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南充浩 オフィシャルブログ

素材の備蓄の上に成り立っていたアパレルブランドのクイックレスポンスの脆さ

2022年6月17日 製造加工業 2

遅ればせながらの報告になるが、6月15日から20日まで阪急うめだ本店9階催事場で行われているイベント内にテキスタイル・マルシェが出店している。

縫うを楽しむフェスティバル | 阪急うめだ本店 | 阪急百貨店 (hankyu-dept.co.jp)

 

と言っても規模は小さく、アイピーテキスタイル、大江、林与、松尾捺染のいつもの4社である。

2019年4月に梅田ロフトにテキスタイル・マルシェを出店して以来のことになるので、小規模ながら4年ぶりの開催ということになる。

これまでの開催と異なる点は規模感の小ささもさることながら、事務局が売り場に貼りついていないという点である。なので当方も売り場にはいない。

 

久しぶりに素材メーカーの方、工場の方と搬入時にいろいろと話させてもらったのだが、なかなか状況は厳しい。川下からの受注の減少もさることながら、生地を製造するための糸が手に入りにくいとのことである。

主な原因は2つで言わずもがなだが、

1、アジア地区のコロナ禍による停滞と混乱

2、ウクライナ戦争

である。

中国を始めとするアジア地区での製造、物流の混乱は今も続いていて解消されていない。

 

業界メディアではアパレルの製品納入の混乱が時々報道されているが、洋服のみならずその前段階である生地、糸を確保することも難しい状況が続いている。

付け加えるとファスナーやボタンなどの副資材の調達も遅れているものが多いようで、当方と交流のある某ブランドは昨年11月に予定していた副資材が今年4月になっても納入されなかったという。

海外情勢に加えて、国内では97年の金融危機以降「在庫を持つことは悪」という風潮が高まり、店頭や製品のみならず、その考え方を生地、副資材、糸段階にまでメディアや金融は適用した。

出店者のうちの1人はこう話す。

 

「今の担当の若い銀行マンの経営指導は、とにかく在庫を持つなの一点張りですよ。しかし、今の海外情勢なら糸や生地はある程度備蓄しておかないと即時に入手はできない。小売店頭と同じサイクルで計ることは現状に合っていない。もっと現場を知ってから物を言ってほしい」

 

と憤る。

まあ、たしかに業界メディアも在庫が少なければ少ないほど優秀という風潮で報道しているし、銀行マンは他業種の勤務経験があるわけではないから、通り一遍の教科書通りの指導しかできないから、仕方がないと言えば仕方がないのだろう。

 

しかし、コロナ禍以前は海外の情勢が落ち着いていたから、何とかなってきた。今にして思えば実際は綱渡りだったということに過ぎないのだが。

 

アパレルブランドやSPA企業はこれまで「欲しい物を欲しい時に欲しいだけ調達したい」ということを押し進めてきた。だがそれは生地や副資材や糸の備蓄の上に成り立っていた構図でしかない。クイックレスポンスなんて結局は川上の備蓄の上に成り立っていた砂上の楼閣でしかなかった。

これは電力供給も同じだが、常にトントンで回っていることは一見すると「無駄がなくてエコ」だと思われがちだが、トラブルが起きて少し停滞すると如実に供給不足に陥る。

電力は少なくとも10%くらいは常に余っていることが望ましいと言われるが、それは糸、生地、副資材も含めた全ての物にも当てはまる。

アパレル、SPAが在庫を持たなくなったのと軌を一にして、素材メーカー、副資材メーカー、問屋も在庫を構えなくなった。

それでもこれまで大きな供給不足に陥らなかったのはひとえに海外情勢が何とか落ち着いていたためである。しかし、これからはその常識は通用しない。

 

コロナ禍は落ち着いたとはいえ、完全に収束したわけではないし、新たな感染症が発生する可能性も低くない。またウクライナ戦争の終わりは見えない。

このような状況下が今後何年間か続くと考えられ、「欲しい物を欲しい時に欲しいだけ調達する」ということはできなくなったと認識する必要がある。

 

にもかかわらず、いまだに業界内のアパレル向け著名コンサルタント連中は、

 

「製造業寄りの立場になりすぎるな、店頭の変化に即応しろ」

 

と説く。

店頭の変化に即応しようにも生産リードタイムは昔よりも伸びているし、原料そのものの入手が困難になっているということを全く認識していない。どうやって即応しろというのだろうか。

大量生産は悪だ、受注生産に徹底しろ

という寝言をエコに絡めてよく耳にするが、原料が手に入らないのにどうやって受注生産するのだろうか?洋服の納品が1年先、2年先になっても構わないのであるなら、その姿勢を貫けばいいが、その覚悟を持っているアパレルブランドやSPAブランドがどれほどあるのだろうか?当方の見るところ業界内には1割もいないだろう。

 

はっきりと言えば、SPAブランドや店頭スケジュールに合わせた動きを川上に押し付けてそれが通る時代では無くなったということである。90年代後半から2019年までの20年間はそれが可能だったが、2022年以降はそれができない時代になっており、2019年までの川下の常識は最早通じない。

だから、当方は川下はもっと川上の知識を持つべきだし、川上も川下への知識を持つべきだと思っている。昔は「製造のことを知ると無茶が言えなくなる」と川下では言われたものだが、2022年以降は「製造のことを知らずに無茶を言ったところで実現できない」という世界になった。繊維・アパレル業界の川下の人間こそ認識を改める必要に迫られている。

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2022/06/17(金) 1:50 PM

    うちの会社は金属加工業ですが、ちょびっと樹脂の切削加工もしていて最近はPOM(ポリオキシメチレン樹脂、ポリアセタール樹脂)、通称ジュラコンが全然入荷しなくなってる上に値上がりして困ってます。いわゆるエンジニアリングプラスチックってやつで、ラジコンとかの、ちょっと透明感のある白い樹脂のギアとかはだいたいPOMですが、結構いろんな場所で広く使われている樹脂だそうです。

    金属も全般的に値上がりしていて、ステンレス材なんかは今年は年初から3割くらい上がっちゃうんじゃないかと言われていたりします。服の副資材なんかも樹脂や金属も多そうなので、同じような感じで入ってこなくなっているんですかね。しっかし、これだけ原材料が値上がりすると、いろんなものの値段が上がりそうで怖いっすね。
    ガンプラも値上がりしちゃうかも?

  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/08/29(月) 9:16 AM

    これ、本当に根深い問題で、期中の追加に無理やり対応して
    お客様の信頼を失ったケースが山とあります

    赤文字雑誌にまだパワーがあった頃、掲載・完売・追加で
    服地ね~死ね~wとかいわれて、しょうがないので
    似たようなインチキ服地を何とか押し込んで
    でも価格はおんなじ・服地はアレレ?
    みたいなケースがよくありました

    つうか、汎用性がある服地は60mひと巻で発注元が
    在庫しとけよと100万回ぐらい思いましたね

    でも無茶いうアホに限って「トヨタのカンバンほーしきがぁ」
    とかいうんですよwww

    そしてお客様には、期中の追加物は急造インチキ商品だと
    見破られ、ウニクロその他が繁盛する結果となりましたとさw

    そらそうだ。サーモンピンクがただのピンクに
    ウール80がウール20になってんですから
    でもネダンは同じ

    公正取引委員会様、見逃してくれて有難うアリガトウwww

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