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南充浩 オフィシャルブログ

卸売り型アパレル企業に20代の若手営業マンがいなくなりつつあるという話

2022年3月11日 トレンド 1

先日、こんな話題が出た。

「実は数年前から、小規模零細の卸売り型アパレルに若い社員が入社しなくなった。特に営業部門はその傾向が顕著で営業部門で30代なら若手、40代・50代が中堅という扱い。今後この傾向は改善されるんだろうか?」

というものだった。

コロナ禍が始まって、展示会にお邪魔する機会もめっきり減ってしまったが、思い返してみるとたしかに2010年を越えたあたりから、小規模・零細の卸売り型アパレルの展示会で20代の営業マンを見かけることは皆無になっていた。30代を見かけるとたしかに「若いなあ」と感じた。

主力営業マンは40代・50代で中には雇用延長の60代も珍しくない。

企画部門にはまだ20代社員を見かけることもたまにはあるが、営業部門には本当に若い社員がいなくなった。

 

もちろん、大手はそうではない。若い営業マンも見かけるが、小規模・零細には本当に見かけなくなった。

1つには、アパレル業界そのものへの就職希望者が減った、ひいてはファッション専門学校への進学希望者が年々減っていることからもそれはわかるだろう。

これだけ、業界大手企業の苦戦が報じられ、斜陽産業扱いされれば、少し賢い若者なら業界へ進むことはためらうだろう。

次に、サステナブルといえばいいのかSDGsといえばいいのかわからないが、よくわからない槍玉にあげられてさらに業界への視線は不自然に厳しさを増している。そりゃ希望者も減って当然だろう。

 

そして、アパレル業界に限らず、小規模・零細企業というのは、大手に比べると福利厚生が圧倒的に整っていないので、敬遠されるので、アパレル業界+小規模零細ということで、不人気の相乗効果を発揮してしまう。就職希望者が減らない方がおかしいといえる。

これがコロナ禍が始まる前の2019年までの雰囲気である。

 

コロナ禍が始まってアパレル各社の業績はさらに悪化しており、業界への就職希望者が減る要因はたくさんあるが、増える要因は一つもない。

さらに言えば、卸売りの営業という業務はやっぱり顔とコネが必要になるため、就職したばかりの若者が受注をスムーズに取ることは非常に難しい。若者はしばらくは我慢と勉強が必要だし、雇用側は若者を育てるよりもそれなりの顔とコネのある40代・50代を即戦力として使いたがる。企業体力のない小規模・零細なら特にその思いは強い。

 

だが、問題は人間は誰でも必ずそのうちに死ぬということである。

今、メインプレーヤーとして活動している40代・50代も何十年か後に必ず全員死んでしまう。そうなると、次代を担う人材はいないということになる。

そのために「自分が引退するときに、または、余力がある今のうちに、廃業してしまう方が得策ではないか?」と考える小規模・零細の卸売り型アパレル企業の経営者が増えているという。

この経営者判断も当然だろう。

業界の売り上げ上位20位か30位くらいまでにある大手はそれなりに今後も事業継承は可能だろうが、一説には数千とも言われる有象無象の小規模零細アパレルは今後、若手の後継者不足ということでどんどん廃業が進むのではないかと思う。

 

これよりも先に若手の人員不足となったのが、インポートアパレル業界である。

いわゆる、欧米ブランド製品を輸入して、国内の専門店や百貨店に卸売りするというスタイルのアパレルである。80年代・90年代に、直接ジャパン社を作って日本に上陸する欧米ブランドは少なかった。

この手のインポートアパレルが総代理店となって欧米ブランドを製品輸入していた。もしくは国内アパレルにライセンス生産させていた。

この手法は意外と最近まで使われており、例えば2000年頃だとドルチェ&ガッバーナやDスクウェア―ドなんかも国内インポートアパレルが総代理店を務めていた。

またライセンス生産でいうと、クリスチャン・ディオールがカネボウと契約していたし、最近だとバーバリーと三陽商会の契約解除は有名である。またアディダスもその昔はデサントにライセンス生産させていた。

 

97年に業界紙に入社して以来、インポートアパレルも担当していた(させられていた)当方はまだ煌びやかだった時代の名残がある2000年前後の空気を知っていた。

当時はいかにもファッション好き、しかもイキった欧米高級ブランド好きな若い社員がどのインポートアパレルにもいた。

ああ、この仕事をしていなければ絶対に知り合えないジャンルの人たちだと、イズミヤの1900円の服で育った当方は強く感じた。

 

