MENU

南充浩 オフィシャルブログ

生地の残反はそのまま安値で売り払うのが最もサステナブルなのでは?

2022年3月25日 トレンド 0

そういえば、先日、某大手メディアと打ち合わせをする機会があった。

メディアというのは自社が公的に発信している内容と、記者や編集者個人の考え方は異なる場合がある。もちろん媒体の主張の権化みたいな記者や編集者も少なくはない。

そのメディアの担当者は当方と思想的には割合と近く、友好的な打ち合わせができたと感じた。もしかしたら、当方の独りよがりかもしれないが。(笑)

メディアなので話題の一つには「サステナブル」とか「SDGs」が上ったが、当方も担当者も「最近の風潮は過剰」という点で一致したのだが、その方は「サステナブルとかSDGsを謳って報道特集を組むと、例えば全然関係なさそうな大手証券会社などからも簡単に広告料が集まるから、営利団体としては特集を増やさざるを得ない」と言っておられ、業界紙上がりの当方にもその企業判断は納得できるところだった。(最近の過剰な風潮には賛成していないが)

そんなわけで、大手メディアのみならず、業界メディアでも毎日のようにサステナブとかSDGsの記事が大量に発信されてしまうというわけである。

 

ある程度環境を考えて公害を減らすことは重要だと当方も思っているが、環境負荷ゼロとか廃棄ゼロの実現は現在の技術では不可能である。何十年後、何百年後にはその技術も完成するかもしれないが、今年や来年にすぐさま完成できるものではない。短兵急に実現しようとしすぎることは却って他の問題を引き起こす。

個々の取り組みを見ると、首を傾げたくなるような物も多々含まれている。

よく見かけるのが「残反」「余剰生地」を使った製品作りである。

生地1反の長さは50メートルある。しかし、50メートルキッチリというわけではない。個々のロールで長さは微妙に異なる。

49メートルの場合もあるし、52メートルの場合もある。なので正確にいうなら「約50メートル」であり、業界的には「乱50メートル」という表記をする。

 

54メートルの長さがある場合、製品を作り終わって生地が4メートル残ってしまうことがある。そういう生地が何種類もあるから、トータルだと50メートルとか100メートルとか残ってしまうことになる。また生産途中に足りなくなってはいけないから1反多めに投入されることもある。

平たくいうとこれが「残反」とか「余剰生地」ということになる。

これを捨てるのはいかがなものか?ということで製品を作って販売しようということになるのだろう。

一例を挙げるとこれなんかそうである。

EC「ユークス」が新サステナプロジェクトを始動 余剰生地を使ったカラフル&ポップなスカートなどを発売 – WWDJAPAN

 

イタリアの工場で回収した余剰生地を使い、トップス 10点とスカート10点を生産する。価格はトップスが税込1万8500円、スカートが2万9500円を予定。「ユークス」内のみで販売する。

 

この取り組みはヨーロッパでのことだが、国内でもこれと似たような事業を立ち上げサステナブルとかSDGsとかとして報道されることは現在珍しくない。

欧米の業界構造はあまり詳しくないから、詳しい人にお任せするとして、国内で果たしてこの手の取り組みが必要で、それは本当にサステナとかSDGsなのだろうかと疑問に感じる。

例に挙げた記事だと、詳細はイマイチわからない部分が多いが、トップス10点(10品番とか10柄のことか?)とスカート10点(同)を生産してネット通販で販売するとだけ伝えられているように読める。

仮に当方が受け取ったように「10品番とか10柄」を生産して販売するとすると、それはもう「定期的な量産品作り」ということになり、必ず売れ残りは出てくる。

最初のうちは各色で数枚残ったという感じだろうが、長く続ければ続けるほど、売れ残り在庫は徐々に積み上がる。

どこかの時点で値引き処分販売をするか、廃棄するか、在庫処分屋に安値で売るか、しかない。

これが、オーダー制であるなら、そういう危険性は少ない。生地だけ残しておいてオーダーを受注するたびに作ればいい。

だが定期的に量産するとなると、売れ残りの在庫リスクを考慮する必要が出てくる。それが果たしてサステナブルとかSDGsとかに当てはまるのだろうか?

 

国内の場合、生地の廃棄はもちろん、ゼロではないが、昔から余剰生地は西日暮里や船場の生地店が安値で引き取って安値で販売してきた。

また、なぞの業者が回収して海外へ安く販売することも多かった。

 

なまじ再加工しにくい製品にするよりも生地のまま残しておいて、安い生地屋に売るとか、業者に安値で引き取ってもらって海外へ売ってもらうとか、そういう従来型の処分の方がずっとサステナでSDGsではないかと思う。

 

 

製品で在庫を積むより、生地のままで在庫を抱えた方がリスクが少ない。

生地で在庫を積むより、糸のままで在庫を抱えた方がリスクが少ない。

糸で在庫を積むより、ワタのままで在庫を抱えた方がリスクが少ない。

 

というのは、生産系の方ならよくご存じなのではないかと思う。

製品にしてしまえば、もし売れ残った時に他の製品に再加工することはかなり難しい。しかし、生地で残しておけば、いかようにも違う製品を作ることができる。生地よりも糸、糸よりもワタの方がどんどん不良在庫リスクは軽減される。

残反で量産品を作るというのは、一見すると廃棄問題に取り組んでいるように見えるが、不良在庫リスクを却って高めているだけのことではないかと思う。

欧米に我が国のような生地処分の体系があるのかどうかはわからないから、欧米に関しては何とも言えないが、国内でいうなら、下手に製品を量産するよりはこれまで通りに生地のままで投げ売りした方がはるかに不良在庫リスクは減るし、結果的にサステナとかSDGsではないか。

メディアも(広告出稿が増えるという旨味はあるとはいえ)、業界ももう少し冷静に考えて取り組むべきではないかと思う。

 

この記事をSNSでシェア

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