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南充浩 オフィシャルブログ

作り手の満足感を追求するのではなく

2014年3月10日 未分類 0

 新しい商品やサービスを始める前提においては「一定の人数に向けて、何かの課題・不便・疑問が解決されるモノでなくてはならない」と思い始めている。

筆者独自の見解ではなく、業界の大先輩の受け売りだが、考えれば考えるほどそうではないかと思い始めている。

たとえば、裏表の両面がパイル生地になったTシャツやポロシャツがあったとしよう。
筆者は1枚だけパイル生地のポロシャツを所有しているが、肌に触れる裏側にパイルがなく、表側だけにある。
これは見た目の表面変化はあるものの、あまり機能的ではなく、肌に触れる側はあまり汗を吸収しない。
正直にいうと、生地の表裏が逆であるほうがよかったのではないかと思う。

先日、「si-si-si」というレディースブランドの今夏展を拝見した。
その中にカラフルなプリント柄を施したパイル生地のワンピースがあった。
表側だけがパイル地なのかと思ったら裏側も白いパイル地になっていた。

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(si-si-siの両面パイルワンピース)

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(両面パイルワンピースの裏地)

蛇足だが、パイル生地というのは通常のタオルを思い浮かべてもらいたい。
あれがパイル生地であり、通常の織物よりも吸水性に優れている。

このワンピースは、見た目のファッション性以外に、裏側で汗を吸いやすいという機能を持つ。
これはこれで、夏の汗が気になる人の課題を一つ解決する商品だといえる。

こういう例示をすると「じゃあ機能性を高めれば良いのか?」というふうに考える方もおられるが、以前にも書いているように、たとえば10年以上前に形態安定以外に6つもの機能を持ったワイシャツが各社から発売された。
吸水速乾や防臭、防汚あたりまでは納得できる機能性だが、ビタミンC加工とかUVカットとかマイナスイオン発生なんて機能は男性サラリーマンが求めているとはとても思えない。
これらは、すべてメーカー側が新規性を打ち出すために付加した機能で、消費者の問題を解決するというスタンスではなく、メーカーの都合によって付加されたといえる。

当然ながらこの手のワイシャツは売れなかった。

先日、大阪の古いミセス服メーカーであり、ミセス向け生地のコンバーターである百善という企業が、子供服事業を立ち上げた。
モノトーンのナチュラルカジュアル「グラン・ギャルソン」というブランドである。

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(グラン・ギャルソンの今秋企画)

子供服業界というのは、10年近く前にデニムを主体としたアメカジスタイルが全盛となって、専門店はいまだにそれが主体となっている。
それ以外の日常着としては、西松屋やユニクロなどの低価格品が需要を占めている。

この「グラン・ギャルソン」が今後売れるかどうかは正直わからない。
けれどもこれが一定の層に向けて解決法を打ち出しているとは感じられる。
どの部分かというと、市場に溢れかえっているアメカジではない別のカジュアルスタイルの提案という部分において、それを打ち出しているのではないか。

このように考えてくると、国内繊維製造業者が開発する新製品の多くは作り手側の満足感を基調としていると感じられる。

○○綿で織った最高級の○○織り。価格は1メートル5000円。その生地を使って製造したカジュアルシャツは3万円になります。でもデザインとかシルエットはあまりファッショナブルではありません。

こんな感じの打ち出しが多い。
これって価格的にもファッション的にも機能的にも誰かの何かを解決しているのだろうか?

先日、播州素材展があった。
展示会自体の品評は控えておく。関係者が喜びそうなことは書けそうにないから。

その中に阿江ハンカチーフという企業が出展していた。
その名の通り、主要業態は今もハンカチ地の製造とハンカチのOEM生産である。
阿江ハンカチーフはそれ以外の業態を模索して6年前にゴスロリ向け傘ブランド「ルミエーブル」を立ち上げた。

筆者は偶然にもそのデビューのころから存じ上げているのだが、当初は「企画倒れしそう」だと感じた。
ゴスロリというジャンルはたしかにファッションとしては特殊なジャンルで、デイリーカジュアルに比べると愛好者数は少ない。
けれども愛好者は一人で何点もの商品を購入するから買い上げ点数は多い。
しかも海外にも愛好者がいる。

そして、そこに向けてそれなりの品質の商品を提供しているブランド数、メーカー数はあまり多くない。

この傘ブランドはそういう層に向けては、課題を解決している。
これまでよりも選択肢を一つ増やすという利点を提供している。

海外の消費者に向けても同じ利点を提供している。
阿江ハンカチーフによると、海外のゴスロリ愛好者は購入する商品が少なくて困っているという。
海外にはそういうブランドがないから、日本のブランドを取り寄せる人が多いそうだ。

一見するとふざけたような取り組みにも見えるが、これは消費者のためにもなっているといえる。

生地や加工の受注が減り続けているから、自社製品を企画する国内の繊維業者は多い。
自身が製造や加工のプロだから、ついついその視点で製品を企画製造してしまいがちだが、その視点を捨てて「誰かの何かを解決する」ことを頭において製品開発に取り組んでみてはどうか。

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