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南充浩 オフィシャルブログ

ネット通販が浸透した状況では「洋服の値下げセールの規制」は不可能だという話

2022年2月22日 ネット通販 0

2015年頃、覚えている人も多いかもしれないが、ネット通販がアパレルの救世主となるというような雰囲気だった。

たしかにその5年後にコロナ禍が始まり、実店舗の長期休業や営業時短が起きると、ネット通販をやっていた方が良かったという事態が起き、カンフル剤的な役割を担ったことは事実である。

だが、救世主みたいな存在ではなかったし、一部のネット通販専用ブランドを除くと、中型・大型ブランドは実店舗の営業減収をネット通販では吸収しきれずに売り上げ規模を縮小させることとなった。

 

一方、アパレル業界では、売上高よりも営業利益を重視しようという主張がコンセンサスを得て、営業利益を低くする原因の一つである「値下げセール」が槍玉に上がった。

電撃失脚をしてしまった三越伊勢丹HDの大西洋元社長なんかがこの急先鋒となって「セール開催日程後倒し論」を強く主張した。しかし、実際にはこれに同調したのはルミネくらいで、大西元社長の失脚と同時に後倒し論も雲散霧消してしまった。

このブログでも当時何度も書いたが、ネット通販がマス層に浸透しつつあったこの時期に「セール後倒し論」は実現不可能だったといえる。

 

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ヤバいコメントの集合体みたいな記事なのだが、中でも最もヤバいと感じるのがこのコメントである。

 

③ 長期セールを見直し売り上げ至上主義から脱却

・常々違和感があったが業界全体が賛同しルールを守る座組みが必要(インポーター)

・自社だけセールを中止しても売り上げが取れず、出店区画が不利に。セールで売り上げを取るための過剰生産は過剰な値引きにつながり、消費者は値引きで買うことが当たり前。負のスパイラルから抜けるために官民一体で改善を!(セレクトショップ)

 

どうだろうか。

要するに業界が示し合わせて値引き時期を固定しろと言っているわけである。

大西元社長の時にも指摘があったがこれは独占禁止法に違反する可能性が極めて高い。カルテルの禁止というやつだ。

ゼネコンや建築業者の「談合」と同じである。

一見もっともらしそうなコメントだが、洋服販売の実情と照らし合わせると、大西元社長の時よりも実現可能性は低くなっている。

理由はコロナ禍を経てネット通販は一層浸透してしまっているからだ。

例えば発言者は「インポーター」と「セレクトショップ」となっているが、両社ともネット通販を行っていないのだろうか?

ネット通販を行っている限り、値引き販売とは無縁ではない。逆に値引き販売こそがネット通販の大集客装置となている。

 

「官民一体」ということは、ファッション産業を「国策」と位置付けるフランスやイタリアのようにセール開始時期とセールの値引き幅の上限を法律で定めろということだろうと、当方は解釈するが、この人たちが理想と掲げるフランスやイタリアでさえ、ネット通販の値引き品に消費者は流れていると言われている。もし、我が国でもそういう法律が施行されたとしても必ず値下げ販売しているネット通販に多くの客は流れる。

 

この人たちは自社のネット通販を軽く見すぎているのではないか?

 

現在、主なネット通販にはモール型と自社直営型がある。

モール型はAmazonのマーケットプレイス、楽天市場、Yahoo!ショッピング、ZOZOTOWNあたりが大手といえる。これら大手4社の最も効率的な集客方法は

 

1、割引クーポンの乱発

2、定期的なスーパーセールの開催

3、不定期なタイムセールの乱発

 

の3つである。

これは今後も変わらないだろう。「新作入荷」の告知で飛びつくのは「数寄者」「マニア」というべき少数派のファッション変態くらいである。

 

じゃあ、大手モールへの出店を廃止して自社直営サイトに注力すればどうか?という意見が出てきそうだが、直営サイトに集中したところで厳正な定価販売というのは、一部のブランドを除いて不可能だろう。

理由は現在の直営サイトでも割引品はゴロゴロしているからだ。

 

1、昨シーズン物・昨年物・一昨年物の不良在庫品の安売り(いわゆるアウトレット販売)

2、新作予約者には「〇〇%オフ」

3、2点買うと〇〇%オフ

 

この3つの売り方が一部のブランドを除くとどれかは標準装備されているからだ。

当方は2と3は愚策だと思ってせせら笑っているが、1に関してはどんどんやればいいと思っている。

昨年物・一昨年物の不良在庫なんて何年抱え続けていても定価で売れることはない。さっさと値引きして二束三文でもいいから叩き売ればいい。

物流倉庫内には12年前の在庫が残っているという某ブランドもあるが、抱えているだけ無駄である。

 

 

話しを戻すと、ネット通販が浸透すればするほど、いくら実店舗でのセールを規制したところで無駄でしかない。国内ネット通販を規制しても越境ECで安い物を探す人間は増えるだろうし、今話題の中国ブランド「SHEIN」が国内の訳の分からない規制に従うはずもない。SHEINの値下げ投げ売り品が今以上に売れるようになるだけだろう。

この媒体とアパレル業界のエライ人たちはSHEINを今以上に巨大に育てたいと思っているのかもしれないが(笑)。

 

ネット通販にはメリットもたしかにある。

不良在庫品を投げ売りできるという機能なんて最たる例だろう。最早、正規店には並べられないし、アウトレット店を出店していないブランドなら処理に困るところだが、ネット通販なら「昨年物」という表記で並べておいて売ることができる。

だが、同時に大型モールでも直営店でも「価格の安い順」に並べ替えて価格を比較することができてしまう。

そうなると、よほどにファッションにこだわりのある人以外は、この方法で簡単に値下がりした物を手に入れることができてしまう。

業界もメディアも過剰にネット通販を持ち上げ始めて10年が経過しており、コロナ禍を経て、マス層への浸透度合いも高まってしまった今、「セール時期の規制」なんて実現できたとしてもまるで効果は無い。そして我が国がいくら規制しても海外には低価格ECが無数に存在しているから、そちらに逃げる客が増えるだけである。

ネット通販の発達こそ、洋服の低価格化の大きな要因の一つであるといえ、この「劇薬」を呑んでしまった業界は今更無かった事にはできないという実態をまだ理解していないといえる。

 

では、値引き販売を減らす手段は何かといわれると、それはMD精度の向上以外ない。確実に売り切れる数量を厳密に算出して、その数量分だけを作ったり・仕入れたりするほかない。そのための販促やPR活動もむろん必要になる。

何かを規制しても消費者の行動をコントロールすることはできないし、今の状況を一挙に逆転できるようなあっと驚くような手は漫画や小説・アニメと言ったフィクションの中にしか存在しない。

「地道に」「普通に」MD精度を高めるほか、過剰な売れ残りを排出しない手段はない。それをやりたくないというのは、単にめんどくさいというだけのことだろう。

 

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