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南充浩 オフィシャルブログ

学生服の納期遅れの原因はメーカー側の生産の乱れによるところが大きいという話

2022年4月7日 製造加工業 5

何度も書いているように当方は基本的にテレビ番組を見ていない。

20年間見続けているのは、日曜朝の仮面ライダーシリーズと戦隊シリーズだけである。あと、題材によって見たり見なかったりするのが、日曜夜の大河ドラマである。

それと1年前から、土曜朝のアニメ「ドラゴンクエスト ダイの大冒険」を見ている。

それ以外はテレビ番組を見ない。つまんねークソみたいな番組が多いから興味がない。

テレビのワイドショーでホッとな話題はツイッターやウェブニュースで知ることが多い。最近ウェブ経由で知ったのはこのニュースである。

【独自】入学式前に学生服届かず 社長が遅れの理由を説明 (ntv.co.jp)

東京都内の中学校や高校の入学式を前に一部の新入生らに学生服が届いていない問題で制服を受注していた「ムサシノ学生服」の社長が7日朝、日本テレビの単独取材に応じました。保護者や新入生に謝罪したいと話すとともに「受注の予測が大きく外れた」と遅れの理由を説明しました。 この問題は東京西部の学校を中心に制服を販売する武蔵野市の「ムサシノ学生服」が受注した制服を入学式の直前になっても一部の家庭に届けることができていないものです。

制服の発送が遅れている原因については学生服の受注数の予測が大きく外れてしまったことがあると説明しました。 「今年はコロナの影響もあるが、受注時期が後ろにずれていることと、私学の無償化でどちらの学校に生徒が入るか分からない、男女の人数制限がないので受注数が読めなかった」などと述べました。

とある。

たしかに、制服が入学式前に届かないのは大事である。購入者が騒ぐのも無理はない。

受注云々の部分は恐らくは「受注次期後倒し、私学へ行くか公立に行くかわからない」という状況から、販売店が前もって見込み発注をメーカーにしていたのだろうと考えられる。

しかし、原因はそれだけではないようで、この記事にも

田中社長は問い合わせに対応し調査する中でさらなる問い合わせへの対応ができなくなってしまったと説明しました。

とあるように、この販売店も「調査中」なのである。

 

個人的には、学生服の業界構造として、メーカーと販売店は完全に分業しており、ほとんどの販売店に製造能力がないことを経験上知っている。

もちろん、ムサシノとかいう販売店とは面識もないし、その企業の内情は全く知らないのだが、当方の業界知識と照らし合わせると、どうも販売店だけの責任ではないと考えられる。

そこで、当方は交流のある某学生服販売店にこの問題について「何が原因なのか?」ということを質問してみた。

その販売店からの返事はこうである。

「某大手学生服メーカーのアジア工場の乱れによるところが大きい」

とのことである。ちなみに「某大手学生服メーカー」はキッチリと名指しされていたのだが、今回はあえてボカしておく。

繊維・アパレル業界に限らず、昨年秋からアジア地区全域で新型コロナ感染症が拡大しており、工場の稼働停止や時短営業などが相次いでいて、各分野の商品供給が大幅に乱れている。

大手メディアでも報道されたかと思うが、給湯器も部品不足で納期がいつになるのかわからないという状態が続いていた。

もちろん繊維・アパレル業界も同様で、学生服に限らず納期は大幅に乱れている。

日本のメディアは現在、ウクライナ戦争に完全に切り替わってしまっているが、アジアの新型コロナはまだ続いており、例えば中国では大規模ロックダウンが起きている。

 

上海のロックダウンが延長、市内全域に拡大 – BBCニュース

 

これは4月6日のニュースである。

ということは中国での生産はまだまだ混乱し続けるということになる。

その大手学生服メーカーは、大ロット商品については中国をはじめとするアジアで縫製を行っているというが、これらのアジア工場が昨年秋からの今に続くコロナ感染者数の拡大による稼働率低下が起きており、納期が遅れているとのことである。

また小ロット商品の縫製は国内工場だが、アジア工場生産の生地を使用していることも多く、こちらも入荷が乱れているという。

そのため、その学生服販売店でもこの某大手メーカーからは、納期が遅れたり、遅れていることに対する問い合わせにも明確な返答がないのに、突然入荷してきたりということがあったという。また、ギリギリで4月5日に入荷した商品もあったというし、体操服などは5月納品になるとしている。

また、某大手学生服メーカーの国内でもトラブルが多発していたとの声もある。

一昨年に物流センターを新設したところ、習熟度が低い中(稼働したばかりだから当然)でコロナ感染者が出てしばらく稼働率が著しく低下したり、子会社のシステム更新でトラブルがあって稼働率が低下したりということも起きていたと言われている。

 

