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南充浩 オフィシャルブログ

衣料品という商品は身近だが理解するには膨大な知識が必要になるという話

2022年3月9日 素材 1

衣料品というのは、全裸で生活する人がいないので、万人にとっては非常に身近な物である反面、糸・生地・型紙と非常に専門性が高く、理解するには膨大な知識が必要となる。

ここに業界と消費者とのミスマッチが生まれやすい。

また製造工程に携わる人(川上)と店頭販売員やスタイリストといった川下にいる人との知識の断絶も起こりやすい。

 

当方は川下にいる人よりは多少なりとも製造や加工に関する知識はあると自負している(本当に多少だが)のだが、ブランドのウェブサイトでの商品説明や、ファッション雑誌などの説明文を読んでいると、疑問を感じることが少なくない。

この辺りの知識の共有化は非常に難しいと感じる。

 

もう業界の人も消費者も忘れ去っていると思うが、数年前にやたらといろいろなブランドで「スライバーニット」という商品が発売された。たまに今でもネット通販で見かけるが、あれはその時の売れ残りの在庫品ではないかと思う。

ところで、この「スライバー」とはなんだろうか?

紡績関係者や川上の方ならお分かりだろうが、商品説明文を作成している方や店頭販売員はもちろんのこと消費者のほとんどはさっぱりわからないのではないかと思う。

カシミヤニットとかウールニットとか、スーピマコットンニットとかのような「原料名」だろうと思っている人は多いのではないか。

スライバーという動物がいるとか、スライバーという植物から採取された繊維とかそんな具合である。

 

紡績には何工程も存在する。原綿(げんめん)をちょちょいと紡いですぐに糸になるわけではない。「スライバー」とはまだ糸に紡がれる前の状態であり、業界的には「撚りのないロープ状の繊維の集合体」という状態で、ここから紡いで綿糸やウール糸にするわけである。平たく言うと、糸になる前の段階で「篠綿(しのわた)」とも呼ばれる。

撚らずに糸にさえなっていない状態なので、ふんわりとしたソフトな感じがある。だからこの「スライバー」で編んだニットはふんわりしていて柔らかいというわけである。

しかし、紡績の工程がわかっていないと「スライバー」とは何なのかわからないし、そもそも「スライバー」なんていう言葉すら、何年か前のスライバーニットブーム(売り手側だけが)までは聞いたことがなかっただろう。

 

最近、違和感を覚えるのは「空紡糸」についてである。

先日、たしかニューバランスのトレーナーの説明文に「オープンエンド糸だからふんわり感があります」というような一節があった。

オープンエンド糸はすなわち空紡糸なのだが、文章を書いた人は意味が分かって書いているのだろうか?またその説明を受ける消費者は意味がわかるのだろうか?

これは完全ある予想だが、書いた人も説明を聞いた消費者も「原料名」だと思っているのではないだろうか。

 

空紡糸とは空気の流れを使う機械(空紡機)でスライバーから直接糸を紡いだ糸である。

 

糸の色々:空紡糸(くうぼうし)とリング糸ってナニ? | BMC – BLUE MONSTER CLOTHING (bmc-tokyo.com)

【空紡糸】

*糸の繊維が不均一

*糸の外側に強い撚りがかかっているが、内側には撚りがかかってない

*糸に膨らみがある

*強力が高くない

*太い糸しか存在しない

*紡績効率が高い(=コストが安い)

 

などの特徴がある。糸の外側に強い撚りが製法上できてしまい、内側は逆に撚りがない状態になる。だからふんわり感が出る。

ニューバランスのトレーナーはここをメリットとして挙げているわけである。

だが、他方では、表面の触感にカサカサ感があり、何となく生地自体が軽くて頼りないと感じやすいという特徴もある。当方はこの特徴が嫌いである。

80年代はまだ糸・生地の製造工場がアメリカ合衆国に残っていた時代だが、大量生産・大量販売による製造コスト引き下げが大好きなアメリカでは、コストの安さから空紡糸を使った生地が好んで製造されたし、アメリカのカジュアルブランドはそれを好んで使用した。

一方、日本人が好んだのはリング糸で、ビンテージジーンズブームでそのリング糸への傾倒はさらに高まったといえる。

リング糸は、スライバーの後も何工程も経てリング紡績機で糸にするので、工程が多い分、製造コストは高くなる。

【リング糸】

*糸の繊維が均一

*糸全体に均一の撚りがかかっている

*糸に締まりがある

*強力(強さ)が高い

*太い糸も細い糸も存在する

*紡績効率が高くない(=コストが高い)

