MENU

南充浩 オフィシャルブログ

ユニクロの価格戦略は値上げする5品番ではなく値上げしないその他商品に注目が必要

2022年7月15日 メディア 2

メディアというものは、読まれてナンボ、視聴されてナンボ、である。

読んでもらう、見てもらうためには人目を惹きつけるような見出しを付ける必要がある。そのため、ややもすると内容とはかけ離れたセンセーショナルな見出しをわざと付ける。

最近は炎上狙いのような見出しを付けることが珍しくなくなった。毎日辛い物を食べ続けると、それに慣れてしまって、さらに強い辛みを求めるようになるのと似ている。

この手の報道で気になることは多々あるのだが、その中の一つに、ユニクロの今秋からの値上げがある。

 

もうご存知の方も多いだろうが、ユニクロは今秋からの5品目の値上げを正式に発表した。

それについてはこのブログにもまとめたことがある。

・ファーリーフリース(単にフリースと報道するものも)

・レディースカシミヤセーター

・ウルトラライトダウンジャケット

・ヒートテック極暖

・ヒートテック超極暖

の5品目である。

500~1000円の値上げである。

 

で、これに対して「ユニクロ値上げの衝撃」とか「ユニクロが大幅な値上げ」と煽るような見出しの記事が多い。これがエンタメ系・ゴシップ系メディアならわからなくはないが、本来は最も冷静に分析することが求められる業界メディアが率先してやっているのだから、いくら「読まれてナンボ」とはいえ、いかがなものかと思う。

ユニクロのフリース誕生から28年、初の大幅値上げに踏み切る意味 ファストリ岡﨑CFO「妥協したくないという大きなこだわりがある」 (fashionsnap.com)

この見出しも同類である。

 

さて、ここで考えなくてはならないのは、1シーズンであれだけの型数を展開するユニクロが、現在のところ値上げを公表したのはたったの5品番にとどまっている点である。

もちろん、今後の為替の動きや原燃料費の上下動によって更なる値上げや、他品番の値上げはあり得るだろう。

 

また、2023年春夏シーズン以降の価格の見直しについては明言を避けたものの、「値頃感が通じる商品と、そうではないものを一品一品、見極めていく必要がある。商売の精度が益々問われる局面に来ている」とし、円安に歯止めがかからなければ更なる価格改定を視野に入れる可能性を示唆した。

 

との一文がそれを物語っている。

しかし、直近の今秋冬商品に関して言えばたったの5品番の値上げにとどまっており、99%の品番は価格据え置きだと考えられる。(こっそり値上げされている可能性はゼロではないが)

 

業界人も業界メディア人も「ユニクロ値上げダー」と騒ぐ前に、ユニクロが値上げに踏み切った5品番と、値上げを見送ったその他品番について考えてみることが今後の衣料品ビジネスにおいて必要不可欠ではないかと思う。そうでなければ、他社ブランドは今後もユニクロに水を開けられたままということになる。

 

私見を持って言わせてもらえば、今回値上げを発表した5品番は、主力品番ではないから売れ行きにほとんど影響を与えない物に限定されていると考えられる。

まず、ファーリーフリースから見て行こう。

以前のブログでもファーリーかそうでないかの違いは重要であると書いた。ファーリー(毛足の長い)フリースである場合は、必需品と言うよりは嗜好品の性質が強く、1990円が2990円になったところで、欲しい人は買うだろうし、1290円に値下げしたところで要らない人は買わないだろうという代物である。

そして当方は、これがファーリーではない普通のフリースが値上がりしてもさして売れ行きに影響を及ぼさないのではないかと考えている。

たしかにユニクロの看板商品であるフリースは必需品の要素が強い。だが、通常のフリースも主力商品ではなくなりつつある。

理由は売り場構成を見てもらえばわかると思うが、フリースの棚数は年々減っている。特にメンズではかなり縮小されている。これはとりもなおさず、フルジップの前開きフリースが主力商品ではなくなっているという証拠である。だから、仮に普通のフリースが1000円値上がりしたところで秋冬商戦に与える影響は軽微に終わるだろう。

次にウルトラライトダウンジャケットだが、これもフリース同用にもうピークアウトした商品だと考えられる。棚数でいうとまだフリースよりは多いが、もう欲しい人は何枚か所有しており、今後爆発的な売れ行きは期待できない。買い替え・買い足し需要が安定的に見込まれる程度である。

また5990円が6990円に値上がりしたところで、消費者の受ける印象はほとんど同じだろう。どちらにせよ5000円札1枚では買えない。

 

レディースのカシミヤセーターも同様で、それほどメイン商材ではないし、8990円が9990円になったところで買う側の印象はほとんど変わらない。

ヒートテック極暖と超極暖については、必要性のある人にとっては切実だろう。しかし、当方のように防寒肌着を必要としない人間にとってはハッキリ言ってどっちでもいい。この商品に関しては需要がかなり極端に分かれるだろうから、これも全体の売れ行きに及ぼす影響は軽微だろう。

 

こうして見てみると、値上げを発表した5品番は、いずれも看板商品だがピークアウトした物か、メイン商品ではなく全体に与える影響が軽微な物か、に限られているといえる。

逆にベーシックな需要が見込める「通常版ヒートテック」や「ウルトラライトダウンベスト」などは今のところ価格据え置きだから、この割り切り方は大したものではないかと思う。

かなり綿密な計算によって、値上げする5品番を決定したのではないかと思える。

 

さらにいうと、ユニクロが値上げをするのは今回に始まったことではない。

人間の記憶というのは不確かなものなので忘れている人も多いのだろうが、ユニクロのジーンズはもともとは2900円である。

それがいつの間にかしれっと3990円になっており、1000円も値上がりしている。

正確にいうと、2010年頃、1900円・2900円・3900円のスリープライスで「UJ」と銘打ちジーンズを展開した。しかし、あえなく失敗に終わりすぐさま廃止された。

失敗に終わった理由は、値段は三種類あるが商品の違いが分かりにくいためだと思う。1900円と3900円の商品は素材などが何となく違うことはわかるが、1900円と2900円、2900円と3900円の違いが分かりにくかった。

例えばチープな商品は1900円、ベーシックジーンズは2900円、デザイン変化ジーンズは3900円と言う具合に分類すればもっと売れたのではないかと思うが、3つのプライスで一斉に通常のジーンズを発売したところで、どこが違うの?という反応しかない。策士策に溺れるの典型例だろう。

まあ、それはさておき。

このUJが廃止になった後、ユニクロのジーンズは3990円に一本化され今に至る。

 

初の値上げとか大幅値上げという釣り目的の見出しも多いが、業界メディアには冷静で正確な報道を心掛けてもらいたいと思う。

 

仕事のご依頼はこちらからお願いします~↓

SERVICE

 

この記事をSNSでシェア
 comment
  • 男42歳元建築関係 より: 2022/07/15(金) 1:40 PM

    はじめまして。いつも楽しく読ませていただいてます。

    発表はありませんが、ユニクロ公式サイトではエキストラファインメリノのセーターも値上げされてますよ。

  • 通りすがりの者 より: 2022/08/03(水) 4:33 PM

    勉強の為に南さんブログいつも見てます!
    ウルトラライトダウンは今季からスペックが上がったようです。

    ・フィルパワー640⇒750に変更
    ・前ジップ部にすきま風を防ぐ「ウインドフラップ」を採用

    本当に品質の高いダウンに切り替えたのか?測定方法を変えただけでは無いのか?などの疑念もありますが…

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