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南充浩 オフィシャルブログ

「不変の定番衣料品」は存在しないという話

2022年5月20日 トレンド 1

「サステナブルガーの人たち」や「KPIはプロパー消化率な人たち」は「定番を長期間売れ」という主張をする。

理由は、たとえ売れ残っても複数年売れるからということになるのだが、何の変化もさせない服を5年間、10年間と売り続けることは難しい。

実際に、各ブランドともに「顔」「看板」ともいうべき「定番商品」を持っているが、研究熱心なブランドでは毎年、サイクルの長いブランドでも3~5年でモデルチェンジしている。

リーバイスの501は定番服の代表だが、それでも数年おきにモデルチェンジしており、股上の深さやシルエットなどが修正される。

また、ユニクロの定番の無地スエットシャツもパッと見た感じは変わらないが、10年前の物と今の物では大きさが全く異なる。

10年前はまだピチピチブームだったころで、この当時のスエットシャツをいまだに持っているが、ピチピチである。今のサイズ感でいうと身幅はSサイズかXSサイズである。

今の無地スエットシャツは極端にではないが、ルーズシルエットになっていて、当方でもMサイズが着られるし、Lサイズなら楽々着用できるほど身幅は広がっている。

 

若者向けであるジーユーはもっと極端だ。2016年まではピチピチ、2018年以降は当方のようなゴツいオッサンでさえMサイズすらダボダボと感じるほどにビッグサイズになっている。

同じ無地半袖Tシャツと言っても、たった2年間で2サイズぐらい身幅が広がっている。

このように「定番」と言ってもマストレンドの方向性によってサイズ感は大きく変わるわけで、何年間も何十年間も不変のまま売れ続けるような服というのは基本的には存在できない。

それは当たり前で、マス層に売りたいというブランドが、マストレンドを無視して「世の中はルーズシルエットが大衆層に浸透しているが、当ブランドはピチピチシルエットを維持する。しかし、マス層に大量に売りたい」という主張は何の意味もないことがお分かりいただけるだろう。

マス層に売りたければ、いくら定番といえどもその時のマス層に合うように修正する必要に迫られる。

マス層への迎合をしなくて済むのは、マス向けではない中小規模ブランドに限られる。自社・自ブランドの売上規模によって左右される。

ビンテージジーンズブームがはるか遠い過去になっても、売上高を縮小して生き残っているブランドもあるし、ヘビーオンスジーンズブームが過ぎ去っても残っているブランドもある。それらは決してマスには売れていないが、コアな一部のファンに支えられて中小ブランドとして存続している。

これはこれで一つの立派な生き残り策といえる。

 

当方が否定しているのは、「マスに売りたいけれど『定番』と称してマストレンドに対応しない」という姿勢やブランドに対してである。

 

そして、多くの人があまり考慮していないように見えるのが、生産背景の時代による変化というファクターである。

これによって、定番も変わらざるを得ないという場合は少なくない。

2011年に綿花価格が史上最高値にまで高騰したことがあった。そこからしばらくのタイムラグがあり、早いブランドで2012年春夏から、遅いところでも2013年春夏くらいから、定番商品の素材組成が変わった。

綿の配合比率が下がったのである。それは「定番品」も同様だった。

これまで綿100%だった生地が綿・ポリエステル混などの複合素材に変わったのである。それは高額な綿花の使用量を減らし、生産コストの上昇を抑えるための措置だったと考えられる。

例えば、先ほども述べたユニクロの無地スエットシャツの使用素材も2014年くらいまでは綿・ポリエステル混に置き換えられた。

いくら「定番の良さがー」と言ったところで、原料が手に入らない、または価格上昇をなるべく抑えるのであれば、複合素材への置き換えは仕方がない。

また、縫製やその他の加工場が無くなってしまうことで、これまでの仕様とは変えざるを得ないという事態も生じるし、日本国内の工場に頼っているブランドなら今後それが起きる可能性は極めて高い。

日本国内の製造加工場の総数は今後減ることはあっても増えることはないからだ。

 