購入者にとって制服未納は大事であることは重々承知している。

それを報道することも当然である。しかし、元来が生産能力のない学生服販売店を問い詰めたところで、原因は特定できないし、実際は何の解決にもならない。

報道するのであれば、某大手学生服メーカー側を取材して、追及すべきである。

 

通常のカジュアル服やスーツ類のほとんどが現在ではユニクロやジーユーに代表されるようにSPA化されている。そのため、ついつい「販売店=製造メーカーの直営店」と考えがちだが、学生服という業界はその構造にはなっていない。昔ながらのメーカーが販売店に卸売りするという形態で成り立っている。販売店側はもちろん素人よりは詳しいだろうが、メーカー側の詳細な生産体制までは把握してはいない。

だから、報道記事を見ても、ムサシノ社長は明確な返答をしていないのは、返答する気がないのではなく、メーカー側の生産体制を詳細に把握していないから返答できないのだろうと考えられる。

報道機関には、ぜひともこの某大手学生服メーカーを取材して、現在の繊維製品に限らず全分野における海外生産依存に対する問題点を浮き彫りにしてもらいたいと思う。

 

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 comment
  • kta より: 2022/04/07(木) 12:49 PM

    メーカーで従事していますが、普段から中国とは少量の荷物をやり取りしてます。袋物の小さい荷物が翌日、翌々日届いて当たり前だったのが、ここ最近だと10日は平気でかかるようになってます。
    中国はロックダウンもだし、陽性者や濃厚接触者が他地域に逃亡(何故)し、その他地域では道路封鎖して逃亡者を確保する為のローラー作戦が布かれたりと混迷が続いてます。
    もちろん量産分も納期遅れどころか工場も検品所も稼働できていないので見通しすら立たない状態です。
    学生服の納入タイミングが悪かったのもあります。加えて、あと少しすればカジュアル衣料の売り場も商品が並ばないなどの環境も有り得なくないと小売店は戦々恐々としているはずです。
    そしてメーカー側は自分らではどうにもできない状況でも突き上げを食らい、最悪は作り込んだ商品が納品できないまま返品。そっくりそのまま赤字もあるかもしれません…

  • だすけ より: 2022/04/07(木) 8:36 PM

    それに近い業界に身を置いています。おっしゃる通りかと思います。その上で縫製工場は国内にも多数ありますが、海外での遅れの影響を受け国内工場もパンク状態です。この学生服店も遅れるかもしれないというのがわかったのも昨日やそこらの話だと思われます。さらにはじゃあどれがどれくらい遅れるか?なども全容がつかめていないのではと想像します。記者会見の態度だけは問題かもしれませんが、何も言えることがないのだと思います。

  • ex より: 2022/04/08(金) 4:20 AM

    メーカー側からの納期の遅れが原因だとするのであれば今回表出した販売店以外でも問題になると思うのですがその点はどう考えてるんですか?
    それに、コロナによるメーカーの納期遅れは今に始まったことではないのでは?
    コロナがいつから問題になってるか考えて論理的に今回の問題を推察してほしいです
    本件は販売店側の予測能力の低さが招いた結果に他ならないと思います

  • BOCONON より: 2022/04/08(金) 11:55 AM

    近所にカシヤマ・ザ・スマートテイラーのショップが出来たので見学に行ったら販売員女子が「ネットなどで見て頂くと “一週間でできる” という謳い文句になってますが,最近コロナで中国の工場がいろいろ混乱しているので,およそ2週間はかかっちゃうんですよ」と言ってましたな。
    今回の学校制服の騒動については「メーカーや販売店は納期に間に合うかどうかも把握できんのかいな」という気がしないでもないけど「まあ致し方ないね,コロナ禍だし。相手が中国だしw」という気もする。その辺僕は詳らかでないですが,いづれ「みんながそこまで重大な関心を寄せるほどの問題か?」ですね。まして一部報道のように “はれのひ” 事件と結びつけるというのはあんまりな話というものでありましょう(苦笑)。

  • BOCONON より: 2022/04/09(土) 4:50 PM

    ・・・とは言ってみたものの,よく聞くと「サイズの合ってない制服=試着時とサイズが違うものが来てしまったので取り換えに行った」という事例も多かったようで。これは「販売店だから,自分とこで造ってるわけじゃないから」じゃ済まない気がする。むしろ販売店だからこそサイズを間違って発送してしまったなんて事はオソマツ過ぎると言わざるを得ない。それも「窮屈過ぎて着られなかった」というわけでもなさげだから,どうも「間に合わねえんだからしょうがねえ,大きすぎる分には着られるんだから取り敢えずこれ送っとけ」と云った調子で分かっててそんな事をやらかしてしまったんじゃあないのか・・・という推測が正しければ「そんなショウバイのやり方があるかい。今後もも似たような問題起こすんじゃないのか?」と僕はますます邪推もしてしまうのでした。

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