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南充浩 オフィシャルブログ

青山商事の麻布テーラー買収で完全なる終焉を迎えた「谷町アパレル」

2022年3月3日 企業研究 3

「麻布テーラー」が青山商事に買収されることとなった。

青山商事が「麻布テーラー」運営会社を買収 – WWDJAPAN

 

紳士服最大手の青山商事は28日、オーダースーツ「麻布テーラー」などを運営するエススクエアード(大阪、清水貞行社長)の全株式を取得すると発表した。取得金額は非公表。

持ち株会社エススクエアードの傘下にメルボメンズウェアー、メルボ紳士服工業などがある。中でもメルボメンズウェアーが展開する「麻布テーラー」は高いブランド力で知られており、エススクエアードの業績は非公開だが、「麻布テーラー」は全国で26店舗を運営している。メルボ紳士服工業は広島県と滋賀県に自社工場を持つ

 

とのことである。

いろいろと感慨深い。新体制は

 

エススクエアード、メルボメンズウェアー、メルボ紳士服工業の社長には、4月1日付で青山商事の岡野真二・取締役兼常務執行役員商品本部長が就任する。

 

とのことであり、メルボは創業家の清水家の手から離れることとなる。

記事中にあるエススクエアードの清水貞行社長は3代目で、こう書くと若者を想像される方もおられるだろうが、清水社長は当方よりも年上で、4代目となる御子息も成人していてメルボメンズウェアーの副社長を務めておられる。

 

 

大阪市内は京都市や札幌市と同様に碁盤の目のように道路が東西南北に走っている。

南北に走る道路を「筋」、東西に走る道路を「通」と呼ぶ。

南北では御堂筋、堺筋、谷町筋、四ツ橋筋などがあり、東西では長堀通、中央大通などである。この「谷町筋」界隈にメンズスーツアパレルがかつては多く集まっており「谷町アパレル」とも呼ばれた。

メルボグループはその「谷町アパレル」の1社だった。

 

90年代後半から、メンズビジネスシャツアパレル(カネタ、信和シャツ、松屋シャツ、など)大手が続々と倒産し始めた。

99年にはオンリーが日本初のツープライススーツショップ「スーパースーツストア」を開発、2000年には青山商事が「スーツカンパニー」で追随を始めた。

そして2000年代前半から谷町アパレルが苦境に陥り、トレンザが民事再生法を申請し、2001年11月にはメルボ紳士服も民事再生法を申請した。

この当時、メルボ紳士服は非上場ながら、業界紙数社を集めてザックリとした決算発表を行っていた。20年前の記憶を掘り起こすと、たしか、決算会見の半年後ぐらいに民事再生法の申請が発表されたはずである。ちょうどその決算発表に当方も出席しており、直後の民事再生法申請に驚いた記憶がある。

その決算発表の席上で、ベテラン業界紙記者が「麻布テーラーはどうですか?」とボソっと質問したことを覚えている。

実は当方はこの時(2001年秋)、麻布テーラーの存在を知らなかった。

麻布テーラーは99年にひっそりと開業された。会見の席上でも当時の清水貞行社長が「こっそり始めてボチボチやってるんですわ~」などと呑気な口調で答えておられたのを覚えている。

なぜ、こっそり始めたのかというと、メルボ紳士服は基本的に卸売りが主要業務で、ユニクロのフリースブーム(98年~)、GAPの上陸などを経験していたとはいえ、まだまだSPAへの風当たりは強かった。

逆にユニクロブームを経験した後なので小売店は卸売りメーカーのSPA型直営店出店に神経をとがらせていたともいえる。

そんな事情があり、こっそりと始めたという答えにたどり着く。

 

シャツのカネタ、信和シャツは民事再生法を申請したにもかかわらずスポンサーは現れずあっけなく破産整理に追い込まれてしまったから、経験の浅い当時の自分は、メルボ紳士服も同様に破産整理になるに違いないと見ていた。

