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南充浩 オフィシャルブログ

低価格オーダースーツの需要はゼロではないがそれほど大きくはない

2022年4月1日 企業研究 1

男性にとってスーツのメリットとデメリットは様々あるだろうが、個人的に最大のメリットの一つは「容姿が悪い男でもそれなりにマシに見える」点だろうと思っている。

カジュアルな着こなしは、コーディネイト云々よりもその人の容貌、体型、体格などに左右される。

例えば

最新キャップコーデでマンネリ打破!【22年春夏トレンド】 – WWDJAPAN

という記事を例に挙げると、様々なファッションに野球帽を合わせているのだが、これは被写体があか抜けた白人だから何となくカッコヨク見えているだけで、ハゲデブチビ短足で顔皺くちゃの初老の男がスーツに野球帽を被っていてカッコイイと見えるだろうか?競艇場とか場末の立ち飲み屋にいる常連客にしか当方には見えない。

ところが、スーツはどんなに見た目の悪い男性が着ても「それなりにマシ」に見える。

スーツの着こなしが野暮ったいとか、サイズ感が合ってないとか、そんなサラリーマンは多々見かけるが「スーツがどうしようもないくらいに似合っていない」という男性はいない。

逆に変なトレーナーとジーンズを着用しているよりははるかにマシに見える。

 

コロナ禍以前の2010年代半ばから、メンズスーツ業界で「オーダースーツ」への期待が高まった。その高まりは今も続いているように感じるのだが、そんなメリットがあることは重々承知しているが、各社が期待するほどの需要があるのだろうかと、今も疑問しかない。

 

青山商事、在庫圧縮で遅れ オーダースーツ戦略の不安: 日本経済新聞 (nikkei.com)

コロナ禍で市場が縮小する中で紳士服大手の戦略はふたつに大別される。「オンとオフを問わずに着用できるカジュアルスーツ」を武器にサイズ数を4種類程度に絞りながら紳士服の市場を広げて在庫の消化を進める動きと、余分な在庫を持たずに受注生産で「自分だけの1着」を提供する動きだ。前者はAOKIホールディングスとはるやま、後者は青山商事とコナカが該当する。

この分析は正しい。

5000円前後のリラクシングセットアップを展開するのがAOKIとはるやま、低価格オーダースーツ(実際はパターンオーダー)を展開するのが青山商事とコナカである。

しかし、青山商事にせよ、コナカにせよそこまで低価格オーダースーツの売上高があるのだろうか?コナカの「ディファレンス」店舗はけっこうあちこちで見かけるが、客が誰もおらずに暇そうにしているのをよく見かける。

記事でも

青山社長は「10年後にオーダーと既製服の売り上げを同じにする」と話すが、足元でスーツ売上高に占める割合は数%とみられる。

という一節があり、これが正しい現状だろうと感じる。

 

現在のところ、低価格オーダースーツの最大手は「グローバルスタイル」を展開するタンゴヤだと目されているが、そのタンゴヤでさえコロナ禍前のピーク時でも売上高は90億円台止まりで一度も100億円を突破していない。

直近の2021年7月期決算ではコロナ禍の影響を受け、売上高は83億2600万円で、2022年7月期の見通しは売上高91億6400万円である。

 

2021100440667001GENERAL.pdf (moneyworld.jp)

 

2005年のクールビズ以降、メンズビジネススタイルはカジュアル化が始まっており、2020年春のコロナ禍によるリモートワークによってさらにカジュアル化は進んでいる。

仮にコロナ禍が無かったとしても、カジュアル化は徐々に進んだだろう。

そして、人口が最も多い団塊の世代がほぼ完全にリタイアし、スーツを着る人数は激減した。まだ団塊ジュニア世代が最大人口として残っているが、これとても15年後にはそのほとんどがリタイアし、20年後にはほぼ全員がリタイアしてしまいスーツを着用するのは冠婚葬祭の時くらいになってしまう。

で、その15年後、20年後の風俗を想像してみると、ビジネスシーンのカジュアル化は今よりも進むか、現状維持かという可能性が高く、カッチリスーツの時代に戻る可能性は極めて低く、当方はゼロに近いと思っている。

そういうことも併せて考えると、低価格オーダースーツの市場というのは最大でも1社あたりの売上高が100億~120億円程度が限界ではないかと思っており、例えば、現在最大手のタンゴヤも限界点は売上高120億円ではないかと見ている。

 

しかし、世の中の需要はすべての分野においてゼロではないから、小なりといえどもその需要を拾いに行くことはビジネスとして間違ってはいない。

だから、青山やコナカが業界大手企業として広く低価格オーダーもカバーするのは決して悪いことではないが、青山商事社長がかねてから打ち出しているような「10年後にオーダーと既製服の売り上げを同じにする」という未来は極めて実現性が低いと見ている。唯一実現するとすれば、青山商事が主力としている既製服スーツの売上高が激減してオーダースーツに並ぶ時だけだろう。

売上高100億円を目指してタンゴヤを含めて各社が小さいパイを奪い合うというのが、低価格オーダースーツの市場だと当方は見ているのだが、2010年代半ば以降に低価格オーダースーツという分野に異様に期待してきた人々は一体どこにその芽があると判断したのか、当方には理解不能である。

一方、AOKI、はるやまが展開するリラックスセットアップはワークマンを含めてもうすでに価格競争のフェーズに移行しており、5000円前後が主戦場となっている。2万円台・3万円台で展開しているブランドはよほどブランド価値を高めるなどの工夫がないと勝ち目はないだろう。

逆に今好調なワークマン、AOKIでさえ、3000円台のリラックスセットアップを開始するブランドがあれば、あっという間に市場を奪われることになるだろうと見ている。

 

低価格オーダースーツにせよ低価格リラックスセットアップにせよ、どちらも容易い分野ではない。

 

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 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2022/04/01(金) 12:00 PM

    前にも書きましたが、某経営コンサルタントに訴えられて、外見だけでもハッタリかまそうとイージーオーダー店でスーツ作ってから、カジュアル用のスーツとかジャケット、パンツをそのお店で何度かオーダーしてます。で、土日だといつ行っても何組もお客さんがいて1時間とか待たされちゃいますw
    その店は小規模で店員さんは3~5人くらいなので、複数組が来店するとすぐに接客できる店員さんは居なくなっちゃうんですよね。たぶん、初見のお客さんだと1時間も待つなら他に行こうってなるはず。あと、最初の採寸は細かくやると小一時間掛かっちゃうしで、オーダースーツを大量に売るってのは色々無理がありそうです。

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