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南充浩 オフィシャルブログ

「残反利用」「裁断クズ利用」ブランドは新品洋服製造の上に成り立っている

2022年6月6日 トレンド 1

最近、エコやSDGs、サステナブルを謳って新ブランドが立ち上げられることが多い。というか、最近の新ブランドはほとんどがこれ絡みである。

結論から言ってしまえば、新ブランドを立ち上げずに、既存ブランドでマーチャンダイジングの精度を高めた方がが実質的には効果があると思っている。

何故なら、既存ブランドならすでに固定客もついており、毎年どれくらい売れるかという見通しも立てやすい。そのデータを基として楽観的な希望的観測を極力排除してマーチャンダイジングを組み立てれば、過剰な不良在庫を作ることは避けられやすい。

数十億円規模以上のブランドで全品番が売り切れるということは難しいから、少し売れ残った物は極力値下げして売り切れば良い。

そういう組み立てが可能である。

ただ、新ブランドとなると、これから固定客を作らねばならないし、一体どれほどの売上高が稼げるのかもわからない。当然、見込みが外れれば大量の不良在庫を抱えるはめになり、最悪の場合は廃棄することもあり得る。国内の場合、コストがかかる廃棄はやりにくいが、二束三文に値引きして在庫処分業者に引き取ってもらうということは普通にあり得るから、かなりリスキーな取り組みだといえる。

丁半博打みたいな新ブランドを立ち上げることは、最悪は環境にも悪影響を及ぼす可能性もあるし、自社の収益を悪化させる可能性はかなり高い。どちらの面から見てもデメリットの方が大きい。

環境ガーというのであれば、海の物とも山の物ともわからない不確かな新ブランドを立ち上げることが最も悪である。

 

さて、この手の新ブランドは最近だと「残反を使用した」か「裁断クズを使用した」ものが多い。

なるほど、残った生地を使ったり、縫製するにあたって生地からパーツを型紙通りに切り出した際に生じる裁断クズを使うというのは「廃品利用」みたいなものだから環境対応だということは間違いない。ほんの一例を挙げると、

 

裁断くずを再利用して新たな衣服を生産、SDGsに貢献する:UpcycleLino (fashionsnap.com)

 

コンセプトストア「ファーストハンド」、倉庫に残っている良質な生地や糸をアップサイクルする新ブランドを販売開始 (fashionsnap.com)

 

まあ、ざっくりこんな感じだ。

これらのブランドの活動、コンセプトを否定する気は毛頭ない。廃品利用はすれば良い。

だが、当方も含めて多くの人が忘れがちなのが、この手のブランドは新品を生産するブランドが活動できてこそ存在が可能だという点である。

おわかりだろうか?

残反や裁断クズを再利用することがブランドコンセプトなので、残反や裁断クズが出なければ、ブランドのコンセプトは変更せざるを得なくなる。

ということは、新品の服が一定量生産され続けなければ、今掲げているブランドコンセプトは変更せざるを得なくなる。

言ってみれば、これらがブランドコンセプトを変更せずに商品を安定供給し続けるためには、一定量以上の新品の服の生産が必要不可欠であるということになる。

新品ブランドが無くなればこの手のブランドも存続できなくなるということで、一見すると新品ブランドへのアンチテーゼのように映るが、実は新品ブランドの生産に支えられた一心同体の存在だということがわかる。異身胴体と言った方が適切だろうか。

繰り返すが廃品利用ブランドを否定しているのではない。

だが、この手の廃品ブランドが善で、新品ブランドは悪かのような見方には決して賛同できない。なぜなら、この手のブランドは新品ブランドの生産が支えているからで、悪に見える部分が無ければ、この善に見える部分も存在できない。まあ、ブランド名は存続できてもブランドコンセプトも商品作りも全く変わってしまうことになる。

 

これは統計があるわけではないからはっきりしたことが言えず当方の感想のようになってしまうのだが、国内外で毎月のように「残反使用」「裁断クズ使用」のブランドの立ち上げが発表されていて、そのブランド数はかなりの数に上るのだが、果たしてこれだけのブランド数に残反や裁断くずを安定供給できているのだろうかと強い疑念を抱く。

そして、皮肉なことにこの手のブランドが増えれば増えるほど、残反や裁断クズの需要も増え、残反や裁断クズを増産しなくてはならなくなるという解決不可能な矛盾を抱えている。

それは漁網リサイクルブランドに対しても同様に疑問を持っている。

以前もご紹介したがこんな偽装も起きている。

 

田村駒が漁網リサイクル生地に不備発覚、返金対応

これなどは、廃棄漁網が安定的に供給できにくいから起きたのではないかと、個人的には考えている。

漁網リサイクル素材でブランドを安定的に運営するためには、廃棄される漁網が安定的に供給される必要が生まれる。そして、当方はこの部分にはド素人同然なのでアホな疑問を抱いているのかもしれないが、廃棄する漁網というのはそれほど安定的に一定数量出てくるものなのだろうか?

 

最近、意識高い系の言説では新しい服をなるべく作らないことが善かのように持て囃されているが、仮にこのまま新品服の製造が減少し続ければ、増えすぎた残反利用ブランド、裁断クズ利用ブランドは商品手当ができにくくなってしまうことになる。

そして、ひいては最終的に、糸製造、生地製造、染色整理加工などすべての工程が姿を消すことになる。これら川上が姿を消せば残反も裁断クズも生じないということになってしまう。

漁網リサイクルブランドにしてもそうで、新品の漁網製造が無くなればリサイクルすべき漁網も無くなるということになる。

 

この手の廃品利用活動自体は興味深いものだが、それらの商品供給は新品製造の上に成り立っているということを忘れてはならない。

 

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 comment
  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/09/02(金) 8:56 AM

    残反利用前提だと、残反を利用しやすいアイテム専業しか
    可能性がないと思います

    アパレルの業態・つまり一定の生産量とサイズ展開を前提と
    するには、無理があるのでは?

    したがって実質単品オーダー専業の業態ぐらいしか
    私には考えつきません

    発注者が残反をある程度積んどいて
    受注のたびに仕様書とセットで工場に送るような業態です

    生産効率・販売効率を前提とするアパレルには無理があると
    思うのですが・・・

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