「ネット通販はアパレルの成長販路」とは一概には言えなくなってきたという話
2022年4月12日 ネット通販 0
2020年春からコロナ禍が始まり、戦後史上初となる大規模かつ長期の実店舗営業休止が起きた。
実店舗の営業が休止するわけだから、日銭は稼げなくなる。EC(いわゆるネット通販)を展開していたブランドは何とか一部分だけでも穴埋めはできた。ECをやっていなかったブランド、ほとんどやっていなかったブランドは一部分の穴埋めさえできずに、実店舗休止による損失をまるまる被ることとなった。
これによって、ネット通販は実店舗の損失を完全に補填できないまでも、販路の一つとしてやっておくにこしたことはないという認識が業界全体に広がったといえる。
今ではネット通販をやっていないブランドの方が珍しいといえるくらいになったが、その一方で、各社の施策やポジショニングによるネット通販格差が生まれてきたとも感じる。
コロナ禍前、ZOZO急成長時には「ネット通販こそがアパレルの次の成長販路」という論調が多く、それを吹聴するポジショントークのコンサルも跳梁跋扈していた。
実店舗で売れない服がなぜネットなら売れると考えられるのか?当時から不思議でしかたがなかった。
たしかに、陳列方法やネーミングを工夫したり、販促手法や広報活動に工夫を凝らすことで売れなかった商品が売れるようになることはある。
それらに取り組んだ結果売れるというならわかるが、当時の論調だと「ネット通販をやれば売れる」というものが多く、その主張はいくらポジショントークとはいえ、当方の理解の範疇を大きく越えていた。
コロナ禍前から苦戦が続いていた大手総合アパレル各社もネット通販こそ成長販路という認識が強かったように、当方は感じられたが、2年経った現在は当初の期待ほどではない大手総合アパレルも珍しくない。
例えば、三陽商会だ。
原稿の依頼があって三陽商会について改めてIRを見てみた。
三陽商会は2月期決算だが、2021年3月以降の月次売上高を見てみると、「EC・通販」という項目は2021年3月~8月までの上半期全ての月で、前年を下回っている。
3月 5%減
4月 3%減
5月 16%減
6月 13%減
7月 9%減
8月 16%減
上半期合計 10%減
となっている。
3月、4月は2020年3月・4月がコロナによる実店舗休業の期間なので、ネット売上高が急激に伸びた。そのため、前年実績が高かったので、微減でも当然だといえる。
しかし、実店舗営業が再開された5月以降もEC売上高の前年実績割れが続くということは、いかに三陽商会のECが弱いかということである。
ちなみに下半期(2021年9月~2022年2月)も似たような業績である。
9月 19%減
10月 21%減
11月 7%減
12月 17%減
1月 2%増
2月 1%減
下半期合計 9%減
に終わっている。恐らく通期合計も前年割れになるだろう。
1月だけが前年実績から微増したが、残りはすべて前年割れである。
1月は恐らく、正月バーゲンに加えて、コロナのオミクロン株の感染者数が急増したため、外出を控える人が増えたことがネット通販が増えた理由ではないかと考えられる。2月の微減もオミクロン株が理由ではないか。あと、2月は元々アパレルが売れにくい月なので前年実績額が低かったのではないかとも考えられる。
一方、表面上はネット通販が好調に見えるオンワード樫山も実態は微妙な気配である。
オンワードのEC売上は431億円で6%増、国内EC化率は30%に上昇【2022年2月期】 | ネットショップ担当者フォーラム (impress.co.jp)
この手の見出しは事実だが、ちょっと危険な切り取り方だといえる。
オンワードホールディングスが発表した2022年2月期における連結EC売上高は、前期比6.3%増の431億円だった。連結売上高に占めるECの割合(EC化率)は30.0%で、同0.3ポイント増だった。
オンワード樫山の自社EC売上高は前期比1.1%減の240億8700万円、他社ECモールでの売上高は同1.3%増の29億6000万円。国内EC対象事業会社を加えた自社EC売上高は、同5.4%増の353億7200万円、他社ECモールの売上高は同7.9%増の55億2500万円。
自社ECは微減に終わっている。
2019年頃までは、他社ECやECモールへの出店は手数料を取られる上に、顧客情報も共有されないから不利だという認識が広がり、自社サイト強化を打ち出す企業が多かった。
その一方で、大手ECモールへの出店は、モールの集客力の高さにメリットがあると言われた。
オンワードはこのまま他社サイトでの売り上げ増に努めるのだろうか。
逆に自社ECは前年割れに終わっているところが、大手総合アパレルのネット通販の限界ではないかと当方は見ている。
オンワードのEC化率30%達成については、全社売上高が下がり続けているから自動的にEC売上比率が高まってしまうだけの話で、昔2000億円台後半だった売上高が、ついに1684億円にまで減ってしまった。もちろん、実店舗の大規模閉店によるものであるが、これだけ全社売上高が下がれば、EC化率は上がって当然である。
2030年度EC売上高目標として1000億円、EC化率50%としている。
とあるが、売上高1000億円の達成は疑問だが、全社売上高を下げ続ければEC化率50%の達成は結構容易だろう。
三陽商会、ネット通販では大手の中では比較的先行していたオンワード樫山の現状を見ると「ネット通販は成長販路」とは必ずしも言えないという状況であることが理解できるだろう。
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そんな三陽商会の100年コートをどうぞ~ 100年後に三陽商会が残っているかどうか知らんけど