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南充浩 オフィシャルブログ

ブランド素材が大手低価格ブランドへ行き着いてしまう理由

2022年3月10日 素材 1

繊維・アパレル業界と称されるが、繊維業界というとどちらかというと川上メインの視点、アパレル業界というと以前は卸売り型アパレルブランド中心だったが、今では店頭が中心の視点という感じがある。

川上、川中、川下と業界には存在するが、「生産数量」という視点でいうと、川上・川中と川下は大きく断絶している。

販売員&店長という川下の立場を経験した当方からすると、川上の「数量」というのは10枚・20枚~100枚くらいまでの認識しかない。

要は自店で売れる数量、もう少し俯瞰しても自社グループで売れる数量が基準である。

一方、川上・川中だと最低でも数千枚レベルの数量が基準で、基本的には何万枚を数量を想定する。

だから、川上・川中の従来の視点だと1型300枚なんていう数量は小ロットということになる。

 

国内の合繊メーカーや大手紡績はこれまでいくつもの素材ブランドを開発し、普及させてきた。

特に吸水速乾や発熱保温などの機能性合成繊維はいまだにほとんどの場合、日本が最先端の技術を持っていると言われており、当方もそのように見ている。(例外もある)

ただの「吸水速乾」よりは「〇〇の吸水速乾」と唱えた方が何となく値打ちがあるように感じられる。一般消費者にとってはどうだかわからないが、川上・川中・一部の川下にとってはそのように認識されている。この「〇〇」がいわゆる素材ブランドということになる。

エクスとかロイカとかクールマックスとかそういう類の物である。

2000年頃までは、さまざまな衣料品ブームがあったので、バブル崩壊後は商況が厳しくなった部分があるとはいえ、まだ合繊メーカーや大手紡績の素材ブランドは、アパレル向けに大量受注を獲得しやすかった。だが、2010年くらいからは、国内の勝ち組アパレルは20~30社くらいに絞られた上に、1型何万枚~何十万枚分の大量生産を行えるブランドが10くらいにまで絞り込まれたので、彼らが必要とする大量受注を獲得することは難しくなってしまった。

例えば、「クラビオン」のオーミケンシが繊維事業を廃止してしまったのはその一例といえるだろう。

帝人は「ソロテックス」というストレッチ性のある機能性ポリエステル素材ブランドを拡販しようとして、有名セレクトショップとのコラボを2013年ごろから積極的に推し進めた。

あの当時としてはそれが最善の方法だっただろうと当方も思っている。

しかし、大手セレクトショップといえども、生産数量は実はさほど多くない上に、毎シーズン企画内容は変わる。従って今春にソロテックスを使用したからと言って、今秋も続けて使用するとは限らないということになる。

大手セレクトショップに限らず、ファッション性の高いブランドであればあるほどそういう使用方法になる。

2000年頃までのように大手ブランドと取り組めば3年後くらいまで素材の使用量がある程度担保できるというような環境ではなくなっていた。

 

そのため、ソロテックスは、次々とコラボブランドを乗り換えて渡り歩くジプシーみたいな状況になっていた。少なくとも当方の目にはそう映った。

しかし、それはそれで、求められているのだから、大したものだと思う。冷やかしでもなんでもなく。

一方、セレクト1社あたりからの受注量は、帝人という巨大企業からすれば物足りないものだったのではないかと思う。

酷くザックリした計算だが、アーバンリサーチからソロテックス使いのジャケットが発売されたとして、恐らく生産数量は1型で多くて3000枚程度だろうと思う。よく行っても1万枚だろう。3000枚と仮定して、用尺2メートルとすると6000メートルの生地が必要ということになる。

