極めて低い参入障壁
2014年5月1日 未分類 0
現在のアパレル業界が抱える問題点は、流通段階の多層構造ではなく、製造段階の多層構造にあると昨日書いたが、逆にそれが業界への参入障壁を低くしているという部分もある。
世間でいうところの規制緩和に役立っているともいえる。
ただし、この規制緩和が業界に携わる人々を幸せにしたかどうかは怪しいところであるが。
2003年ごろ、筆者は小さなTシャツアパレルで広報を務めていたことがある。
もちろん、ここは工場を持たないファブレスアパレルである。
創業者は業界何十年のベテランだが、前の会社で失敗し、再起して起業した。
その会社も今はもう無い。
あるとき、彼がこういうニュアンスのことを話したことがある。
「現在のアパレル業界は製造関係のインフラが極度に整っている。昔みたいに製造に詳しくなる必要もない。ある程度の資金さえ投入すれば、だれでも製品作りができる。参入障壁は極めて低い」と。
たとえば、「こういう商品が作りたい」というイメージを持っている人がいるとする。
しかしこの人はファッション専門学校を卒業したわけではないので、商品のデザインができない。
それでも大丈夫。デザインから製造を請け負ってくれる企業が業界には山ほどある。
そういう企業を指してODMメーカーと呼ぶ。
OEM(Original Equipment Manufacturing)は製造を請け負うだけだが、ODM(Original Design Manufacturing)は商品のデザイン・設計から製造まで請け負う。
このODMメーカーは東京にも関西地区にも岡山にも掃いて捨てるほどある。
これがあるおかげで、デザインの出来ない人でも金さえ払えば商品を企画することができる。
だから、デザインのデの字も知らないようなタレントでもブランドを立ち上げることができる。
ちなみに大手アパレルや大手セレクトもこのODMメーカーを目いっぱい活用している。
大手セレクトにもともとデザイナーは存在しないからこれを活用しなくては商品は企画できない。
大手アパレルは相次ぐ人件費削減でベテランデザイナーは激減し、今は雑誌と街頭スナップの切り貼りしかできない素人デザイナーが少数在籍するのみとなっている。
そういえば、先日知り合いが「50メートル乱と書かれた生地を見て、某企画担当者に『B品生地を発注した覚えはない!』と激怒された(;´Д`)」と嘆いていたが、その程度の知識しか持たない人間が堂々と「企画マン」「デザイナー」ヅラができるのが業界の現状である。
多くの賢明な読者にわざわざ解説するようなことではないが、
「50メートル乱」というのは、「この生地の長さは約50メートルですよ」「この生地の長さは50メートル内外ですよ」という意味である。
実際、生地が50メートルジャストで出来上がることはほとんどなく、49メートルだったり52メートルだったりする。
そういう場合に「50メートル乱」と書く。
まあ、ODMが充実していることで、素人でも企画マンになれる好例である。
昨日、OEMのOEMが存在すると書いたが、これは事実で、
そのバリエーションの一環として「ODMのOEM」とか、「OEMのOEMのOEM」なんていうのも存在する。
また、自社工場を所有するOEMメーカーが「うちの工場を使うと工賃が高いから、お宅で製造をお願いする」と別のファブレスOEMメーカーに持ちかけるようなこともある。(゚Д゚≡゚д゚)エッ!?
こうなると最早、カオスすぎてわけがわからない。
ここにさらに、与信機能を持たない「ブローカー」とか「コーディネイター」とかが多数介在するのが現在の製造段階の構図である。
極度に発達した製造インフラが逆に業界の総素人化を招き、使い勝手の良い多層構造が製造原価率を圧迫しているというのは何とも皮肉な話である。
牙が大きくなりすぎて滅んだといわれるマンモスのような印象を受けるのは筆者だけだろうか。