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南充浩 オフィシャルブログ

何故変化してはいけないの?

2014年3月27日 未分類 0

 3月12日から17日まで阪急百貨店10階で「テキスタイル・マルシェ」という生地の切り売り販売会を行った。
主催チームに属する筆者も6日間、ほとんど店頭で接客販売した。

その中の1日、着物をカジュアルミックスに着こなした女性が来場されたことがあった。

フリルのブラウスの上から着物を着用し、首元はレースのスカーフを巻いておられた。
足元はショートブーツで、帯は縦結びにしてある。

ざっとそんな感じである。

筆者は良いコーディネイトだと思った。
同じく、マルシェに出展していた丹後の宮眞さんの大内さんも良いコーディネイトだと感じておられた。
しかし、丹後は和装生地の産地であるだけに大内さんもそれなりに和装の知識がある。
その大内さんが「ぼくはあのコーディネイトは良いと思うけど、コアな和装愛好者は怒ると思う」と感想を述べられた。

同じころ、少し離れた売り場で、和モチーフのミセス洋装ブランドも期間限定販売を行っており、そこの女性社長は
「呉服屋に生まれた身としては、カジュアルミックスなコーディネイトには抵抗がある」と感想を述べられた。

お二方の感想を耳にして「和装業界の病巣は根深い」と感じた次第だ。

和装業界は衰退の一途をたどっている。
この辺りは、矢野経済研究所のデータをもとにする。
2013年の業界市場規模は3010億円と発表されている。

http://www.yano.co.jp/press/press.php/001200

リンクから記事を読んでいただければ分かるが、前年比1・7%増で回復基調とある。
しかし、これは回復基調ではなく、市場は縮小限界点にほぼ達しており、1~2%の増減なんていうのはほぼ誤差の範囲内であると考えた方がつじつまが合う。
今後爆発的市場が4000億円や5000億円にまで回復する見込みはないだろう。それだけの要素がない。

業界市場規模が3000億円しかないというのは、かなり小さい市場規模であるといえる。
例えばアパレル業界でいうなら、ワールド1社で3000億円以上の売上高がある。
着物業界はその商品単価の高さにもかかわらず、ワールド1社の売上高よりも売上規模が小さい。

業界規模を拡大するためには、単純に2つの方法がある。

1つは顧客の買い上げ単価を上げる。
もう1つは着物の需要を増やす。すなわち利用者人口を増やす。

である。

すでに衣料品の中では無類の高額品である着物を、現在以上に商品単価を値上げするのはほぼ無理だろう。
だから有効な手段としては着物の利用者人口を増やすこととなる。

その結論を踏まえた上で、近年着物業界では「利用者人口を増やそう」という取り組みが若手(どの年代までを若手と呼ぶかは異論があるが)を中心に積極的に行われている。

例えば「着物を着る日」を設定したり、「着物を着て集まる場」を作ったり、とそういうことである。

で、そのための手段の一つとして着物のカジュアルダウン化、着物のカジュアルミックス化がある。

あの堅苦しい着付けをせねばならないから着物を敬遠する消費者が多いわけで、例えば先ほどの女性のような着こなしや大正期や昭和初期のような着こなしが広く認められれば、着物利用者は増える可能性が高い。

また着物の下にタイツやレギンスなどを穿いても良いと思う。

着物が敬遠される理由の一つとして現在の生活様式に合わないという点もある。
例えば袴を着用しないと自転車に乗れない。
袴を着用したところで幅広いので、チェーンに裾が絡まってしまうだろうけども。

となると、着物の下にタイツやレギンスなどを着用すれば良い。

そんな工夫でコーディネイトを楽しむことができれば利用者数は幾分かは増えるのではないか。

それでもコアな着物愛好者が先ほどのような意見を持っているなら、そういう取り組みは広がりにくい。
大御所とか権威とか言われる人々が否定的に見るなら、初心者は委縮してしまうだろう。

洋服は時代に応じて形状やデザインは変化している。
トレンドとは関係なく機能的に変化を遂げている部分もある。

なら何故着物だけは変化してはいけないのか?

もちろん、正統な伝統は保存する必要があるが、日常着のレベルでは時代に応じて変化する必要があるのではないか。
デイリーユースな部分までの変化を拒むのであれば、着物という衣料品は早晩、博物館や美術館に陳列されるだけのものとなるだろう。果たしてそれが「伝統を保存した」ということになるのかどうか。

着物業界の市場規模が縮小しきったのは、変化を拒み続けたからではないのかというのが筆者の感想である。

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