終わるべくして終わったZOZOSUIT
2022年5月25日 ファッションテック 0
ネット社会になって、ブームが短期間に拡散して短期間で終了してしまうことが増えた。
ノームコア論争もそうだし、ネット通販ブームもそうである。D2Cや売れない売らない店なんかも近々死語になってしまうと見ている。
そんな一つにこのZOZOSUITも挙げられる。
鳴り物入りで始まり論争を巻き起こしたZOZOSUITだったが、2020年にはすでに忘れ去られた存在となっていが、ついに終了することになった。これだけ忘れ去られたなら終了して当然だろう。
「ゾゾタウン」を運営するZOZOは5月24日、身体計測の「ZOZOスーツ」のサービスを終了すると発表した。6月24日以降、計測と計測結果の閲覧機能が利用できなくなる。
とのことだが、終了しても困る人は数少ないだろう。
そもそも、このZOZOSUITは「オーダーメイド」を謳ったPBとセットでなければ、大きな需要は無かった。なぜなら、既製服の通販に関しては、ZOZOSUITが忘れ去られてからも衣料品のネット通販はそれなりに売れており、サイズ計測で物凄く困ったという声はさほど出ていない。それを考慮すると、通常の既製服の通販にとっては「あれば便利な部分もあるが無くてもさして困らない」というツールだったといえる。
ZOZOのPBについて振り返ると「短納期のオーダーメイド」とは謳っていたものの、実際はフルオーダーでもなく、パターンオーダーですらなく、あらかじめ何百SKUという膨大なサイズを作り置いて早期に発送するという仕組みで、当方はこれを「オーダー」と呼ぶことすら抵抗感があった。
ただ、出品手前で少しサイズを手直すできるというメリットを考えると、ZOZOSUITとセットになる効果はあった。
しかし、既製服のみの販売になると、そこまで細かいサイズ修正は出てこないから、別段ZOZOSUITを含めた特別な計測装置は不要となる。
また、2015年以降のビッグサイズ・ルーズシルエットのマストレンド化、定番化は厳密なサイズ計測を不要にしているという点も、この計測スーツの存在が状況にそぐわなかったといえる。
当方もネット通販で衣料品を毎月買って、自分なりの感覚を掴むようにしているが、ビッグサイズのカジュアル服だと1㎝とか5㎜のサイズ差など気にする必要は無い。どうせ、5センチとか7センチとか大きめに作られている。7センチのゆとりが6・5センチや6センチになったところで、着用には全く問題がない。
では、なぜPBが失敗に終わったかというと
1、レディース客の方が多いのにメンズ服メインで開始した
2、ZOZOに物作りのノウハウが乏しかった
3、「ミリ単位の精度」という標語が衣料品の現実に即していないとともに、そこまでサイズにこだわる人はすくなかった
などではないかと当方は見ている。
まず1についてはターゲット設定のミスである。というか、外野たる当方の目には、創業者だった前澤氏の趣味によるところが大きいとしか思えなかった。
次に2であるが、ZOZOSUITの当初の計測の不正確さと重なった部分はあるが、メーカーとしてのノウハウが欠如していて衣料品としての品質がそこまで高くなかった。
いかにも製造には詳しくないテック企業の製品だというふうに映った。なぜ製造系に詳しい人材を補強しないのかと思ってみていたが、当時の首脳陣の顔ぶれを考えると、補強したところで不協和音を生じたことだろうと思っている。
工場を買収するとかスマート工場を立ち上げるとかそんな話題も聞こえてきたが、どちらも実現しないままに終わった。もっとも買収に関しては、ZOZOに買われてもいいという工場がほとんど無かったとも噂には聞いている。
そして3であるが、生地というのは基本的に1ミリや2ミリの伸縮性がある。ニットならもっと伸縮するし、布帛でさえ2ミリくらいなら伸縮性がある。
となると「ミリ単位の精度」なんてものは実際には必要がない。電子部品かなにかと間違っていたのではないか。そしてサイズというものに対して、そこまで「ピッタリ合った物が着たい」と言う人がマスには少なかった。例えば、標準サイズでは適合しない体型・体格の人はたしかにおられるが、その人数が多いのかというと、決して多数派ではない。
となると、需要としてもマス化しにくいということになる。また、ビッグサイズ・ルーズサイズの定着化ということがそれをさらに需要を削ったといえるだろう。
もちろん、小さいサイズ服、トールサイズ服、ユニバーサルデザインブランドが開発されている現状を見ると、そういう需要はたしかにあるが、ZOZOTOWNというマスターゲットのネット通販が取り組むには市場としては小さすぎたといえる。
この記事の見出しには「衣料品革命」とあるが、当方からすると到底、衣料品革命とは思えなかった。理由としてはまったく斬新な方法で短納期オーダーを完成させたわけではなく、多サイズ作り置きという既存の不味い手法を新しく見せかけただけに過ぎなかったからで、衣料品革命というよりは「サイズ計測革命」を目指していたのではないかと思うが、既製服の販売とルーズシルエットの定着化によって、サイズ計測というのはさほど重要なファクターでは無くなっていたため、短命に終わったといえる。
もちろんサイズ計測などのこの手の技術開発は今後も進めるべきだし、継続する意義はある。
だが、煽り気味のプロモーションと報道は却って本質が消費者には伝わりにくくなる。ZOZOSUITは終わるべくして終わったとしか言えない。
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