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南充浩 オフィシャルブログ

ユニクロブームの以前から低価格ジーンズは存在していたしそれなりに売れていた

2022年2月24日 ジーンズ 0

先日、某メディアから「ジーンズの復権はあるのか?」という内容で相談を受けた。消費者視点でいえば「2008年までのような着用率の高さには永遠に戻らないだろう」と答えておいた。

理由は、スキニーブームでストレッチ素材の快適性を知り、スキニーブーム末期以降はスエットパンツ、ジョガーパンツ、ストレッチスラックス、ワイドパンツなど柔らかい素材で、ストレッチ性が高い快適なカジュアルパンツが多数出現し、それに10年くらい慣れ親しんだ身体が、わざわざ硬くて動きにくい綿100%デニム生地のジーンズに逆戻りすることは考えにくいからだ。もちろん、ファッショントレンドとしてのジーンズの盛り上がりが生まれる時期も来るだろうが、80年代~2008年くらいまでのように「休日はみんなジーンズを穿く」なんていうことにはならないだろう。逆にストレッチデニム生地を使ったスラックスや、レーヨン混デニム生地のスラックス・ワイドパンツみたいな方が重宝されるのではないかと思っている。

 

 

先日、こんな記事が掲載された。

若者「一本も持ってないっす」 ジーンズが復活を果たす日はやってくるのか? | アーバン ライフ メトロ – URBAN LIFE METRO – ULM

 

軽い読み物なのだがツッコミどころは多かった。

 

「ジーンズメイトの閉店へとつながっていくことになります。渋谷はいまや、「若者ファッションのメッカ」の地位から陥落したと言わざるを得ないでしょう。」

 

とある。根っからの関西人なので東京の地理には詳しくないが、渋谷の地位が低下しているのはその通りだと思うが、ジーンズメイト渋谷店がその象徴とか言われても苦笑するほかない。ジーンズメイトが渋谷の象徴だったなんて話はこの30年間聞いたことがない。渋谷のチーマーが聞いたら失笑するだろう。

 

それはさておき。

若者ファッションの中心にいたジーンズに陰りが見え始めたのは2010年代に入ってから。ファストファッション最大手のユニクロが「ジーンズを変えていく。」のコンセプトの下、新ジーンズブランド「UJ」をスタートさせたことが大きな要因に挙げられます。1000円~3000円台で買える安価なジーンズの登場によって、1万円以下のジーンズメーカーは軒並み、苦戦を強いられるようになったのです。

 

という解説には違和感しかない。

なぜなら、ユニクロには90年代後半から2900円(当時)のジーンズがあった。カイハラの生地が使われているということで随分と経済メディアでは話題になったが、商品自体のできはイマイチだったと当方は実物を見て感じた。たしかに生地そのものや縫製はマシなのかもしれないが、インディゴブルーの色合いは専業ジーンズブランドに比べると変テコリンで、経済系メディアがカイハラがらみで採りあげなければさほど話題にはならなかっただろうと思う。

おまけに1900円、2900円、3900円のスリープライスで発売した2010年の「UJ」もすぐさま消滅しているから、この企画が売れたわけではない。理由は、1900円と2900円、2900円と3900円の商品の違いがほとんど分からなかったからだ。当時絶賛していた経済系コンサルたちは売り場と商品を見ていたのだろうか。

 

で、この記事がSNSで拡散されると

 

「90年代後半にユニクロがジーンズを2900円で売り出すと、7900円のジーンズが売れなくなった。7900円ジーンズは丈夫で長持ちしたのに」

 

というニュアンスの解説があり、これも事実とは違うなあと思ったが、恐らく経済系メディアの人はこのように認識しているのだろうと想像できる。

まず、ユニクロが売り出す前から2900~3900円ジーンズは世の中に存在していた。

思い出してもらいたいのだが、イオンやイトーヨーカドーなどの大型総合スーパーの歴史を振り返るときに必ず「バブル期にスーパーの衣料品は過去最高実績を記録した」と言われることを。

ということは、バブル期に誰もかれも浮かれ騒ぎバカ高いDCブランドを買い漁ったわけではないということである。

大型スーパー各社の安い洋服も売れに売れまくった。

 

ジーンズ業界も6900円以上を企画生産していた専門店ブランドと、2900~5900円を得意としていた量販店ブランドの2つに分かれて存在していた。

専門店ブランドは皆さんがよく知っているリーバイス、エドウイン&サムシング、リー、ラングラー、ボブソン、ビッグジョン&ブラッパーズ、スウィートキャメル、ブルーウェイなどなどである。

量販店ブランドはカイタックグループ、小泉アパレルデニム事業部(現コイズミクロージング)、コダマコーポレーション、ベティスミスなどで、ビッグジョンはメンズの「GLハート」とレディースの「ジョージア・ラブ」で、ボブソンはそのままの名前で参入していた。

そして、これらはいずれもバブル期から90年代前半で低価格ジーンズで大型スーパーとともに成長している。

品質ガーの人も涌いてきそうだが、90年代後半だと例えばGLハートやボブソンの安いラインは、当時のユニクロジーンズよりもずっと見栄えがマシだった。

90年代後半、業界紙記者に入ったばかりのころ、自分の先代ジーンズ担当記者だった当時40代のベテランが「低価格ジーンズの中で最もクオリティが高いのはGLハートだ」と断言していた。それほどに2900円~3900円としては素晴らしい見た目の商品を発売していた。

 

しかし、今はGLハートもジョージア・ラブも安いボブソンも存在しない。

コイズミクロージングもジーンズの企画・生産量は激減していると聞いている。カイタックグループとコダマコーポレーションは踏みとどまっている。ベティスミスは雑貨やオーダージーンズなどの新しい売り方を工夫した。

良い物を作っていたはずの専業メーカーはそこまで成長できず(中には消えたブランドも)、当時はカイハラのデニム生地しか取り柄がなかったユニクロジーンズが時にはUJのような失敗をしながらも大規模に成長したとのいうのは、「良い物」は必要不可欠だが、「良い物」というだけでは売れないということを如実に表した結果だと感じる。

 

しかし、国内低価格ジーンズメーカーとか、岐阜アパレルとか、その辺りの歩みをまとめて書籍なりにしてくれる人がいないものだろうかと最近強く感じる。

低価格ジーンズメーカーとか岐阜アパレルとかの好調時を知っている最後の世代である自分でさえ、早くも50歳を越え当時の記憶が風化しかけている。上の世代なんてあと10年くらいしたらほとんど死んでしまう。40歳未満はその当時のことなど知らない。

輝かしい百貨店ブランドやらデザイナーブランドやらの歴史は記録されやすいが低価格ブランドは記録されにくい。しかし、そこも網羅しないと我が国の衣料品ビジネスの全貌は見えにくいし、ミスリードを引き起こすことにもなる。

そのような取り組みが始まることを切に願う。

 

 

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