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南充浩 オフィシャルブログ

業界メディアが「卸売りアパレル」の機能を正確に理解できていないのではないかと思った話

2022年3月15日 トレンド 0

大きく分けてアパレルには、卸売り型のアパレルとSPA型アパレルがある。

卸売り型アパレルというのは、小売店へ卸売りをするアパレルメーカーである。98年以降のユニクロの成功からSPA型アパレルが我が国でも主流となった。

もっとその源流を考えると、80年代半ばからのDCブランドブームではないかと思う。あの当時は直営店・フランチャイズ店が入り乱れていたが、ブランドの商品をそのブランド店のみで販売するという形態が随分と増えた。

「原則的」な粗利益率で考えると、卸売り型は定価の60%で小売店に卸し売りする(今は50~40%くらいが主流)から小売店の粗利率40%と低いが、SPA型だと仕入れ原価を30%くらいに抑えると、店頭の粗利率は70%になるから、利益が確保できやすいとされている。

しかし、SPA型に切り替えた大手総合アパレル各社の凋落ぶりを見ていると、それはあくまでも「原則」に過ぎず、SPA型にしたところで物が売れなければ利益は確保できないということを如実に証明しているといえる。

世の中のムード的にも、たまには業界メディア的にも卸売り型アパレルを「時代遅れ」かのように揶揄する風潮が強いが、果たしてそうだろうか。もちろんイージーなビジネスでないことはこれまでの変遷が示してきた通りで、イージーに儲かるビジネスなら、卸売り型アパレルはもっと今でも残っているだろう。

しかし、資本力のないブランドや小売店からすれば、卸売りという形態は非常にありがたいシステムである。

当方には、もともと個人独立のデザイナーブランドの知り合いが相当数いた。今はほとんど付き合いがないが、彼らは当方とさして変わらないような経済状態なので、SPA型に切り替えて直営店をどんどん出店するということは自力では不可能である。金融からの融資を受ければ可能だろうが、少なくとも数億円くらいの負債を背負うことに不安を感じる主宰者がほとんどである。当方がその立場でも難色を示す。だから彼ら小規模デザイナーブランド(小規模アパレルメーカーも)は卸売り業務を今でもメインにしている。

また小規模小売店も同様でオリジナルの商品をどんどん作ることは資金的に不可能である。そのため、その都度、卸売りメーカーから仕入れる方がリスクが少ない。極端な例でいうと、20年くらい前に創業した零細小売店が当時、毎日、本町の現金問屋から10枚くらいを購入して販売していたと言われている。このような利用方法が卸売りにある。ただ、最近は卸売りメーカーや問屋も売れ残りを恐れて、ほとんどが多めに在庫を持たなくなりつつあるのだが。

 

さて、そのような卸売りの役割と現実を認識していないと、危うい考え方に陥るのではないかと思う。

 

【記者の目】アパレルの受注生産を考える 欠かせない独自の魅力、社会問題解決の視点で | 繊研新聞 (senken.co.jp)

 

廃棄の社会問題云々で卸売りという業態を切り取るのはちょっと無理があるのではないだろうか。まあ、今のイシキタカイ系の人たちには響くのかもしれないが、響いたところで(笑)だが。

まず、卸売り型アパレルブランドの年間スケジュールに関しては記事の通りである。

昔は春夏向けと秋冬向けの年に2回展示受注会が行われ、そこで半年前に小売店が受注量を決めていた。その後、トレンド変化の速さや確実性などが求められるようになり、春向け・夏向け・秋向け・冬向けと年に4回3カ月ごとの展示受注会が行われるようになった。要するに小売店は3カ月前に受注するわけである。

さらにリスクを低くするために年4回の合間に「期近展」とか「現物展」を開催するようにもなった。

展示会で受注量が十分に確保できれば、その受注量を生産する。受注量が少なければその品番は抹消され、生産されない。

これを「廃棄を減らす社会問題を考慮できるシステム」と記事は絶賛しているのだが、そうだろうか?

あまりに売れ残りリスクを警戒するために、店頭投入すれば売れそうなアイテムも生産数量を受注数キッチリに絞り機会損失を量産していたり、「受注が集まらなくて生産しない品番」があまりにも増えすぎ、結局は安全パイの凡庸な商品ばかりとなって、ラインナップが同質化してしまうという問題が近年多発している。

 

最近の展示受注会の開催ペースを見ていると、多いところでは年間6回もの開催がある。2カ月に1回である。この度にデザインを考え、素材や副資材を選定・手配するわけだから、「じっくり作り込む」という姿勢では到底取り組めない。そもそも年に2回の時代から展示受注会の開催前にデザイン、使用素材、副資材などをフィックスできている必要がある。展示受注会以降にそれらを変えることは皆無ではないが、変える場合には各小売店への説得が必要となり多大な手間と暇をかけなくてはならなくなる。

 

展示会の最大の良さは基本的に受注生産のため、無駄なものを作らずに済み、在庫ロスが出ない(サンプルは残るが)こと。もちろん展示会だけで受注は取りにくいという現実はある。理論的には展示会受注だけなら在庫は生まない。もう一つの良さは、納品まで数カ月あることから、じっくり素材を選び、加工にもこだわり、オリジナリティーのあるものが作りやすいということ。また、以前のようにファッショントレンドに左右されることも少なくなった。

 

とあるが、「数か月あるからじっくり考えて選ぶ」などという作業は展示会前に全て終わらせておかなくてはならず、これを書いた記者はベテランなのでそのことは熟知しているはずだが、この書き方だと展示会後にもまだ「じっくり考える時間がある」というふうに読めてしまう。書き方のミスだろうが、これを信じてしまう素人は世の中には多いので非常に有害だといえる。

この牧歌的な「じっくりスタイル」が許されていたのは、せいぜい2000年代初頭くらいまでのことだろう。

後半は卸売り型ビジネスと、DtoCブランドを対比させて「社会問題解決」を説いているのだが、あまりにも牽強付会ではないかと思う。

 

DtoCブランドのほとんどは「ブランド名の覚えにくさ」「消費者との接点の少なさ(ウェブ中毒人間にはわからないかもしれないが、大衆はさほどウェブを見続けているわけではない)」「過剰な演出と過剰なストーリー作りと薬機法や景表法スレスレ(違反している場合も少なからずある)の効能アピールによる胡散臭さ」など問題だらけであり、いわゆるナショナルブランドやマスブランドに育つ可能性は限りなく低い。

卸売り型ビジネスとDtoCブランドを「同じ受注型」ということで、対比させ社会問題解決を説く視点はいかがなものかと思えてならない。

 

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