ジーンズの着用率が落ちたのはビンテージジーンズブームに遠因があると考えられる理由
2022年2月28日 ジーンズ 4
少し以前に、某メディアから「ジーンズの復権はあるのか?」という設問について打診されたことを書いた。
ちょうど同時期に同じ内容でライトな記事が別媒体で掲載された。
当方は1970年生まれで今年52歳になる。自分よりも上の世代で70歳くらいまでは若い頃にジーンズに慣れ親しんでおり、現在でもジーンズを愛用している人は多い。
自分よりも下の世代だとどうだろうか、40代前半か30代後半くらいまでは同様だろうか。
それ以下の世代になると、ジーンズに対してそこまでの愛着はないのではないかと思う。
実際に現在、街行く人を見てみると、20年~30年前に比べると、ジーンズの着用者数は少ない。もちろんゼロではないが、自分が若い頃、特に大学生時代と比べると若者の着用率は激減していると感じる。
大学生当時の男子学生はまるで制服かのようにジーンズを着用していた。ブランドやブルーの色合い(濃淡)は様々だが、大学構内の男子学生の体感的には7割とか8割はジーンズを穿いていたのではないかと思う。
その当時にまでジーンズの着用率が今後復活することはあるのか?と問われると当方はあり得ないと答える。
もちろん、季節のトレンドによってジーンズが注目されることはあるだろう。しかし、以前ほどの着用率、定着率にはならないだろうと思っている。
理由は、この10年間くらいで「ジーンズよりもはるかに快適なカジュアルパンツに慣れ親しんだ」からだ。
何度も書いているが、ストレッチ性、速乾性に優れた機能性カジュアルパンツがいくつも存在する。
・スエットパンツ
・ジョガーパンツ
・ストレッチスラックス
・ワイドスラックス
・防風パンツ
などなどだ。
元ジーンズ店の販売員&店長経験者として、長らくジーンズを着用することを優先してきたが、2015年以降は自身のジーンズの着用率がめっきりと減っている。
理由は上記のような商品群を着用し始めたからだ。めちゃくちゃ「ラク」である。もうジーンズだけを着用する生活に戻りたいとは思えなくなってしまった。
着用することがあったとしてもストレッチジーンズか、ややワイドタイプで、綿100%レギュラーストレートなんて頼まれても着用したいと思わなくなった。
現在の20代はストレッチ系やスエットパンツ類に幼少期から慣れ親しんでいるから、10年後、20年後も従来型の王道ジーンズに回帰することはないだろう。
従来型のジーンズは、快適性・機能性で他のパンツ類に後れを取ってしまったと言えるのではないだろうか。
ではなぜ、従来型ジーンズは快適性・機能性をアップデートできなかったのか、である。
世の中の事象には様々な要因が絡みあって結果が出ているが、最大の要因は
「ビンテージジーンズブームの成功体験が大きすぎた」
ということが挙げられるのではないかと思う。
もう何度も書いているから飽き飽きしている方は少しスクロールしていただきたい。
95年頃から俄然盛り上がってきたのがビンテージジーンズブームだった。いわゆる何十年前のジーンズを復刻させ、再評価するというものである。
これはこれとして一つのファッショントレンドとして全く否定すべきものではない。
80年代に入って、紡績機や織機が大幅に進歩した。
ストレートで滑らかな糸を紡績できるようになり、織機の改良で広幅の生地が織れるようになった。これによって過去のジーンズに使われていたような凸凹した表面感のデニム生地が無くなり、フラットな表面感のデニム生地が標準となった。
また染色や整理加工も色落ちしにくくソフト感のある加工法が開発され好まれた。
これの延長線上にあって究極的に突き詰めたのが、90年代前半にあったレーヨン混デニム生地によるソフトジーンズブームだったのではないかと思う。
そしてこのブームが終わるころ、全く真逆のビンテージジーンズがブームとなった。
これによって、80年代以前の節くれだった綿糸を使い、凸凹した表面感のデニム生地が再度注目を集めることとなった。
ヒゲやアタリ感と呼ばれるメリハリの効いた色落ちこそがデニム生地の王道と再評価されることとなった。
ビンテージジーンズブームは2000年頃に下火となるが、デニム生地の標準としては残ったままで、2000年代半ばのプレミアムジーンズに使用されていた生地もビンテージ系デニム生地の亜流だったと言える。
およそ、15年間くらいは、ビンテージ系デニム生地がデニム業界では標準とされ、望ましい物とされた。
2008年からのスキニージーンズブーム前半でもまだその余韻は残っていたと感じる。
しかし、2010年以降になると
・色落ちしにくいデニム生地が欲しい
・ストレッチ性の高いデニム生地が欲しい
・軽量感のあるデニム生地が欲しい
というような要望がトレンドによって出てきた。
だが、国内のジーンズ業界はこれらに対して「邪道」というレッテルを貼り完全否定していた。
