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南充浩 オフィシャルブログ

その「小銭」を値切る意味はあるの?

2022年5月24日 製造加工業 1

低価格ブランドを例外として、OEM業者・ODM業者(以下OEM屋に統一)からその上の価格帯であるブランド群の製造に関するやり取りを聞いていると、疑問を感じることが多々ある。

その一つとして「非常に細かい小銭を値切りたがる」というものがある。

1枚当たりの製造コストとして例えば3000円とか4000円という価格が提示されたとする。これらの商品はだいたい店頭では1万円とか15000円とかで販売されることになる。

これを値切る際、500円・1000円を下げてくれという要望なら理解できないことはない。まあ、実際、4000円で製造した商品(もちろんOEM屋のマージンも上乗せされている)を500円も値引くことは難しいが、その気持ちは理解できないではない。

だが、50円、100円、200円という小銭を値切りたがるブランドは世の中の川下の人が想像しているよりもはるかに多い。

3000円が2950円になっていかほどの削減効果があるのか疑問である。

しかも、これらのブランドは、低価格ブランド群とは異なり、1型あたりの生産数量は少ない。だいたい100枚が標準である。売れ残り在庫が発生するのは怖いからだいたいの場合は初回投入の100枚を生産したらお終いで、次回からはモデルチェンジということになる。

1型100枚しか作らない商品を1枚あたり50円の値引きをしたとして、トータルの削減額は5000円にしかならない。まるで中学生の小遣いレベルである。

サイゼリヤで飲み会を2回できる程度でしかない。

そういえば、コロナ時短も終わったので、久しぶりにサイゼリヤで500mlのデカンタワインとパスタ・ピザ・一品で飲み会でもしてみたいと最近は思っている。3時間くらい飲み食いしても一人当たりの代金は2500円くらいである。高くても3000円である。

で、このサイゼリヤ飲み会2回分に相当する5000円を削減したところで、いかほどの効果があるのだろうか?甚だ疑問である。

 

これは当方の作り話ではない。

実際に5年くらい前にOEM屋の商談に同席した際に起きたことである。

5年くらい前というとコロナ禍の影も形もなく、まだインバウンド需要が絶好調だった時期で、コロナ禍の現在ほど生産数量が絞られていた時期ではない。

その時期ですら、「好調」と言われた一握りの中価格帯ブランドを除くと、その他大勢はこの有様だった。

これが1型1万枚、2万枚の生産なら理解はできる。1万枚なら50万円の削減となるし、2万枚なら100万円の削減になる。これくらいの数量があるとコスト削減効果は出る。

 

一般的に自動車も含めた機械系の工業製品の1部品あたり0・5円とかいうシビアな値下げ競争は莫大な数量がその理由となっている。

池井戸潤さんの「7つの会議」だったと記憶しているが、事務椅子メーカーに部品メーカーがネジ一本当たりの価格を0・5円くらい(記憶が不正確)値切られるというシビアな商談シーンが描かれるのだが、ネジという部品の莫大な数量だと総額で100万円とか500万円とかの削減額になる。

そのため、このような「小銭」を値切るという事態になるのだが、大ロットを生産する低価格ブランドを除くと、国内ブランドで1型あたり1万枚をコンスタントに生産しているブランドはほとんどない。

インバウンド需要に沸いていた時期ですら、1型100枚くらいの中価格ブランドの発注は普通だった。1000枚に到達すると「大ヒット」と呼ばれていたほどである。

ではなぜ、機械部品メーカーとは言わないまでも、こんな不可解な「小銭」を値切ろうとするのか、である。

 

これは当該のOEM屋から説明を受けたのだが、理由は「〇〇率」での管理手法だという。

この場合は製造原価率という数字が当てはまるのだが、本社が製造原価率を計算すると「本社基準よりも」1%とか2%とか高くなってしまうことがある。

その帳尻を合わせるために1%分とか2%分に相当する50円を削減するのだそうだ。

だが、実際に総額5000円を削減したところで大したコスト削減にはならないし、製造原価を50円値下げしたところで店頭販売価格を大幅に安くできるわけでもない

また、OEM屋の心証を悪くさせ、今後、関係性が悪くなるだけであり、三方良しどころか、三方悪しである。

 

我々は普段、ビジネスの効果を判断するときに二つの数字を使う。

実額と〇〇率である。

〇〇率そのものが悪とは思わない。比率がわかれば、あとどれくらいで達成できるのかできないのかという判断もしやすい。

しかし、〇〇率のみを重要指標(KPI)として異常重視してしまうと、このような総額5000円のように中学生一人分の小遣いを削減して、OEM屋との関係性を悪化させるという事態が起きてしまう。

例えば「プロパー消化率」も同様だ。定価販売は重要だが、プロパー消化率となると、様々なごまかしが可能になり、%だけは高くなるということになる。かつて某マガシークの社長が「割引クーポンの発行はプロパー販売を助ける」という迷言を発しているが、割引きクーポンは販管費計上するから販売した時点においてはプロパー販売としてカウントできるということを指しており、いかに「率だけを重視すること」が無意味なのか理解できるだろう。

一般的に

「有能な詐欺師は数字を使う」

と言われるが、言いくるめることが上手い詐欺師にも似た人物やマスコミは、実額と〇〇率を巧みに入れ替え、提示しながらターゲットを絡めとったり、世論形成をしたりする。

〇〇率というKPIを異常重視したがる経営者・管理職は用心すべきだろ。

 

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  • とおりすがりのオッサン より: 2022/05/24(火) 12:02 PM

    前にも書いたと思いますが、うちのダメ金属加工工場の取引先に、名経営者と讃えられる永守重信の日本電産の子会社があります。そこは、数百個以下の試作品でも見積り価格を2~3割は割り引けと毎回交渉してくるんで、面倒だから最初から3割増しで見積り出していますw
    値引き交渉もわざわざ最初に依頼してきた人の上司が出てきてメールでやり取りするので、こっちは二度手間で面倒ですが、何やら日本電産系列だと値引きが成績になるそうで、毎回毎回値引きしてくるんだとか。ホント、頭悪いっすw

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