「カイハラ製デニム」の1900円ジーンズに感じるワークマンの意図
2022年3月7日 ジーンズ 2
案外と各メディアの取り扱いが小さくて意外だったのが。ワークマンがカイハラのデニム生地を使った1900円ジーンズを発売するという話題である。
ワークマン カイハラ製デニムで1900円のパンツ販売 | 繊研新聞 (senken.co.jp)
ウェブ記事ではこの繊研新聞くらいしか掲載されていない。
その繊研新聞の記事も実に手短である。
ワークマンは3月下旬、カイハラの高品質なデニムを採用したPBの5ポケットパンツを発売する。同社のデニムパンツは作業用のカーゴタイプが主体で、一般客からのスラックスタイプの要望が非常に多かった。そこで一般客向けに、初めて5ポケットのデニムパンツを開発。カイハラのデニム製ながら、他社製品を大幅に下回る税込み1900円で販売する。
とのことである。
めちゃ短い。
ワークマンという企業は実に懐の深い部分があり、当方にも必ず逐一ニュースリリースが送られてくる。もちろん今回も同じ内容のリリースが送られてきた。
デニム業界に長く携わった当方としては、かなり注目したが、業界ウェブメディアでは掲載されているのは今のところこの繊研新聞だけだ。
やっぱりデニム業界寄りの人間の興味と、業界メディア、ひいてはマス層との関心は大きく乖離していると感じた。
先に挙げた繊研新聞の記事はワークマンのリリースに忠実に書かれている。ワークマンのリリースで気になったのはジーンズを「スラックスタイプ」と呼んでいるところである。他方、同じリリース内でも「5ポケットタイプ」とも書かれてある。
ここは、ワークマンのリリース作成の手落ちといえる。
なぜなら、業界内で「スラックスタイプ」といえば、わかりやすくいうと、タックの有る無しにかかわらずメンズスーツのズボンのような形を指す。ジーンズと同型のズボンは「5ポケット」と呼ばれる。ワークマンはこれを混同してリリースを作成している。しかし、厳密に区別した方が消費者の混乱も起きないから今後は改良すべき点である。
リリースによると年間販売目標は20万本で、レディースジーンズは通常ワークマンでは店舗陳列せず、ワークマン女子とショッピングモール内のワークマンプラスで販売、それ以外ではウェブ受注・店舗受け取りに対応するという。メンズジーンズは通常ワークマン店舗でも陳列するようだ。
当方を含めてデニム業界に多少なりとも知識のある方が注目されたのは「カイハラ製のデニム生地で1900円」という点だろう。
ジーユーを始めとする各低価格ブランドにも1900円ジーンズはある。しかし「カイハラ製のデニム生地」を謳っているのは知っている限りにおいては無い。
ユニクロの3990円ジーンズ未満の価格帯のジーンズでのカイハラ製デニム生地の使用は無い。
ユニクロの3990円ジーンズとて、ユニクロの莫大な生産数量だからこそ使用できると言われている。
そういう意味では、デニム業界人にとっては、12年前のジーユーの990円と同じくらいの衝撃が1900円のカイハラデニムジーンズにはある。
カイハラは広島県福山市の紡績から整理加工までの一貫生産が可能な国内唯一のデニム生地メーカーである。少しでも製造関係の知識がある人なら誰でも知っている企業である。2016年からは直営のタイ工場を本格稼働させているので、現在は国内とタイと2拠点生産を行っている。
当方は、この低価格ならタイ工場製なのではないかと想像していたのだが、某氏からのタレコミによると「国内生産生地」だという。
そこでワークマン本社にもメールで確認したところ、タレコミ氏のいうように「生地は日本製」とのことで「縫製と洗い加工はバングラデシュ製」とのことだった。
生地においては1900円ワークマンジーンズは凄まじいコスパだといえる。
ではどのようにして国内製生地でこの安値を実現したのだろうか。20万本という販売数量はたしかに多いが、ユニクロとは全く比較にならない。20万本程度の生産で1900円ジーンズが実現できるならユニクロはとっくに実現できているはずである。
この辺りはまた情報を集めてみたい。
今回のこの5ポケット型ジーンズの発売というのは、ワークマンにとっては完全にカジュアル需要狙いだということで、各低価格カジュアルブランドを蚕食する狙いがあると考えられる。
なぜなら、デニム生地使用という点においては、すでに何年も前から作業服業界においては、一種のトレンドとしてワークマンに限らず、バートル、アイトス、クロダルマなど各作業服メーカーが大々的に使用してきており、作業服業界においては人気商品となっている。
ただし、作業服デニムパンツの特徴は、作業服としての形状ばかりで、例えば両腿にカーゴポケットが付いているとか、膝部分にステッチが入って強化されているとか、そういう作業服機能を実現させたものしかない。作業服として着用するには5ポケットジーンズというのは形状機能的に不便なのである。
