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南充浩 オフィシャルブログ

イメージと実態との乖離

2014年5月2日 未分類 0

 物作りに詳しくないアパレル関係者からこんな言葉を聞かされることがよくある。

「うちのブランドのジーンズは児島で織られたデニム生地を使用していますから~」

このフレーズを言う人は、物作り、とくにデニムには詳しくないことがバレバレである。
なぜなら、児島にはデニム織布工場がないからだ。

「ジーンズの街」の一つとして知られる岡山県倉敷市児島。
ジーンズに関連した企業がある程度集まっている。

ジーンズアパレル、洗い加工場、生地商社、縫製工場などである。

児島にはあとワーキングユニフォームメーカー、学生服メーカーがあるが、デニム織布工場はない。
だから児島で織ったデニムを使用することは不可能なのである。

デニム織布工場があるのはどこかというと、岡山県井原市周辺、広島県福山市周辺である。
だから「児島で織られたデニム生地を使用」なんて謳っているブランドは偽物と考えて差し支えない。

それにしても「イメージ」というのは恐ろしい物である。
いつの間にか「ジーンズ=児島」のイメージが他の井原、福山よりも定着してしまい、ありもしないデニム織布工場までを多くの人々の脳内に作り上げてしまっている。

それだけ児島に拠点を置く、各企業もしくは商工会議所、行政などのイメージ戦略が上手かったということだろう。もしくは、井原、福山のイメージ戦略が後手に回ってしまっていたのかのどちらかである。

児島界隈にもジーンズのOEM企業がいくつかある。
イメージ戦略が奏功したのか、児島の製造価格は他の地区よりも平均的に高く設定されていると言われる。
ジーンズ製造関係者の中にはこれを「児島価格」と呼ぶ人もいる。

井原や福山、四国などの業者を上手く組み合わせると、児島より安い価格でジーンズを製造することが可能になる。もちろん、児島にも高価格ではない業者が存在することを付け加えておきたいが、必要以上に「児島」を売りにしている業者は総じて製造価格設定が高いと感じる。

さて、同じ国内ジーンズ製造でも地域によって価格差がある。
実は他のアイテムも国内価格差がある。

たとえばニット製造だと圧倒的に大阪南部の泉州地域が全国のどこよりも安いとされている。
実際に、ニットを扱うブランドやOEM業者からはいつも「泉州は安い」と聞かされる。

そこで、泉州のニット製造価格を具体的に紹介したい。

「言うは易く行うは難し!」
http://ameblo.jp/knitkitchen/entry-11825665571.html

大好きなブログの一つ 「ニットキッチン」元社長の奮闘記 である。
上のエントリーで具体的に泉州の価格について触れられている。以下に引用する。

それは、

「国内生産の単価の低さ」です。( ̄□ ̄;)!!ヤスッ!

私も彼も

「ニット」が専門なので

主に「ニット」の話になるのですが、

中でも

国内ニット産地で有名な

大阪の泉州がダントツに安く、

@1,250円で受けるそうです。。((゚m゚;)アワアワ

しかも1型あたり

100枚以下の小ロットでも。。。((゚m゚;)アワアワアワ

とのことである。

1型100枚以下のロットで1枚あたりの製造価格が1250円だというから驚きである。
これならブランド側が最終的に1900円に値下げして投げ売りしても赤字にはならない。

それにしてもブログ内でも触れられているが、この安さは異常である。
仕事がないから価格を下げているという側面もあるだろうが、ブランドと工場の間に何社もOEMやらODMやら、ブローカーやらコーディネイターやらが介入したために、工場の製造原価が下げられているという側面もある。

おそらく、工場とアパレルの間には与信機能もないブローカーやらコーディネイターやらを含めて平均的に数社は介在するのが常態だろう。
それぞれ各社はマージン、手数料を上乗せする。
現在のアパレルやショップは、値下げして販売することはあっても値上げすることはない。

中間に何社介在しようと店頭売価は上がることはない。据え置きであれば御の字である。

中間マージンが大量に発生し、店頭価格を上げられないなら、やることは二つしかない。
原材料費をさらに削り、工場の工賃を下げることである。

こうして原価率20%以下の商品ができあがるというわけである。

「クールジャパン」だ、「国内製造回帰」だ、と業界にはご立派な標語が躍っているが、こんな国内生産の状態を放置していて、「国内製造回帰」もヘチマもない。

地域をブランド化し、高価格を設定している児島地区のやり方は意外に正しいのかもしれないとも思える。
しかし、実際に尋ねてみるとあまり儲かっていない製造企業も数多い。
となると、「児島」を巧みに煽って価格を吊り上げるという営業手法に長けたブローカーやコーディネイターなどだけが潤っていると見るほかない。

これはこれで残念なことである。

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