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南充浩 オフィシャルブログ

新品服の量産無しでは存続できないサステナブルブランド

2022年6月24日 トレンド 0

長らく在庫処分店の手伝いをさせてもらってきた。またそれ以前からも別の在庫処分店とも交流をいただいてきた。

いまだにオフプライスストアと在庫処分店の区別ができないのだが、経営母体でいうなら、在庫処分店は小規模零細業者が多く、オフプライスストアは大手企業が運営しているという違いを感じる。

以前にも書いたが、2000年代半ばに鳴り物入りでオープンしたなんばマルイだが、マルイ御用達のブランド群が2010年以降マス層の支持を失ったことに加えて、コロナ禍による打撃によって、今はすっかり「安物の館」になってしまった。

目玉テナントはユニクロ、ジーユー、100円ショップのセリアだが、今春からはオフプライスストア「ラックラック」も大々的にオープンした。

 

2019年ごろは喧しかった業界メディアと自称識者によるオフプライスストア推しだが、2021年くらいからめっきり見かけなくなった。その一方で、ゲオは「ラックラック」を着実に増やしており、ワールドやオンワードを遠く引き離して独走態勢に入ったように当方には見える。

以前にこのブログで予言した通り、オフプライスストアの覇者はワールドでもオンワードでもなく、ゲオになるのではないか。

オフプライスストアへの異様な推しは何だったのかいまだにわからないのだが、セールスポイントの一つとしてサステナブル、SDGSが挙げられていた。

不良在庫を引き取って安く販売しているわけだから、廃棄削減に一役買っているので環境対応ビジネスと言える側面はある。

それと同じ観点でいえば、小規模零細資本が多い在庫処分店も同様だろう。

 

現在のアパレル企業各社は、リーマンショック以降のアパレル不振によって財務体質が弱っており、別途料金がかかる不良品の廃棄をやりたがらないし、やれなくなっている。そこにコロナ禍による打撃が加わったので、さらに弱っている。さらに不良在庫は廃棄しづらくなっており、オフプライスストアや在庫処分店の存在意義は一層高まっているといえる。

 

しかし、オフプライスストアや在庫処分店を「環境対応」という一点においてのみで過剰に評価するのはおかしいのではないかと思う。

自然界には食物連鎖というものがある。もちろん人間も動物に過ぎないからこの食物連鎖には加わっている。どんなに強い頂点に君臨する捕食者も死ねば単なる死骸になり、これが微生物や菌などによって分解される。オフプライスストアと在庫処分業者はこの分解者の役割を果たしているといえるだろう。

 

環境対応ビジネスをどんどん増やし、新品の量産ブランドは悪なので追放しよう

 

という極端な主張が業界内・業界メディア内・識者内の一部にはあるように当方は感じている。被害妄想に過ぎるのかもしれないが。

だが、オフプライスストアや在庫処分業者と、新品服の大量生産は表裏一体の関係であり、新品服が量産されなくなるとオフプライスストアや在庫処分業者は生存し続けることができなくなる。

分解する対象がいなくなれば分解者たる微生物が死滅するのと同じである。

 

これは「裁断クズ使用ブランド」にも言えることである。

基本的な洋服の生産の仕組みはこのブログの読者ならとっくにご存知のことだと思うが、蛇足ながら説明すると、生地から型紙に沿って洋服となるパーツを切り出す。この作業を「裁断」と呼ぶ。

生地を切ったことがある人ならわかるだろうが、切った際には少しだけ糸くずなどが出る。これが「裁断クズ」と呼ばれる物である。

これまで「裁断クズ」はゴミとして捨てられていたが、この「裁断クズ」を改修して再度糸にして生地を作って、それで服を作るというのが「裁断クズ使用ブランド」である。

 

おわかりだろうか?

裁断クズ使用ブランドが安定的に製品を作ろうとすると、安定的に裁断クズが供給される必要がある。裁断クズを使わないのならそれは「単なる量産ブランド」に過ぎない。既存の大手アパレルブランドと何一つ変わるところはない。

裁断クズ使用ブランドが安定的に商品を作り続けるためには、安定的に裁断クズが発生しなくてはならなくなる。ひいては新品ブランドが安定的に量産される必要があるということになる。

残反ブランドも同様で、残反というのは、製品作りに供給された際に残る使われなかった分量の生地のことである。製品作りが行われなければ残反は生じない。それは単なる新品の生地である。

残反ブランドが安定的に商品を生産するためには、安定的に生地が使い残される必要があるということになる。ひいては、新品服が量産されて生地が使い残される必要があるということである。

残反を使わないのであれば、それは単なる新品量産ブランドに過ぎない。既存のブランドと同じである。

 

何が言いたいのかというと、意識づけや啓蒙活動は結構だが、これらのビジネスモデルは単独では存続ができず、必ず新品量産ブランドとセットでなければならないということをきちんと世間に認識させるべきだと言いたいのである。

新品量産ブランドが悪で、オフプラ・在庫処分・裁断クズ・残反が善という単純な話ではない。

仮に「善」だったとしても、「悪」の存在がないと存在し続けられない「善」だということである。もっと極端に言えば「悪」に依存してしか存在できない「善」に過ぎないということになる。

 

当方は、新品量産ブランドとこれらのビジネスは、業界の両輪であると認識している。

新品量産ブランドが存在することが基本で、その手助けをするのがこれらのビジネスが存在すると思っている。光が差せば必ず影が生じる。そういう認識を持たなければ、業界や経済の基盤たる新品量産ブランドビジネスを毀損することになり、さらにいえば、そこに生地や糸を供給している製造加工業者や縫製を担当する縫製工場など全てを毀損してしまうことになりかねない。

 

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