だから、作業服にもデニムにも詳しくない人達が「作業服がデニム生地を取り入れる」なんていうのは的外れの極みなのである。
すでに何年も前から売れ筋の一つであるデニム生地作業服パンツとは別に5ポケット型ジーンズを打ち出す理由は、完全にカジュアル需要向け対応なのである。
そしてその標的は、ユニクロやジーユー、しまむらを始めとする低価格カジュアルブランドである。
同じファーストリテイリングの低価格カジュアルブランドとはいえ、ユニクロとジーユーは、商品企画から販促手法まで全く違う。
ユニクロはジーユーよりも高いが、カイハラデニム、スーピマコットン、カシミヤなど「ブランド素材」を使用することで低価格の割に付加価値が高いことを訴求している。
ジーユーはユニクロよりも低価格だが、トレンド性の高いデザインが売りだが、「ブランド素材」の使用はない。むしろ、安いから素材にはさほどこだわっていませんというスタイルである。
ワークマンが今回のカイハラデニムジーンズも含めて近年やっていることは、ユニクロの素材スタンスを取りながらジーユーの価格で売るという政策だと当方は感じる。
ワークマンはこれまで、綿100%9オンスヘビーオンスTシャツ(980円)、メリノウール混靴下(780円・980円)、メリノウール混1900円セーターといった具合に「ブランド素材」を使用した低価格カジュアル服の投入を増やしている。1900円のカイハラデニムジーンズもその一環だといえるだろう。
この手法は理想ではあるが、ファーストリテイリングでさえこれまで実現できなかったため、ワークマンがこのままこの手法を確立できれば、カジュアル衣料品業界にとっては相当な脅威になる。しかし、その一方でファーストリテイリングでさえ実現できなかった手法をワークマンがこのままあっさりと実現できてしまうとも考えにくい。一過性の打ち上げ花火で終わる可能性も決して低くはない。
今後、引き続き注目したい。
そんなわけでバートルのデニム作業ズボンをどうぞ~
comment
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南ミツヒロ的Gパン愛好者 より: 2022/09/07(水) 9:08 AM
>ワークマンがこの手法(ユニクロレベルのブランド素材をGU価格で
>かつデザイン性ファッション性もGU)を確立できれば
>カジュアル衣料品業界にとっては相当な脅威になるこの分析は妥当でしょうか?
ユニクロなのに、メリノウールだから・カイハラデニムだから
買っている消費者はほぼゼロだと思いますというのもフリースにヒートテックなのがユニクロ
そしてこの手の高機能ものに我々は
20数年慣らされきっているからですしたがって2022年現在の40代以下は、
そもそもウールとポリエステルの違いが分からない人が
少なくないのでは?新橋のリーマン諸氏に「ウ~ルって何の毛ですか?」
と聞いて「ひつじの毛」と答える人は4人に1人ぐらいでしょうこの現状でウールの中で高品質なメリノだシェトランドだ
ツィードだといっても、それが高品質=値段が高くてもOK
と取る人は少ないと思いますましてやデニムのカイハラとなると・・・
名前を知っている人は300人に1人レベルです
「お若い人たちは今のところあまりブルージーンズは穿こうとしないのでカイハラ製デニムが売れたとしてもそれほど売り上げ規模が大きくなる見込みはないからこのニュース,繊研新聞なども扱いが小さいのではないのかしらん」というのは僕の単なる推測ですが ...
先日ワークマンプラスを見物に行ってみたのですが,正直な感想を言えば個人的には「ユニクロ同様,大方の商品は僕がオシャレで着るようなものじゃないな」といったようなものでした。まあこの先どういう方向に行くかはわかりませんが。
それでも以前南さんが取り上げていたデニムのワークパンツは確かに出来が良いと思いました。でも通りすがりのオッサン氏が言うように,僕ら中年以上の客にはスキニーと言っていいくらい細すぎてどうにも手が出ない。太もものところについているポケットが妙に膨らんで見えて,何だかニッカボッカを長ズボンにしたような面妖なシルエットだった。
近所のホームセンターに行った時見たものも同じように細く,しかも相変わらず見るからに洗濯したらものすごく色落ちしそうな感じ。実際東京でたまに見るその手のズボン穿いている人のそれは今どき珍しいくらい色落ちして水色に近い感じの色味になっている。それで結局あんまり買う気が起きないのでした。
・・・という訳で,僕としては「カイハラ製の生地使うなら,それこそデニムの作業パンツやカーゴPに使ってもらいたいな。それなら1本や2本喜んで買う。極端に色落ちする心配もないだろうし,フツーのジーパンならさすがにもう何本も持っているし」といったところであります。