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南充浩 オフィシャルブログ

定着し成熟期に入ったといえるネット通販

2022年7月8日 ネット通販 0

どんな目新しい事物も登場してから時間が経過すれば必ず普及し陳腐化してしまう。

その昔、40年前とか35年前とかは、ファミリーレストランは「ハレの日」向けの飲食店だった。

iPhoneも出始めてからの何年間かは新機種が出ると徹夜で並んで買う人がそんなには珍しくなかった。

だが、今はどうだろうか。

ネット通販も同様である。

通信販売という業態自体はさほど目新しさはない。それまでニッセンや千趣会、ベルーナ、ムトウ(現スクロール)なんかが大企業へと成長した。ただ、それまでの通販は雑誌ふうにまとめられたカタログを使って、ファックスやハガキで購入していた。

2000年頃からの我が国でのインターネットの普及によって、インターネット通販という販売方法が生まれた。雑貨や書籍なんかは比較的通販で買いやすい商品だったが、洋服は通販では売れにくいと思われていた。

だが、2022年の今から改めて考えてみれば、大手のカタログ通販各社はそのカタログ内で衣料品を販売しており、いずれもそこそこの売上規模があったのだから、通販で衣料品が売れないはずはないのである。

カタログ通販の衣料品と少なくとも同等には衣料品はネット通販でも売れるはずである。

ただし、ネット通販の衣料とカタログ通販の衣料が等しく売れて合計すると二倍になるということは絶対にない。どちらかが必ず破れて、残った一方が需要のほとんどを奪う形になる。

利便性からいうと圧倒的にカタログよりはネットである。

一方で、老年層にはネットが広がりにくいという欠点もあった。

とはいえ、ネット通販の方が一般的となり、カタログ販売は一部では残っているものの、カタログ通販大手各社自体がネット通販を手掛けるようになった。

 

元々存在しない物が拡大していくと、売上金額は大したことがなかったとしても成長率だけは高くなる。

その高い成長率ゆえにネット通販は注目を集め始め、衣料品のネット通販にも強い注目が集まった。牽引したのはZOZOTOWNの急成長ぶりだろう。

また、長年続く衣料品の販売不振も手伝って、なかば、ネット通販を衣料品販売の救世主かのように捉える向きも多かったと記憶している。

そして、当方はそんな風潮には疑問だった。この世に過去も未来も現在も救世主なんて存在しないし、店頭で売れない物がなぜネットなら売れると安易に考えられるのか。

その一方で、業界側にもまだネット通販を行うことに対して抵抗感を持つ人も少なからずいた。

ところが、2020年春からのコロナ禍で、長期に渡る実店舗の営業休止や営業時間短縮が続き、実店舗での販売力が低下したため、ネット通販の実需が激増した。

当たり前と言えば当たり前で、実店舗が営業していないならネットで買おうということになる。

ネット通販を行っていたアパレルは、実店舗の売上高減収を幾分か補填できたが、ネット通販を行っていなかったアパレルは実店舗の損失をモロに受けた。

この結果、ネット通販は売上高の多寡にかかわらず必要不可欠な標準装備という認識が業界内で進んだ。

だが、標準装備となったがために、ネット通販という売り方自体はありふれて陳腐化したものになったし、顧客の分散化も生じ、草創期のような高い成長率は見込めない状況となった。

それを如実に示しているのがこちらの記事である。

オンラインビジネスが急拡大もEC取引の上昇は一巡…22年「通商白書」 | 通販通信ECMO (tsuhannews.jp)

ただ、コロナ禍は非接触型の経済活動を一方的に押し進めている訳ではない。EC市場の規模が大きい国で、小売売上に占めるECの割合を見ると、感染が深刻化した20年序盤には急上昇したが、その後は横ばいの動きが共通して見られている。

このことから、小売では消費者が購入するものをある程度は事前に決定しており、オンライン店舗を利用することが合理的でも、実際の店舗での消費体験に対する需要は根強く、オンライン消費と実際の店舗での消費が共存していく可能性が高いことが示唆されているとした。

とある。

実際に通商白書のグラフを見ると、各国ともに2020年で急激にネット通販比率が跳ね上がっているが、我が国は21年、22年とそのまま横ばいである。アメリカは21年に下がり、22年にかけてはそのまま横ばいとなっている。

(2022年版通商白書より)

 

警戒感は緩んでいるとはいえ、依然としてコロナ禍は続いており、緊急事態宣言が発令されないまでも我が国の人々は自主的に外出を控える事態が再び訪れる可能性もある。にもかかわらず、ネット通販比率は高まらず横ばいとなっている。

ということはアメリカも含めて、ネット通販を利用する客はほぼ取り込み切ったと考えられ、今後、ネット通販比率が激増するということはなさそうである。ネット通販も定着期・成熟期に突入したと考えた方がよいだろう。

また、次のような記事もある。

通販企業総売上高、5月は4.4%減の1152億円…明らか食品は好調 | 通販通信ECMO (tsuhannews.jp)

健康食品を省いた食料品以外はすべてマイナスに

伸び率を商品別でみると、「衣料品」は前年同月比8.1%減の206億8500万円、「家庭用品」は同5.5%減の130億6700万円、「雑貨」が同3.6%減の587億5500万円、「食料品」が同0.4%減の207億9400万円、「通信教育・サービス」が同18.6%減の11億5100万円だった。

 

とのことで、今年5月単月の統計だが、食品以外はすべて21年5月の販売実績を下回っているということである。特に衣料品は下げ幅が大きく8・1%減となっており、完全にネット通販という販路の新規ボーナスは終了したと考えることが適切だろう。

まだコロナ禍が二転三転する可能性もある中で、ネット通販自体が標準化陳腐化し、当然のことながら衣料品のネット通販も同様だということになる。

もうこれまでのように「ネット通販を始めれば絶対に売れる」とか「大手のECモールに出店すれば何の工夫もなく売れる」なんていう甘い時代は完全に終わったといえる。

今後は、実店舗同様の停滞が続き、手間と暇と金を「適切に」使用した企業だけがネット通販事業を拡大することができ、「適切に」使えない企業は凋落して行くことになるだろう。

 

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