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南充浩 オフィシャルブログ

シーインとZARAを巡る過大評価

2022年5月31日 企業研究 0

人間は誰でもほぼ自分の身の周りのことしかわからない。

自分の住んでいる地域やかかわりのある範囲のことは何となく空気感も含めて把握できるが、かかわりのない範囲のことは理解できない。

そのため、国内でも縁の無い地域のことは知らないことが多い。行き来のない外国のことになれば猶更だ。別に日本人の理解力が劣っているとは思わない。外国人だって同様だ。

我々日本人がフランス人はいつもフランス料理を食っていると勘違いしているのと同様に、いまだに日本にはニンジャやサムライがいると思っている外国人もいる。人間なんてその程度である。

 

国内からは海外の衣料品産業の全貌は見えにくい。まあ良くご存知の方もおられるだろうが、それを全員に共有できるわけでもない。

そのため「外国では」のキャッチフレーズを飯のタネにしている外国出羽守と呼ばれる方々も国内には多数おられる。

衣料品産業ネタでいうと、外国出羽守の方々が「素晴らしいシステム」として称賛し続けるのが、ZARAと最近ではシーインである。

もちろん、両者の売上高の大きさは賞賛すべきものだが、欠点が無く完全無欠の存在であるかのように吹聴することは百害あって一利なしだろうし、そのように両者を認識しているのであれば、理解力に問題があるということでしかない。この世に完全無欠の存在は無い。

 

2018年に設立され、あっという間に世界売上高1兆円に到達したネット通販専用の中国ブランドが「シーイン」である。その成長のスピードは素晴らしいものだし、驚異であることは間違いない。

だが「若い学生は100%シーインを知っていて買っている」ような過剰な称賛は全く意味がない。敵を知ることが戦略の第一歩だが、過小評価することは当然論外だが、過大評価することもまた論外なのである。敵の実情を正確に知ることが重要である。

 

たしかに我々オッサン世代が考えているよりもシーインは日本の若い世代に浸透している可能性は高い。だが、ブランド名の認知度はさほど高くはなさそうだというのが、当方の身の周り調査である。

今年2月、当方が非常勤講師を務めるヒューマンアカデミー大阪校の生徒が卒業前のリアルショップを1週間営業した。大儲けはできずとも損が出ないようにするために、商品は古着や格安ショップで買い付けてきたものばかりだ。このイベントの担当ではなかったが、それでもいろいろと手伝いをした。

扱う商品を見ていると、「シーイン」のタグの着いた商品が何枚もあった。学生たちに尋ねてみると「ネットで安かったから買いました」とのことで、「ブランド名は知りませんでした。『シーイン』というんですね。初めて知りました」という返事だった。

同様に、複数のファッション専門学校で非常勤講師を務めている深地雅也さんに尋ねても「アンケートで尋ねてみても学生の全然はシーインを知らないですね。今年は1人だけ知っていると答えた生徒がいましたが『シェイン』と呼んでいましたね」とのことで、当方の身の周り調査とほぼ同様だったことが確認できた。

とすると、シーインの成長は、ブランド名の認知度を高めることではなく、安さで消費者の目を惹きつけたことによるものだと考えられる。そしてその安さを実現できる理由は、過剰な大量生産ではないかと考えられる。なぜなら、一時期、「2枚目99%オフ」というほぼ2枚目無料という売り方をしていたからだ。

 

 

これはフォーエバー21の末期状態と同じ売り方である。2枚目を無料にする理由は、過剰在庫を残して有料で廃棄するくらいなら無料で配布した方がマシだからである。

「超優秀なシステムがあってマスの消費者の一人一人の需要を把握して正確な商品を個々に安く提案できているから」では全くないということである。このシステムは理想だが、実現することは衣料品の製造工程から考えると不可能だと当方は考えている。

 

またZARAである。ZARAは10年前くらいから様々なエラい業界の先生方に称賛され続けている。

ZARA無双とか無敵のZARAとか言われ続けているが果たしてそこまで無欠な存在なのだろうか?例えばこの記事。

 

「ザラ」、英国のオンラインストアの返品を有料化 不満の声多発

 

 

「ザラ(ZARA)」はこのほど、これまで無料としていたオンラインストアの返送料金を、英国で1.95ポンド(約310円)と有料に変更した。日本でも、3月21日から有料となっており、自宅からの返品には490円の手数料がかかるとウェブサイトに記載されている。

とある。そして次の一節はこれまで国内のエライ人達からは伝えられていなかった反応である。

「ザラ」の今回の変更をめぐってツイッターでは、ヨーロッパ圏を中心に消費者から不満の声が上がっている。返送料金の有料化に対するものに加えて、サイジングに関する指摘が多発した。ツイートの中には、「一貫性のないサイジングが原因」「サイズ感を均一にしてくれれば、そもそも返品しないで済むだろう」「サイジングがめちゃくちゃなので、『ザラ』で洋服を買うときはいくつか買う必要がある」という投稿が見られた。

当方は元々ZARAの商品が好きではないが、同様の人も世界的に少なくないのだということがわかる。それでも世界1位の売上高があるということは店舗数の多さとか、日本を除いた展開地域では「ZARA以外にはまともなファッションブランドが少ない」という理由があるのではないかと考えられる。

シーインにしろ、ZARAにしろ、国内では「システム」を称賛する先生方やメディアは多いが、売れている理由はシステムではないだろう。「システムが素晴らしいから服を買う」なんていう変態消費者はほとんどいないからだ。

 

それと、この記事にはもう一点興味深い記述がある。

 

配達サービスを提供するNシフト(NSHIFT)によると、1件の返品手続きにつき、小売業者はおよそ20ポンド(約3100円)の費用を負担しており、オンラインで購入した商品の内、3品に1品は返品されているという。ヨーロッパでは特に、返品することを前提に複数の商品を購入するケースも多い。

 

国内では欧米のネット通販消費の高さを先進的だと羨望する声も多いが、3分の1が返品されるという状態だということを理解しているのだろうか?返品率は30%強もある。この状況のどこが先進的なのだろうか。

 

成功企業について学ぶことは重要だが、過大評価はすべきではないし、過大評価にポジショントークを一つまみ混ぜて風説の流布をすべきではない。実情が捉えられなくなり、ひいては国内の衣料品産業全体をミスリードしてしまう。

 

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