業界新聞を離れてしばらくした頃、2006年とか2007年だったと思う。

昔の顔見知りであるインポートアパレルの部長を久しぶりに訪ねた。この部長は当時ウールン商会におられたが現在はもう退職なさっている。

お会いして

「不景気な話が多いですが、最近のインポートアパレル業界はどうですか?」

と尋ねると

「インポート業界は不況だから、もう20代の若手社員が入ってこなくなったよ」

とおっしゃっていて驚いた。

まだ当方の頭の中には2000年頃の煌びやかな記憶が残っていたからだ。

 

2010年以降、あまりインポート業界とは接点がなくなったが、たまに遭遇するインポートブランドの様子を見ていてもこの時と変わっていないと感じる。

インポートブランドは売上高が見込めるようになると、どんどんジャパン社を設立するため、インポート業者としてはその都度大打撃を受ける。また、かつてのように次々と「売れる欧米ブランド」が誕生するような風潮でもなくなったから、そんな業界に飛び込もうかという若者がいないのも当然だろうといえる。

 

国内の繊維の製造加工工場や縫製工場は一部を除くと若者が入ってこずに後継者不足に陥って久しい。今後、さらに工場の廃業は増え続けることは火を見るよりも明らかだが、インポートアパレルも同様になるだろうし、大手数十社と中堅企業数十社以外の国内アパレル企業も今後は同様に後継者難から廃業が進み、淘汰され、アパレル企業の総数は減少し続けることになるのではないかと思う。

 

欧米ブランドの高いセーターをどうぞ~

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 comment
  • BOCONON より: 2022/03/12(土) 12:45 PM

    バブル時代に輸入物のフランス製のセーターを買ったことがあって,いい感じの色柄だと思ったのだけれど,着てみたらサイズが大きすぎて無理なのでひとにあげてしまった事がありました。大分前東武百貨店で買った reyn spooner のアロハシャツはどうやら輸入物のようなので,店員に「これ,日本のサイズじゃないね?」と聞いたら「そうなんですよ」と言う。割と最近 NEW YORKER のショップで買ったニットタイはイタリア製らしく,これまた色柄は良いのだけれど,長すぎて使い物にならなかった。イタリア製でなくともインポートもののネクタイは身長170cm程度の僕には長すぎて使えない,なんて事がほかでもあってもう買わない事にしています。
    「やれやれまったく,なんでちゃんと “輸入物なのでいつもより1サイズ小さいものをどうぞ” くらいの表示をするか販売員が説明するかしないんだ?」と思う。あるいは「どうせなら輸入物の生地を使って日本人向きに作るとかしてもらいたいね」などと。スーツやテイラードジャケットの輸入ものがおよそ日本人体型には無理,というのは以前から書いている通り。
    ・・・何が言いたいかと言うと,インポートものはこの辺の問題を改善して来なかったし,今後も改善する気もなさげだから,これから先ますます物好きな人以外買わなくなるだろう,という話であります。

    あまりはやらない商売だとお店の店員もおじさんおばさんあるいはお爺ちゃんお婆ちゃんが多くなるというのもよくある話ですね。きつい割にお金にならない仕事だと外国人とか。コンビニだと東京も都市部では中東系(?)や中国人店員の方が多いくらいで。
    コンビニはともかく,若い人が入って来ない業界はもうおしまい…と言っては見も蓋もないが,実際そんなものでありましょう。思えばむかし僕が割と好きで百貨店ならどこにでもあったようなブランド:エーボンハウスはブリティッシュ・トラッドが流行らなくなるとともに見かけなくなり,それでも飯田橋でひっそり営業していたのが「余力のあるうちに…」で大分前廃業した。残念だけど賢い選択だったと思います。
    三峰も贔屓にしていた店だけれど,もう新宿店しか残っていないし,品揃えも誰にどう着てもらいたいのやら不明な感じ。「見るに忍びないしたぶん儲かってもいないのだからいっそきっぱり閉店した方が良いのに」と大きなお世話な事を考えてしまいます。
    さらに言うなら無印良品もやっとシャツのサイズを見直して異様に細身短丈からゆとりのあるシルエットにしたけれど,丈は短いままだしこの春の商品も茶色いシャツだらけでここもどうも迷走気味だ。うちの近所でもメンズ服売り場では滅多に客を見かけない。正直「無印良品のメンズ服もユニクロと違いを出そうとして意図のよくわからない服並べたり男女兼用パジャマ的セットアップなんてものを打ち出して世間の失笑を買うくらいならもう定評あるセーター等だけ残して事業縮小したら良いのに」と思っています。

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