「スーツに見える作業服」が高価格では売れにくい根本的な理由
2022年3月1日 トレンド 3
だれだってどんな企業だって自分の商品やサービスはできるだけ高く売りたい。
しかし、物やサービスには「相場」があり、提供者が望む価格が高すぎると通らない。そういえば何年か前に聞いたのだが、当時、自分自身で価格を上げすぎて契約が減ったベテランコンサルタントが業界にはチラホラいたという。「できるだけ高く売る」というのが商売のコツではあるが、「相場」を越えた高さは売れにくいということである。
スーツに見える作業服を開発したオアシススタイルウェアが親会社のオアシスライフスタイルグループに吸収合併された。
2017年12月の設立なので4年間でもとに戻ったといえる。
作業着スーツ「WWS」を展開するオアシススタイルウェア、親会社が吸収合併 (fashionsnap.com)
オアシスライフスタイルグループが、2月28日付で子会社であるオアシススタイルウェアを吸収合併した。オアシスライフスタイルグループが存続会社となる。
合併後は、新たに「WWS 事業部」としてオアシススタイルウェアが企画および販売を手掛けているスーツに見える作業着「ダブリューダブリューエス(WWS)」のブランド展開を継続していくという。
とのことである。
業界内では、設立当初は勢いがあったものの、2020年ごろから売れ行きが低下し始め、今回の措置になったと噂されている。
たしかに実店舗を見ても、20年以降はあまり客入りも無さそうで売れているようには到底見えなかった。
現在の売上高などは公表されていないが、2020年2月にはこんな壮大な目標を掲げていた。
“スーツに見える作業着”がブランド刷新、目指すは「上場&5年後100億円」 – WWDJAPAN
2025年2月期までに15店舗・売上高100億円を目指す。「WWS」に加え、関谷有三オアシスライフスタイルグループ(以下オアシス社)代表取締役は「(中略)5年後をめどに上場も視野に入れながらまずは時価総額1000億円、いずれは1兆円を目指したい」と意気込む。
ということだが、目標の2025年2月期を待たずに2022年2月期を最後に再び親会社に統合するのだから、計画を下回って推移したということになる。
20年以降の売れ行きが停滞した理由は、他社から低価格の類似商品が出たためだろう。その低価格の類似商品とは
1、AOKIのアクティブワークスーツ
2、ワークマンのリバーシブルワークスーツ
これが二大巨頭だろうと当方は見ている。
AOKIのアクティブワークスーツは当初5000円を切る価格だったが、現在は5700円ほどで販売されている。ワークマンのワークスーツは今春物で4980円と破格値の安さである。
一方、WWSは上下セットで33000円となっており、AOKIの5倍強、ワークマンの6倍強という高嶺である。
これでは売れるはずがない。
もちろん、業界の大手たるAOKI、ワークマンの生産数量はWWSに比べると大幅に多いから、製造コストは圧縮され店頭販売価格を抑えることができる。
恐らくWWS側も価格で太刀打ちできないことはすぐさま気が付いたと見え、その対策としてリブランディングを行った。
これだ。
ワークウェアスーツがリブランディング、UA重松理氏がディレクションを担当 (fashionsnap.com)
リブランディングのディレクションはユナイテッドアローズの重松理名誉会長、新たに制作したブランドロゴはアートディレクターの葛西薫がデザインを手掛けた。
2020年2月のことだ。
自分はこの取り組みに一体何の意味があるのか疑問で仕方がなかったのだが、「競合よりも5倍以上高い値段でも売れるようにするためのリブランディング」ということではないかと思う。
だが、読みは甘かったと言わねばならない。この商品の本質は高値で売れる物ではないからだ。
なぜなら、このWWSやアクティブワークスーツ類の本質は「作業服」に過ぎないからだ。
ハッキリというと「スーツに見える作業着」のアイデンティティは「作業服」にある。作業服は短期間で買い替え買い足しする商品で、嗜好品ではないから安ければ安いほど喜ばれる。
ワークマンのワークスーツなんかは「作業服」というアイデンティティに忠実に価格設定されているといえる。
一方、世間には、この33000円よりも安い「スーツ」もざらに存在する。例えば青山やAOKI、はるやま、コナカあたりの既製服スーツである。2万円台から存在する。
生地もポリエステル混でウォッシャブルなものも多く、頑丈だから作業服としても使える。
価格面で見ても、青山などの2万円台のスーツの方が安い。だからこちらを買うという人も多いだろう。自分もWWSよりは2万円台の青山スーツを買う。
だが、ワークスーツやアクティブワークスーツよりも高いじゃないかと思われる方もいるだろうが、青山などの2万円台のスーツは、「作業着としても使えるスーツ」である。
素材がタフなので作業着としても使えるがその本質はスーツである。スーツが2万円台なら破格値である。だから2万円台のスーツなら高すぎるとは思わない。
おわかりだろうか?