 

ざっくりとした特徴はこんな感じで、いかにも高品質が大好きな日本人好みではないかと思う。

あと触感でいうと、表面にシットリ感があり、生地が重い感じがする。糸の密度が高いといえばいいだろうか。

 

これは完全なる推測だが、恐らく、同じ厚さの生地をリング糸と空紡糸で製造した場合、重量計で計った重さは同じだろうと思う。しかし、手に持った感覚はリング糸生地の方が重く感じられるだろう。

あと、空紡糸使いの生地は表面に毛羽立ち感があるが、リング糸生地は毛羽立ち感が少ない。洗濯を繰り返せばもっとひどくなるだろうから、その辺りも表面感の粗野さが出やすく、これを好む人もいるのだろうが、当方は苦手である。

 

で、当方はどうしても空紡糸使いのトレーナーが「良い物」とは思えないのである。

もともとアメリカは低価格品と生産効率追求のために空紡糸を好んで製造し使用していた。その過去を知っているとどうしても空紡糸=廉価品というふうに捉えてしまう。

最近でいうと、トレンドがそうなのだろうが、80年代のリバイバルファッションで、のっぺりとした色落ちのデニムが好まれる傾向にあり、それと相まって低価格対応ということでジーユーやアダストリアには空紡糸使いと思われるパサついた密度の軽い触感のデニム生地製品が多く並んでいる。

先日、ジーユーで定価1690円から990円に値下げされた(990円だから買った。それ以上の値段なら買っていない)デニムバルーンパンツを購入したが、これは完全に空紡糸使いのデニムである。手触りのパサつき感と生地の軽量感から判断するとそうなる。そして、当方の目からすると「チープ感満載」に映る。まあ、定価からしてチープなのだが。

 

 

 

ただ、安く作った物を高く売るというのは、ブランドビジネスの鉄則だから、件のニューバランスの空紡糸トレーナーの売り方としては正解だとは思うが、当方は定価では絶対に買いたくない。

 

今回も長々と書いてきたが、ファッション性とかトレンド性では低価格ブランドも所謂ブランド品も遜色がなくなり、最近はもったいをつけるために素材や製法に言及することが増えている。しかし、そのあたりの正確な知識がないと「単なる商品名」にすぎなかったり、メリットを強調しすぎてデメリットとのバランスが悪くなったりする危険性が高くなってしまう。

 

この辺りを改善するような普及活動というか啓蒙活動というか、そういう取り組みが必要になるのではないかと思い始めた今日このごろである。

 

オープンエンド糸のユナイテッドアスレのTシャツをどうぞ~

 comment
  • BOCONON より: 2022/03/11(金) 7:00 PM

    先日スーツセレクトで買ったネクタイをよく見るとタグに「COOTON72% SILK28%」と書いてあって「あんまり聞いた事がないな,綿と絹の混紡なんて」と思いましたが,最近案外と比較的お安い店でも凝った生地を使っていてちょっと驚くことがありますね。去年秋葉原のヨドバシカメラの専門店街のお若い人向きの洋服店(もう撤退したようですが)で見たケーブル編みのセーターなども独特のしっとりした感じの色合いがいい感じで「これは…」と思ってよく見ると綿(と何かの混紡)でした。気に入ったのだけれど「綿ニットは長く着てると得てして伸びちゃうし,なんかこれ,生地が薄いな」でやめておきました。百貨店などでも,あまり昔は見たことがなかったシルクとウールの混紡のネクタイとかウールのネクタイなどを時々見ます。

    最近「どうにかして特色を出したい」と思うのか「意外に凝った生地を使った商品」が多いですが,実際のところあまり売り上げには結びつきそうにない感じがするし,実際特に売れてもいないと思う。どうも努力の方向が間違っている気がします。一般の消費者にとって有益なのは最近「一見ウールにに見えるポリエステル100%の生地を使ったジャケット」と云ったものが珍しくなくなってきた事くらいではないか。
    僕の周りでもカシミヤのマフラー(と言っても中国産の安いもの)の使っていないのを弟に上げると,弟の嫁さんや姪などが「カシミヤごときでそこまで…」と思うほど目の色変えてさわりたがる,と云った程度で,ましてコットンだと海島綿もインド綿もエジプト綿もコットンUSAも区別つかない人間ばかりです。ましてやその織り方や編み方の違いなんてものをアピールしても,世の中のほとんどの人間にとってあまり意味はない気がしますね。

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