ゴルフウェアへの新規参入が安易過ぎないか?
2022年4月22日 トレンド 0
衣料品・ファッションビジネスというのは、ビッグトレンドやブームで大きく売上高が伸びる。
過去では96年からのアムラー、90年代後半のマルキューブランドブーム、90年代半ばのビンテージジーンズブーム、2005年のプレミアムジーンズブーム、2008年以降のスキニーブーム、2015年のガウチョパンツブーム、などなどだ。
これらのビッグトレンド、ブームとなったものは、特定のブランド以外でも広く販売された類似品を着用すれば、誰でも取り入れやすい。通常のファッショントレンドというのはそういうものである。
衣料品業界はそういうビジネスモデルにどっぷり漬かってきた。だから、いまだにそういう習性が抜けない。
筍の時期は過ぎたが、雨後の筍のようなゴルフブランドの相次ぐ立ち上げを見ていると、その習性を強く感じるとともにそこに対して危機感を覚える。
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ポール・スチュアートからゴルフラインがデビュー、デザイン性と機能性を両立 (fashionsnap.com)
「エストネーション」からメンズラインがデビュー、ゴルフウェアアイテムを展開 (fashionsnap.com)
スタイリスト樋田直子が新ゴルフウエアブランド「TMG」をスタート – WWDJAPAN
ハッキリ言って食傷気味である。寝る前に大盛焼きそばを食った時と同じくらいに胸やけがする。
TSIのナノユニバースからのゴルフブランドなんて正直意味がわからない。TSIにはすでに何年も前からゴルフブランド「パーリーゲイツ」がある。初心者向けの新ブランドということだが、それならパーリーゲイツに初心者ラインを付け加えた方がよほど消費者にとってわかりやすい。一体何のために同じグループ内の別ブランドからゴルフブランドを新発売するのか理解に苦しむ。
ポール・スチュアートのゴルフラインも一体何のためにやるのだろうか?本体のポール・スチュアートですら、ほとんど注目されていないブランドなのに、そのゴルフラインなんて誰が注目するのだろうか?
2020年春からのコロナ禍によって、売上高が減少している衣料品業界にあって、ゴルフウェアは増収している数少ない分野の一つであることは間違いない。
そのため、衣料品業界の習性で飛びつきたくなる気持ちはわからないではない。また、アパレル企業の経営者連中はゴルフ好きが多いから、ゴルフブランドを始めることに抵抗はないのだろう。むしろ、応援するくらいの気持ちなのではないかと思う。
しかし、ゴルフは「カネあり・車あり・友達あり」のリア充スポーツであるため、参入障壁は高い。たしかにコロナ禍によって感染の確率が低いと思われるゴルフに新規参入する人は増えた。また一部では休眠ゴルファーも再開したとも言われている。
とはいえ、リア充かリア充志向者以外はゴルフには参入していない。非リア充である当方は参入する気はないし、当方の周囲でもゴルフを始めましたなんていう人はいない。
以前もご紹介したこのレポートではゴルフ人口は減っているとされている。
https://www.gew.co.jp/market/g_70529
レジャー白書では60万人くらい減っていると報告しているが、それはもしかしたら正確な数字ではない可能性があることもこのレポートでは指摘している。
だが、ゴルフ業界が独自に集計した数字が無いため、正確な推測は不可能だとしている。
その上で、
気になるのは、より正確な利用税ゴルフ場利用者数が、2020年対象人口以上に減少したことです。減少幅は最近10年間で最大です。
とも指摘している。
利用税ゴルフ場利用者数は減っているというから、どう考えてもゴルフ競技者人口は増えてはいない。むしろ総数では減っている可能性が高い。
ゴルフウェアの相次ぐ増益は、恐らくは、数少ないリア充新規参入者の初回購入分が増えたこと、再開した休眠ゴルファーの買い直しが主な理由ではないかと当方は推測する。
となると、今後の数年間くらいで買い足し・買い直しが完了した後は、ゴルフウェアの売上高は今以上に伸びることはなく、よくて現状維持、悪ければ減少開始ということになるのではないだろうか。
じゃあ、一般人向けにカジュアル用途でウェアを売ることはどうか?と言われると、ゴルフウェアとカジュアルウェアは近しいように見える人もいるかもしれないが、カジュアル用途には全く向いていない。少しでもファッションに詳しい人ならその違和感を如実に感じるはずだ。取り入れられるとするなら、せいぜいが無地半袖ポロシャツくらいだろうか。それ以外になると、どう見てもタウンユースではなく、ゴルフ場帰りの人である。
そしてカジュアルと競合するのであれば特有の高価格もネックになる。全員がジーユー、ユニクロの値下がり品を着ているとは思わないが、マスに買ってもらいたいならある程度の価格競争は視野に入れる必要がある。またカジュアルという分野において、同等価格帯の既存カジュアルブランドと同じステイタス性がパーリーゲイツやら他のゴルフラインには無い。とすると、同等価格帯なら既存のカジュアルブランドの商品をマス層は買う。
どう考えてもこれまで衣料品業界がどっぷりと頭まで漬かってきたトレンド後追いでは売上高は稼げない分野だと思う。
じゃあ、アウトドアウェアはどうなんだ?とおっしゃる業界人もおられるかもしれないが、アウトドアブランドの製品はすでにジャケットや防寒着類で取り入れられて久しい。また実際に山に行かなくても、その機能性をタウンカジュアル用として使う人も定着している。機能性がさほどないゴルフウェアとは定着度合、需要の多さが全く異なる。
【トップに聞く 2022】TOKYO BASE 谷正人代表 「ヨウジの売れ行きは圧倒的」 中国市場戦略を聞く (fashionsnap.com)
―他社ではコロナ禍のライフスタイルに合わせてゴルフやアウトドアの展開が加速しました。
気持ちはわかりますけどね。でもファッションビジネスについてここまで深くやっていると安易に手を出せないなと。仮にゴルフウェア市場に参入したところで、昔からゴルフウェア事業をやっている方々に比べたら文化も歴史も敵わないですし。まぐれで瞬間的に売れるかもしれませんけど、そんなに甘いもんじゃないと思っちゃいますね。ゴルフビジネスと心中するならばありかもしれませんが。
この分析・指摘にすべてが集約されているといえる。
付け加えるなら、アウトドアブランドの透湿防水マウンテンパーカやクライミングパンツ、ダウンジャケットなどに比べるとゴルフウェアははるかに需要は少ない。
既存のゴルフブランドから客を奪い尽くすくらいの覚悟が求められるだろう。
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