「スーツに見える『作業着』」なら33000円は高すぎる。
しかし、
「作業着としても使える『スーツ』」が2万円台なら高すぎることはない。
この違いである。
スーツと作業服では見た目の形が似ていてもパターン作りや縫製、芯地が異なる。だから2万円台のスーツなら高すぎるとは感じないが、33000円の作業服は高すぎると感じる。
これがジーンズのように完全にカジュアル化され嗜好品化していれば、33000円でも一部のファンには通ったかもしれない。しかし、登場してから4年強では、そこまで定着化していない。定着化していない時点で、ワークマンやAOKIという大手に価格競争に持ち込まれたら、いくら著名人を使ってリブランディングしようとも、太刀打ちできない。
当方はWWSの33000円という価格を見ると、冒頭で述べた「価格設定が高すぎて仕事が減ったベテランコンサルタント」と同じではないかと思う。
そのアイデア自体は素晴らしかったが、作業着という分野の商品を、リブランディングという上っ面の化粧を施しただけで高く売ろうとする姿勢は、商品の本質とは著しく乖離していたといえる。
たまたまWEB広告で、同社の新商品であるMA-1ブルゾンが流れてきた。
形は普通のMA-1である。可もなく不可もない。だが価格を見て驚いた。
・中綿入りが19800円
・中綿なしが16500円
なのである。
作業服という観点ならあまりにも高すぎる。カジュアルという視点なら高すぎるとは言えないが、WWSにそれに見合ったブランド力は今のところ無い。
カジュアルとしてこの価格の商品を買うなら、WWSではなくアルファインダストリーズあたりの商品を当方なら買う。
作業服として買うならワークマンかジーユーで2990円くらいで買う。
そして、スーツに見える作業着から発生したブランドに作業服に先祖返りしたようなMA-1 ブルゾンが本当に必要だろうか?ブランドのラインナップとしておかしいのではないだろうか?
WWSの顛末を見て思うことは2つある。
1、商品の本質にそぐわない高価格設定と後付けブランディングは支持されにくい
2、アパレルは参入障壁こそ低いが継続することはかなり難しい
ということである。
スーツに見える作業服というアイデアは確かに面白かったが、大手競合による価格競争への対応、新商品を生み出し続けるという作業の難しさ、が如実に表れているのではないかと思う。
comment
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とおりすがりの元・服売り より: 2022/03/01(火) 1:37 PM
おそらく、この手の商品を求める人ってそもそも通常のスーツではメンテが煩わしい、動きにくいのが嫌という発想のものぐさな人だと思います。
その中でも、上下3万円ともなるとプラスでシルエット等の付加価値にこだわりがある人かと思いますが、そんな人がどれだけいるか…。
自分は、もしシルエットや生地感がいいものだったら買ってもいいとは思いますが、少数だと思います。あとは単に知名度の差ですかね。
ぶっっちゃけワークマンやAOKIと比べれば知名度が全然ないです。
自分も知らなかったですし。 -
BOCONON より: 2022/03/11(金) 1:49 PM
僕も何か書こうかと思ったけど,南さんの本文とコメントでもうじゅうぶんですね。むしろ「こういうの,誰か止める奴はいなかったのか?」と言うべきじゃないかと思う。「もしかして社長か社長の馬鹿息子がやりたいって言い出して誰も止められなかったとかかな?」と僕は邪推してしまいます。池袋で言えば,所謂ツープラですら消滅しかけている有様だから尚更。
ザ・スーツカンパニーは青山本店ビルに吸収されてしまったし,P.S.F.A. は事実上廃業したに等しいし,スーツセレクト駅前店は撤退したし,東口店で僕は先日ネクタイを買ったのだけれど,販売員の応対がどことなく「この店平日は滅多にお客来ないんだな…」と云った按配だったし(別に失礼な態度だったわけではないが,そういうのは何となくわかるものです)。つまりは安価なスーツを売るなんて商売自体が崩壊しかけている中にあっては,正直もはや「いかに新しい事業を始めて成功させるか」じゃなくて「いかにうまく衣料品事業から撤退するか」を考える方が賢い,としか僕には思えないのでありました。少なくとももう15年以上も前から「もうすぐ日本は財政破綻する!」などと言い続けている恥知らずな財務省のオオカミ少年が野放しになっているような国じゃあねえ ...
リブランディング会見のリンク記事を見たら、ユナイテッドアローズの重松理名誉会長氏がバリバリの和服姿でワロタw
あと、「アパレル界のアップルを目指す」とか言ってるのも壮大すぎて草。
うちの潰れかけ金属加工工場のバカ社長は、「赤いものは赤字を呼ぶ。私は赤いトマトは食べない」って言ってる○○○○な某有名経営コンサルタントの指導を真に受け、B to Bオンリーで誰もロゴなんか気にしていないだろう会社なのに、会社ロゴを赤から青に変えたことありましたが、一向に赤字は解消しませんでしたw
ホント、なんで世の経営者さん達は、簡単明白な本質が分からないんですかね・・・