川下の人からすると「6000メートルも」ということになるが、川上からすると「たったの6000メートル」いうことにしかならない。

帝人という巨大企業は6000メートルぽっちの数量ではとても維持できない。

そして、最終的にソロテックスを大々的に投入する先となったのは、しまむら、ワークマンである。

ワークマンのリバーシブルワークスーツはソロテックス使いだし、先日、しまむらが発表したカジュアルスーツもソロテックス使いである。

PB「クロッシー」から「オンでもオフでも」と銘打って発売されている。

テイラード型ジャケットとセットアップのスラックスはジャケットが4070円、スラックスが2970円で合計7040円である。

価格的には、ワークマン、AOKIよりも高い。

このセットアップはソロテックスである。

「ONでもOFFでも」オフィスでも休日でもデイリーに着まわせる:しまむら | しまむら (shimamura.gr.jp)

 

また、東レには「ドットエア」という夏用の涼感生地がある。

生地に極小の無数の穴が開いており、そこから熱を逃がすという仕組みである。3年くらい前にブリッツワークスが空冷式スーツという名称でクラファンにかけて達成している。

拝啓 ビジネスマン 空気の力で『涼しい』を体感する【空冷式スーツ】はじめました! – CAMPFIRE (キャンプファイヤー) (camp-fire.jp)

この時の定価は上下セットで17280円である。

もちろん、ブリッツワークス以外でも使用されているが、最新の受注先はワークマンのワークスーツである。

 

コーデュラも同様だ。

さまざまな有名スポーツ、アウトドアブランドに使用されているコーデュラナイロンだが、近年の最も大口の受注先はユニクロとジーユーである。

ユニクロはその後、あっさりとわけのわからない韓国企業の類似ナイロン素材に乗り換えてしまったが。

 

ソロテックスにせよドットエアにせよコーデュラにせよ、ファッション性が高いと言われる数々のブランドへ提供しているのになぜ、しまむら、ワークマン、ユニクロ、ジーユーに行き着くのかというと「受注数量」が大きいからである。

シャレオツなブランドだと最大でも1型1000枚とか5000枚、1万枚、2万枚なのに対して、これらのブランドだと生産数量は最低でも1型10万枚くらいにはなる。店頭での売れ行きが好調なら1型の生産数量は50万枚~100万枚にも達する。

生産数量が桁違いなのである。

 

何度も言うように、素材、縫製ともに大量生産に最適化した機械設備を備えている。となると、小ロット向けにチマチマ作っていたのでは却って業務に支障をきたす。またそれだけの人員も抱えている。

そうなると、受注数量が多ければ多いほどありがたいのである。

川下の人や業界外の人は「たぬきの糸車」や「鶴の恩返し」よろしく、人間が一人づつチマチマと糸を紡いでいたり、機を織っていたりすると想像しがちだが、大量生産向けのオートメーション化した機械設備(それでも人員は必要)を導入しており、そんな民芸の世界はとっくに消滅してしまっている。

物作り系が「職人の技ガー」と語ったところで、繊維の工場に限っていえば「江戸時代の職人」ではとっくの昔に無くなっているのである。(ごく一部にわざと手工業にとどめている工房はある)

 

逆に、ソロテックス、ドットエア、コーデュラの行き着く先がワークマン、しまむら、ジーユー、ユニクロであることから、繊維の工場にとっていかに大量生産が必要かということを理解してくれる人が増えてもらいたい。

 

タカキューのソロテックスジャケットをどうぞ~

 comment
  • お気楽ニャンコ より: 2022/03/11(金) 8:48 AM

    ソロテックスは
    メンズメルローズのアイテムを数枚所有していますが
    正直期待したほどの高機能性を体感する事は出来ませんでした
    少なくとも3割以上のソロテックスの混入率
    なおかつ生地の組成(織の組織)を考えないと
    期待したほどの伸縮性を感じにくいように感じました
    個人的には化繊の大きな欠点の一つ
    とにかく静電気が半端じゃないですね
    ワークマンのアイテムに使われていても正直うーん…と言ったところ
    生地は売れなければ在庫の保管場所も相当なものでしょうし…
    まぁ、ハリスツイードの物悲しい現実を考えれば当然とも言えるように思います

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