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南充浩 オフィシャルブログ

衣料品の大幅な国内生産回帰は画に描いた餅に過ぎない

2022年4月27日 製造加工業 1

ウクライナ戦争や円安傾向やら、阪神の大連敗とか、ホットな話題が多いため、新型コロナへの関心が国内ではだいぶと薄れていると感じる。

しかし、依然として蔓延している国も多く、特に中国は躍起になって長期間のロックダウンを行っている。もう4月下旬だがまだロックダウンが続いており、商品の出荷や工場の稼働が停止したままとなっている。

衣料品の海外製造比率は高く、数量ベースでは98%となっており、最近ではアセアン諸国、バングラデシュなどの生産数量が増えているが、依然として中国は衣料品の一大生産地である。

こうなると、経済のグローバル化はデメリットしかない。また円安傾向がこれ以上強まると、海外生産するメリットはゼロになってしまう。

個人的にはやみくもなグローバル化は元から反対しており、経済的に依存しあうことが良いこととは全く思っていなかった。

こうしたコロナのロックダウンや円安傾向を加味して、衣料品の生産地をもう一度国内に回帰させようという意見がある。

その根本的な考え方には賛成するが、物理的に大幅な国内回帰は不可能である。エライコンサルたちは机上の空論を主張しているだけである。

 

基本的に国内の縫製工場は年々減り続けている。

その理由は大きく2つある。

1、縫製工の後継者が不足している

2、工場経営者の後継者も不足している

である。

資金がどうのこうのとか、機械設備がどうのこうのとか、そんなことは根本的な問題ではない。その辺りは行政なりなんなりが支援すればどうとでもなる。

しかし、工場で働く人と経営する人がいなければ工場は続かない。

工員も工場経営者も高齢者が増えており、年々引退して行く。引退すれば後継者がいないから、業務を続けることは不可能ということになる。

 

もちろん、30代~50代の中堅工場経営者もいるが、その次の代ということになると、ほとんどが廃業するのではないかと思う。

実際に同年配の工場経営者に尋ねると、息子には継がせないという人が多い。

仮に自分が経営者だったとしても無条件には継がせないだろう。息子がどうしてもやりたいというのなら話は別だが。

他の経営者も同様ではないかと思う。

 

工場経営者やOEM業界の話を聞いていると、すでに現時点でも国内工場のキャパはパンパンで新規に大ロットが割り込める隙間もない。

これ以上、今のキャパのままで生産が国内回帰しても製品は全く仕上がらない。

 

これをどのようにして解決するつもりだろうか?

大手はお得意の札束攻勢をかけるのだろうか?

 

一昔前までは、国内の工場は大手からの発注があれば、喜んでそちらに乗り換えた。

だが、何度も裏切られた今の工場はいくら大手でもおいそれとは乗り換えない。この10年間毎月少量ずつでも発注して長く支えてくれたブランドを優先する。

そして5年後以降、新規参入する縫製工場や後継が見つかる工場はゼロではないが、それ以上に廃業する工場は増え続けて行く。

 

以前にも書いたが、ワールドが全数量の半数、TSIが3割を国内生産に回帰させたいと発表した。

この手の発表は何かの要因があれば即座に撤回されてしまうほど緩いものだと考えられるが、今のロックダウンと円安が続けば本気で取り組むことになるだろう。

だが、いくら本気で取り組もうともう受け入れるキャパが無い。

唯一の解決策はワールドとTSIが自社工場を設立することである。

 

しかし、業界内では知名度のあるエライコンサルたちはそんな実情を顧みることなく、「やらねばなりません」とか意味不明のお気持ちを表明している。

お気持ちだけで工場が増えるのなら、誰も苦労はしない。お気持ちだけで何とかなるなら、人間はお気持ちだけで空も飛べるようになるはずである。

それにもっと言えば、今の工場がワールドやTSIのために廃業を撤回して、嫌がる息子を後継者にする必要はさらさらない。

 

基本的に大手の要望というのは、あまり信用できない。

今、国産を求めていても今後の海外情勢や為替相場の変動でまた方針が変わるかもしれない。そんな不安定な相手に合わせて無理に操業を延長することはリスクが大きすぎる。

自社工場を設立できないのであれば、大手は10年とか20年は海外生産へ戻ることはありませんというくらいの確約を工場にする必要があるだろう。

そうでなければ国内工場は受け入れないだろう。

 

まあ、気合と根性とお気持ちだけでどうにかなるものでもないし、工場のキャパが増えるわけでもない。

実態を把握せずに「やらねばなりません」というお気持ちを表明するエライコンサルは一体どのような解決策を持った上で提案しているのだろうか?

 

今日は4月27日である。

まだ中国からの物流は混乱したままで、あと2日でゴールデンウィークに入ることを考えると、ゴールデンウィーク前に新商品が店頭に到着する可能性はかなり低いということになる。

今更、本気で生産の国内回帰論が出てきているようだが、もう手遅れだったのではないかと、当方は見ている。

仕事のご依頼はこちらからお願いします~

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 comment
  • ikura より: 2022/04/28(木) 12:18 PM

    いつも楽しく読んでいます。
    中国の面白い記事見つけたので書き込んでみました。

    納期は半分、業務効率は4倍。アリババの未来工場「犀牛智造」が変える服飾製造業
    https://tamakino.hatenablog.com/entry/2022/04/28/080000

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