幸い、現在はマストレンドの変化が遅い。特にメンズ衣料品なんてこの3年間くらいはほとんど何も変わっていないように見える。

例えばジーユーの店頭、商品は2019年当時と比べて何も変わっていないように見える。無印良品なんて何の変化もないことがもっと顕著である。

ユニクロだって同様だ。

また、最近はベイクルーズの公式通販サイトで「アウトレット」に分類された型落ち値下げ商品を買っているが、2017年物、2018年物を今見ても何の違和感もない。

毎月4000円分を買っているドットエスティも同様で、2年前・3年前の値下がり商品を見ても、2022年物と全く遜色がない。

こういう点においては、定番品は長く売れるかもしれないが、素材背景や生産背景のことを考えると、自ずと変化せざるを得ない可能性の方が高い。

特に綿花価格の高騰は11年前と同様に続いている。そして円安傾向がいつまで続くのかがわからない。今日現在は1ドル=127円前後だが、これが半年間続くのか1年間続くのかは不明である。

まあ、1ドル=150円とか200円になるようなことは短期的にはないが、この手の言説で煽ってPV数稼ぎや視聴数稼ぎをするポジショントーカーは数多くいる。ちなみに10年くらい前には逆に1ドル=80円くらいまで円高になったが、その当時も1ドル=50円にまでなるというようなポジショントーカーたちはいた。

横道に逸れたが、そういう背景で定番も変わらざるを得ないというのが直近の状況である。

また、このところの無印良品の衣料品苦戦やジーユーの前年割れなどを考えると、変わり映えの無さがいかに売れ行きを停滞させるかということである。この点も考慮する必要があるだろう。

 

「定番と呼ばれる物を大量に作り込んで何年間もかけて売り切る」という手法が衣料品ビジネスにおいて、ブランドの規模にもよるが、決して全てを解決する妙案であるとは言えないということである。

 

 

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 comment
  • BOCONON より: 2022/05/20(金) 6:10 PM

    いわゆるトラッド系ブランドの,たとえば三ボタン段返りの紺ブレザーなんて “定番商品” もバブル時代のものは今見ると少しルーズなシルエットですね。言うまでもなく例の “ソフトスーツ” ばやりのせいである。20年位前はスーツ等のジャケットと言うと三つボタンのものしかないような塩梅で「三つボタンは日本人には似合わない」と思っている僕は買いたいものがなかなか見つからなくて弱った。
    あるいは一般にスーツやジャケットの襟も10年単位くらいで広くなったり狭くなったりするので,それにつれてシャツの襟の幅やネクタイの太さも変わって来るので,昔のファッション雑誌見るとネクタイの結び目が大きいのにびっくりしたりする事がある。僕も,昔のネクタイは直しに出して幅をつめて着用したりしています。
    20年位前はスーツは三つボタンのものしかないような有様だったし,最近は細身ばやりだったせいで,スーツのズボンもほとんどノータックのものしかなかった。僕は尻が小さすぎるのでその方が助かるようなものだが,全体に細いズボンは穿きたくないのでちょっと困った。
    ・・・と云った調子だから,洋服に限らず何でも(思想哲学に至るまで)どんなに「流行には乗っからない」というポリシー持っていても,それは完全には無理というもんであると思います。どんなに独創的な人間や天才だって時代の影響は受けるに決まっているな。

    けれどもだからっていわゆる「定番商品」的なものを軽視するのはあまりよろしくないと僕は思います。商売としてどうとかより,ごくふつうのチノパンだのジーパンだのボタンダウンシャツだの綿のブルゾンだのを「オッサンが着るもの」「オタクが穿くもの」などとバカにしていると,30歳過ぎて「今さら流行に乗っかるのもなあ・・・いい年してスキニーだのワイドパンツなんてどうにも痛いしなー」となった時「と言って何を着ればいいんだ? どこで買い物すりゃいいんだ?」と困惑する事,ほぼ間違いないですからね。ネットのファッションまとめサイト等では「よく飽きねえもんだ」と思うくらいそういうトピックのスレが立っている,というのは以前書いた通りであります。
    つまり若いうち何となくユニクロが推している商品をテキトウに買っているだけだと「おじさんが着るフツーの服とはどういうものか/フツーの格好とはどんなものか」が分からなくなる惧れ大であるということ。「ユニクロはチノとかジーンズとか,案外定番的な商品が多いので少しづつでもそういうものの中から自分に似合うものを探しておくのが良い気がする(ユニクロでなくてもいいが)。でないと感動パンツだのジョガーパンツだのと “一生ユニクロさんについて行きます” 状態になるに違いない」と僕は大きなお世話な感想をどうしても持ってしまうのでありました。「それで何が悪い」と言われたらまあ「悪いとは申しませんのでどうぞご随意にw」としか言えませんが。

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