しかし、再建されることとなった。理由は「麻布テーラー」が評価されたからだ。

言ってみれば、古臭い卸売り業務から、新しいSPA方式に全面的に切り替える好機であると判断されたわけである。

恐らく、麻布テーラーが無ければこのとき破産整理されていたと当方は考えている。

 

2002年以降、スーツ業界はツープライススーツストアの乱立でそれが主流となったが、他方で、その頃からクラシコイタリアブームが起きていた。当時はワイドスプレッドカラーのワイシャツにコンビニのおにぎりくらいデカい逆三角形のネクタイの結び目を合わせることがかっこいいとされていた。革靴の先端は凶器のように尖っていた。

イキったマス層ではない男たちは、ありふれたツープライススーツストアなんて眼中になく、それよりは少し高いが10万円以下のオーダースーツを販売する「麻布テーラー」に注目し、積極的なメンズファッション雑誌への広告出稿による知名度の高まりと相まって、民事再生法から一転して人気ショップとなった。

恐らく、麻布テーラーの黄金期は2002年から2010年頃までだろう。

2010年以降、徐々に露出が減ってきて、個人的な体感では2015年頃から雑誌媒体への露出や広告出稿が激減したと感じており、この頃から恐らくは業績がピークアウトし始めたのではないかと思っている。

 

官報によると、2018年2月期のメルボメンズウェアーは売上高が未公表ながら純利益は1億8928万円あった。しかし、2019年2月期には純利益は前年比62・54%減の7090万円に激減、2020年2月期は純損失125万円と赤字転落している。

メルボメンズウェアーという会社は小売部門なので、麻布テーラーの運営はこの会社がやっていたといえ、メルボ紳士服工業は工場部門である。

2019年2月末といえば、コロナ禍など起きることさえ予想できなかった時期で空前のインバウンドブームに沸いていた当時である。純利益とは営業成績を直接的に反映するものではないとはいえ、空前のインバウンドブームにもかかわらず、小売部門の純利益が大幅減益していたということは、業績的にはすでにピークアウトしていたと考えられるのではないかと思う。2020年2月期も同様だ。コロナ禍が深刻化するのは2020年3月以降なのに、2月末締めの段階で赤字転落している。かなり業績は悪化していたのではないかと考えられる。

 

今回、なぜ、青山商事へ身売りしたのかというと、恐らくは業績の低迷が原因ではないかと考えられる。21年2月期の純損失は赤字幅をさらに拡大しているからだ。

21年2月期の純損失は1億8263万円である。22年2月期は未発表ながら、コロナ禍も手伝って21年2月期よりも拡大していると当方は推測している。

だから青山商事という大手に売却することを決めたのではないだろうか。それがかなわなければメルボグループは21年ぶり2度目の経営破綻に見舞われることになったのではないだろうか。

 

さて、今回の件で強く感じたことは、中途半端な規模のアパレルブランドは、大手に吸収され、市場は大手数社か、多数の小規模零細業者か、という形にますます集約されるのではないかということである。メンズスーツに限らず全ファッション分野で。

 

 

トレンザは民事再生法申請後復活したが業績は鳴かず飛ばずである。大賀は企業規模を大幅に縮小し、大阪本社は谷町から工場のある枚方へ移転してしまった。ロンナーは工場を他社に譲渡して2020年に解散廃業した。

メンズの尾上繊維、ロンナーの自社工場を譲り受け 旧従業員も再雇用 – Apparel Business Magazine アパレル・ビジネス・マガジン (apparel-mag.com)

当時の規模のまま残っているのはジョイックスコーポレーションだけである。そのジョイックスも本社機能のほとんどを東京に移転してしまった。

民事再生法から奇跡の復活を遂げたメルボだったが、20年後に青山に買収されることとなってしまった。

すでにとっくの昔に往年の面影は無くなっていたが、「谷町アパレル」は完全なる終焉を迎えたといえる。

 

