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南充浩 オフィシャルブログ

百貨店はしぶといが退勢をはねのける力は無い

2022年7月19日 百貨店 0

個人的には以前も書いたように、日本の百貨店は無くならない。

将来的には都心大規模旗艦店と地域一番店だけが残って、地方・郊外の不採算小型店は全て無くなると思っている。

もちろん、これは今のままの状況で進んだらという前提であり、「まさか」の何かが起これば状況は変わる可能性がある。

話は横道に逸れるが、先週、安倍元総理が銃撃によって暗殺された。

襲撃される可能性は著名人ならだれでもあるが、暗殺されることなど誰も予想していなかった。まさに「まさか」の事態である。こういう「まさか」が起きれば、百貨店の将来像も変わる可能性がある。

最も現時点での現実的な選択は、以前も書いたように、百貨店のブランドステイタスの高さを活かし、外商で富裕層を囲い込み、さらにその子供世代、孫世代の富裕層を開拓して新規客を増やすというやり方である。

もう「〇〇ブランドが日本初出店」みたいなプロモーションではマス層は百貨店に惹きつけられない。

 

さて、百貨店が業績を伸ばし続けていた2005年くらいまでと、百貨店の凋落が顕在化した2005年以降では何が違うのかというと、社会情勢とか国内経済状況とかそういうことは置いておくと、百貨店自体のマインドが全く異なっている。

江戸末期から2000年まで、百貨店というのは常に「最先端の売り方」「最先端の設備導入」を誇っていた。これは梅咲恵司さん著の「百貨店・デパート興亡史」(イースト新書)をお読みになればわかる。

有名な江戸末期の現金掛け値無しという新しい売り方、エレベーターという最新設備を一早く導入したこと、など次々と新しい何かを打ち出して社会にイノベーションを起こしてきたのが百貨店である。

恐らく、昔の百貨店マンは「売れるのだったら何でもやってやる」というアニマルスピリッツに溢れてギラギラしていたのだろう。

しかし、今はどうか。

当方も2010年以降に販売応援やイベントのポップアップ主催などで百貨店の売り場に断続的に立っているが、ものすごく保守的である。「前例がないからダメ」とか「そんな売り方では品位に欠ける」とか。

これは出来の悪い貴族主義と同じで、出来の悪い貴族主義は洋の東西を問わず、だいたいが退廃が極まると滅ぼされてしまう。

そして、当方が見るところによると、今の百貨店内に新しいことを導入して何でもいいから売ってやろうという人は、現場から役員まで一人もいないように見える。

これでは、退勢の百貨店を立て直して回復させることは全く不可能だ。よくて現状維持がせいぜいだろう。

今までのやり方では売り場では売れなくなっている。しかし、今までのやり方ではないことをやろうとすると社内外の前例主義者や品位主義者がうるさく口出しすることになり、何も変わらない。今までのやり方では売れないのに、今までのやり方で売上高を増やそうとしているのが今の百貨店だといえる。

 

百貨店はオワコンか そごう・西武売却にみるしぶとさ: 日本経済新聞 (nikkei.com)

しかし、この見方は短絡的ではないだろうか。多数の取引先を束ね、同じ館の中で統一した世界観を作り上げるのは百貨店くらいだ。複雑な商慣習で参入障壁も高く、強固な富裕層の顧客基盤を持つ。日本の流通史で、戦前から生き延びて多店舗展開する小売業は、スーパーでもコンビニエンスストアでもない。百貨店だ。かつては古着店や呉服店として創業し、時代の変化に対応する形で進化して百貨店という業態に行き着いた。

 

とある。

この記事を書いた記者さんは、少しだけ交流したことがるので、ケチをつけるのは気が咎めるが、これまでの歴史などを振り返ると百貨店は「しぶとい」。これは間違いない。

だが、手形で掛け値売りが当たり前だった当時に、現金掛け値無しという「破壊的な新しい売り方」を提案したことがヒットの切っ掛けとなっているが、それほどの破壊的な行為を今の保守的な百貨店ができるとは到底思えない。

これまでのやり方を汲々として守るだけなら、地方・郊外の小型店は必ず大規模ショッピングセンターに負ける。それは日本人の金回りが云々という話ではなく、大規模ショッピングセンターの方が圧倒的に便利だからだ。商品の安さだけのことではない。品揃えの豊富さ、駐車場の広さ、子供を遊ばせる施設の充実度合、どれをとっても地方の小型百貨店を楽々と凌駕している。

品位は高いかもしれないが、品揃えが少なくて駐車場が狭くて子供を遊ばせる施設が無い地方小型百貨店をわざわざ選ぶような物好きは数少ない。完全に偏屈なマニアである。少数の偏屈なマニアに向けた売り場なら少額しか売れないのは当然で、現状維持に固執すれば百貨店がさらに衰退するのは自明の理だといえる。

 

客の側からではなく、メーカー、ブランド側からしても百貨店と取引するメリットは2010年以降薄れている。

中堅クラスから大手ブランドは、いくらカッコイイことを言っていても「数量を売ってナンボ」である。だから、できるだけ数量を売りたい。数量を多く売るためには、多店舗に卸す(またはテナントを構える)のが最善策である。

だが、現在の百貨店はどうか?

なるほど、伊勢丹新宿店、阪急うめだ本店、横浜そごう、西部池袋、髙島屋難波店などの大規模有力店は存在する。だが、所詮は1店舗でしかなく、大手から中堅ブランドが販売するには、数量としては物足りない。昔、2000年ごろ、百貨店向け中堅メンズブランドの役員が「大型百貨店1店舗に売るよりも、全国に満遍なく10店舗以上ある百貨店に売った方が当社には数量のメリットがある。それは髙島屋、三越、大丸の3社である」と教えてくれたことがあった。

しかし、2010年以降百貨店は閉店して店舗数を減らしており、現在当時と同じ規模で残っているのは髙島屋くらいである。

となると、大手・中堅ブランドは百貨店に全力で納品するメリットはあまりないといえる。広告としてのメリットはあるが数量としてのメリットは無い。

そうすると、大手・中堅ブランドは百貨店との取引に熱はあまり入らなくなるから、百貨店が商品を揃えることさえ苦労するようになる。そうするとさらに百貨店の売れ行きは苦戦する。

これは、大手総合アパレルの撤退後、フロアのスペースが埋まらない今の状況に反映されているといえる。

高度経済成長期、バブル期、90年代と、百貨店には黙っていても有力ブランドの商品が集まっていたが、今はそうではない。そのため、現状維持のままでは百貨店の業績はさらに厳しくなる。

もちろん、百貨店の息の長さに異論はないが、日経新聞の記事ほどには百貨店は楽観視できる状況にはない。

その結論が、都心大型旗艦店と採算の取れている地域一番店が残るという百貨店の未来予想図である。

 

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