いわく「色落ちしないデニム生地は邪道」「ストレッチ混デニムは邪道」「合繊混(軽量化するにはポリエステルが最適)は邪道」である。
当方もこのブログで、染色方法や整理加工法を変えれば、色落ちしにくいデニム生地が原理上可能なのではないかと書いたことがあるが、デニム業界のオジサンやそれを支持する高齢者によって完全否定された。
だが、その姿勢こそが、ジーンズが他のパンツに比べて快適性・機能性で後れを取る原因となり、ひいてはジーンズ離れを起こしたのではないかと、今では思っている。
80年代以前のジーンズは今のパンツと比べると物性的に快適性は明らかに落ちる(何せ当時はストレッチ素材もないし、その他の加工法も発明されていないから)。しかし、それこそが「王道」でそれ以外は「邪道」というのなら、そこにとどまるほかない。
30年以上も前の技術にとどまり続ければ、最新の素材技術に依拠した他のパンツに快適性・機能性で敗れることは言うまでもない。そして、消費者はどちらを好むかである。
床の間に飾るような物なら、快適性・機能性はあまり求められないかもしれないが、衣服は着用してナンボである。よほどの変態的マニア以外は、着用していて楽で機能性の高い物を好む。今更スポーツ選手が綿100%の競技服に戻れるはずもないのと同じである。
もちろん、原型を残すことは大切だと思っているが、それに固執しすぎてしまうと、機能性や快適性が強化された他のアイテムに負けてしまうのはジーンズに限らず当然である。
以前からも書いているが、他のジャンルもそうだが、原型は残しつつそれは保管用・マニア用として割り切り、マス層に向けてアップデート商品を販売するのが最も効率的といえる。
古き良きビンテージジーンズにとどまり続けた結果、ジーンズは他のパンツにデイリーカジュアルのシェアを奪われたといえ、これを覆すのは今からではちょっと難しいだろう。
結局、ジーンズ業界にとっての最大のチャンスと思われたが、のちにはピンチを招く最大要因になってしまった。やはり長所と短所は表裏一体なのである。
comment
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kimgonwo より: 2022/02/28(月) 12:26 PM
そういえば「ベストジーニスト」の値打ちも変わりましたもんね
木村拓也さんの殿堂入りとかで
ジーンズを格好よく着こなせることが 格好良さへのマストな条件というのがありました
洗濯する・しない論争もありましたね
当方は全く着用しなくなりました 初老なのにジェネレーションを感じさせるしかもマイナスのアイテムを
使用したいとはおもわないな
ラングのデニムでもね いやラングをはいておしゃれ観をご提示しているようなかたは
別のアイテムで表現するのかな -
たかし より: 2022/02/28(月) 5:36 PM
ビンテージジーンズブーム
「eがEだとオシャレ」「501のヴィンテージXX?」だとオシャレ、などいう風説の流布を行い、ゴミに付加価値を付けてお金儲けをした輩や団体が過去にはいたのでしょうか?
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南ミツヒロ的Gパン愛好者 より: 2022/09/02(金) 9:35 AM
「薄手のデニムで作ったボトムス」なら2022年現在7人に1人ぐらいの着用率
しかし14ozのいわゆるGパンは中高年を含めても30人に1人ぐらいかとただ、薄手とはいえデニムだから伸びないし、強度も平織に劣ると思います
しかも「デニム=インディゴ色の青・紺系」だからコーディネイトしづらい「化繊棍で強度があって軽い風合いですぐ乾くデニム」・・・
欲張りすぎですね。501のデニムでも、これだけ発展形がありました原反・防縮加工・ホワイトデニム/ブラックデニム・石洗い・ブリーチ加工
風合い重視の復刻物そろそろ限界なのかもしれません。デニムという組成では
南理論でいう「強さが弱さに」が今全盛の化繊ボトムスにどう結びつくか
そして弱さ前回になった際、天然繊維に戻るかが気になります
ただ、戻るといっても「じょうぶなコットン生地回帰」でないのは確かです
本文中に書かれていないジーンズのデメリットとしては、「白い服などに色移りしてしまうこと」だと思います。
濃紺のデニムのジーンズ、シャツなどを着るとき、洗濯するときにどうしたって「これ色移りしないかなぁ」と不安になってしまい、合わせる服を慎重にしなきゃいけなかったり、個別に洗わないといけないと考えてしまいます。
それがジーンズの扱いの煩わしさのひとつだと思います。
記事中に書かれている色落ち等含め、地味に扱いがめんどうなのがデニムだと思います。
それらを乗り越えてまでジーンズを選ぶ理由って、もはやだいぶ無くなってきてるんじゃないかなぁというのが個人的な所感です。
まぁそれでも、自分が働いてたお店がデニム起源のお店でデニム推しなので、たまに着るんですけどね。
これはもはや、機能や扱いを完全に無視した趣味でしかないです。