているため、2020年以降に国内回帰してきたブランドはなかなか工場に受け入れてもらえないでいるケースが少なくない。

先日のワールドの国産比率上昇の件だが、数字のリアリティはともかくとして、自社工場を持っているワールドならある程度は高められることは可能だ。90%はできるとは思えないが某常務執行役員は錯乱しておられたのだろうか?(笑)

TSI、オンワード樫山、三陽商会なども自社工場を所有しているので、国産比率の向上はある程度の水準までは容易に達成できる。

また、国内の協力工場とガッチリと提携しているところも生産ラインは抑えやすい。

 

もっとも苦戦するのは商社丸投げのODM・OEMで衣料品を生産していたブランドである。

当然、協力工場もなければ自社工場もない。国内生産に切り替えるとしたって、やはり同じく商社丸投げスタイルしかやりようがない。

丸投げされた商社はどうするのかというと、国内縫製工場に強いOEM屋・ODM屋にさらに丸投げする。

まあ要するに丸投げの孫請けである。恐ろしいことに孫請け丸投げでは終わらない。この孫請けOEM屋がさらに曾孫請け、非曾孫請けの業者に丸投げするのである。

風前の灯のD2Cが「流通の多層化ガー」と叫んでいたが的外れもよいところで、実際は生産段階が多層化しているのである。

丸投げされた商社から丸投げされたOEM屋が今、国内縫製工場の残された少ない生産キャパを血眼で奪い合っているというのが今の現状である。

 

この現状を見ると、

「やっぱり自社工場を持っていた方が有利じゃん」

と思われる読者もおられるのではないかと思う。

 

しかし、それは早計である。自社工場を持つメリットとデメリットは歴然と存在するし、自社工場を持たないメリットもある。

その辺りをしっかりと考えて、事業を組み立てないと、為替やコロナ禍などの外部要因で生産工場を求めて彷徨い歩くジプシーのようなアパレルになってしまう。

 

その昔、多くのアパレルは自社工場を所有していた。

ワールド、オンワード樫山、TSI、三陽商会などがいまだに自社工場を所有しているのは、その頃の名残である。

また、当方が比較的得意とする(詳しい人は他に多数おられる)専業アパレルも同様だった。例えば、エドウイン、ビッグジョン、ボブソンなどの大手ジーンズメーカーは必ず自社工場を持っていたし、山喜などのシャツメーカーも自社工場を必ず持っていた。

それがいつのころからか、アパレルは自社工場を持たなくなったばかりか、協力工場さえ無くし、OEM屋への丸投げが主流となった。

当方の体感的には90年代半ばあたりからその傾向は強まったと感じている。

ジーンズやシャツなどの専業アパレルはどんどん経営破綻し、会社そのものが無くなったり自社工場を手放したりして今に至る。

 

ではどうして自社工場を持たないスタイルが業界で主流となったのかを考えてみたい。

このブログには様々な職種の方がおられ、生産のプロも多々おられる。そのような方には釈迦に説法だが、そうではない方もおられるので、甚だ簡易ではあるがまとめてみたいと思う。

 

自社工場を持っていると、今回のような生産ラインが確保しにくい時にはかなり強力な効果がある。なにせ自社の工場なのだから。

しかし、一方でデメリットもある。

工場というのは物を作ることが仕事だから、毎日どんどん製品を作り続ける。アパレルで言うなら服を縫い続ける。生産効率が高い工場であればあるほど、出来上がってくる服の枚数も多い。(もちろん人員数にも左右されるが)

自社の商品が売れているときはそれが大きな武器になるが、一旦売れ行きが鈍ると今度は在庫を過剰に増やすことになってしまう。

何せ、工場は毎日商品を生産し続けるのだから。

当然、工場に対して生産調整は行う。しかし、売れ行きが悪いからと言って工員全員を長期間遊ばせておくわけにはいかない。給料も払わなくてはならないから、ある程度の仕事は与える必要がある。

経営破綻した専業メーカー各社は売れ行きが鈍ってこの仕組みに耐え切れなくなったという要素が強くある。

 

そのため、自社工場は非効率的だという風潮が強まり、90年代半ばからアパレル各社はOEM屋を使って生産を外注するようになった。

そうすると、必要な時は生産してもらえるし、必要の無い時は生産をせずに済む。さらにいえば、工場は全くの外部企業なので、定期的に人件費を支払い続ける必要が無い。

要は仕事があるときだけ工賃が発生し、ない時には発生しないというアパレルからすると「夢のシステム」だったといえる。

それゆえに、アパレル各社は自社工場を持っている企業も含めてOEM屋への丸投げ体質を強めて2020年に至ったといえる。

コロナ禍がなく、燃料代の高騰もなく、円安基調も起きていなければ、このOEM屋丸投げシステムは2022年の今でも盤石だっただろう。

しかし、この世には「まさか」が起きる。何十年に一度かの「まさか」が起き、逆転現象が起きつつあるということである。

 

では、このまま国内生産比率を上昇させたり、自社工場を復活させることが絶対的な正解なのかと問われるとそうは言い切れない。

いつ何時、為替が円高基調になるかもしれないし、数カ月後には1ドル=110円台に戻っている可能性もある。

問題はそうなったときでもアパレル各社、各ブランドに国内生産を一定数量残す、自社工場を稼働させ続ける、という覚悟があるかどうかである。

外的要因に流されるまま、国内回帰してみたり海外回帰してみたりしているだけでは、風に流される凧のような不安定さしかない。

 

今、国内回帰ダー、自社工場復活ダー、と騒いでいる面々がどれだけ腰を据えて取り組み、事業を構築できるかが最大の課題といえるだろう。

 

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