 

 comment
  • 恥じ入る乞食 より: 2022/03/04(金) 8:03 AM

    しょうもない指摘で恐縮ですが、「トレンザが民事差製法を申請し、」の部分が誤記となっています。

  • BOCONON より: 2022/03/10(木) 9:16 PM

    大賀と言えば,大賀が手掛ける池袋西武のティモシー・エベレストで去年スーツを買いました。少し高齢の販売員氏が今まで気がつかなかった僕のヘンな体つきのクセ(反身というのだそうです)のせいでスーツ姿が後から見るとヘンなところに皺が出来ているのを指摘,既製服なのに大幅に修正してくれ,全体を見てもたぶん既製服で手に入るものとしてはこれ以上に僕の体つきをキレイに見せてくれるものはあまりあるまい,と思うようなものが出来上がった。僕はこの齢になって今さらながらやっとまともなスーツが手に入った気分でいました。

    でも今年の2月になって葉書が来て,池袋西武は撤退するとのこと。まことに残念な事です。僕だけの問題ではなく,中高年向きなブランドとしては,マッキントッシュ ロンドンなどはスーツなんてろくに店に並んでいないような有様だから,T.エベレストは続けていけばそれこそ第二のバーバリーになり得るとも思えたので。

    しかしまあ以前書いたように,これはコロナの影響ばかりではなく,スーツの時代が終わりつつある事の顕れと思うと致し方ない気もします。何しろもう,英国ウィリアム王子もヘンリー王子もマクロン大統領もプーチンも,まるで警官か警備員の制服のように紺スーツに白シャツ、紺無地タイ…なんて実につまらないし見栄えもしないスーツ姿になっていますからね。ああいう地位の高い人たちですら「いちおう形だけはちゃんとスーツ来てるんだからいいじゃん」と云ったあからさまにいい加減なスーツ姿をして恥じない品下れる世の中じゃもうね,T.E.以外も百貨店でスーツ,いやカジュアル服も買う人は減る一方だろうと思われます。もうよっぽどの事がなければ,スーツですら(一部のハイブランドやモード系を除けば)安いものしか売れなくなって行くだろうと思ったことでありました。

  • BOCONON より: 2022/03/10(木) 9:50 PM

    麻布テーラーについて言えば,むしろクラシコイタリア風よりクラシックな英国調スーツが作れるというので,チャールズ皇太子の若い頃のスーツ姿が一番エレガントだと思っている僕は一度話を聞きに行きましたが,パターン・オーダーの型見本があまり体つきに合わなかったのでやめておきました。P.O.は要するに既製服と同じようなもので,生地や色柄は選べるけれど,形は型見本通りだからそれが合わなきゃそれまでなので。・・・そもそもクラシックな英国調スーツが似合う背が高くて頭が小さくて縦長でエレガントな日本人なんてものがそんなにいるか,という問題もありますが。

    で,自分に合わなかったから言う訳じゃないが,世の中既製服が上手く選べるような人なんて滅多にいないから「こういう商売,固定客がつくのだろうか?」と思った。「この店のパターンが体つきに会う人でなきゃリピーターにはなるまい」と。でまあやっぱりそれほどリピーターはつかなかった感じですね。麻布テーラーに限らず,GLOBAL STYLE 等もZOZOスーツと同じで一度は「オーダー」という言葉に踊らされても,たいていの人は冷静になればいづれ「ウーム・・・もしかしてオレのスーツ,カッコ悪くないか?」となるのは必定であろうから。

    しかしそうなるとなんで青山商事が麻布テーラーなんて欲しがったのか謎ですね。パターンオーダーなら青山商事も手掛けている筈だけど,あんまりパッとしないから強化しようと思ったのか知らん。だとしたらこの買収は失敗で,後で荷厄介になりそうな気が僕はしますね。だってもうそんな「凝ったスーツを多少お高くても作りたい人たち」なんてマーケットは消滅しつつあるとしか思えませんからね。

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