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南充浩 オフィシャルブログ

洋服の場合、品質が高いということと耐久性が高いということは必ずしもイコールではない

2022年2月14日 トレンド 8

先日、ある業者さんとちょこっと仕事のやりとりをしたのだが「洋服の品質」という文言に違和感があった。

衣料品業界の人は結構「品質」という言葉を多用するように感じる。「品質の低下」とか「高品質」とか。メディアはそれをそのまま使うので、それを読んだり見たりした消費者もそのように使う人が多い。

しかし、この「品質」という言葉が衣料品に対して使われる場合、守備範囲がかなり広くて共通認識が難しいと感じている。

今のご時世なら、エスディージーズ的な「高品質な服を長く着る」みたいな使い方が多い。一方で、低価格衣料品に対して「品質の低下」みたいな使い方をする感じも多い。

だが、この「品質」というのは何を指しているのだろうか?

洋服の品質と言った場合

 

1、縫製の丁寧さ綺麗さ

2、機能性(保温、吸水速乾、軽量、ストレッチ性などなど)

3、使われている糸や生地の希少性

4、耐久性があるかどうか(2と重複する部分も)

5、意匠性・デザイン性

 

あたりではないかと感じる。

取材などで各社・各ブランドの説明を聞くと、この5つをその時々の文脈と、自社のスタンスによって使い分けているという感じである。

どれも大事なことではあるが、この5つ全て兼ね備えるということは不可能に近い。

また、同じ会話の中でもブランド側が指している「品質」と、消費者やメディアが受け取る「品質」の項目が異なる場合も多々あるように感じる。

 

エスディージーズ的な文脈では「長く着られること」が品質の高さだという風に受け取られているように見えるが、これはケースバイケースで品質の高い服は必ずしも長く着られる(耐久性が高い)わけではない。

極細番手の天然繊維の糸を使って織りあげた光沢のある滑らかな生地は「品質が高い」と評される。理由は「希少性が高い」からだ。3に相当する。

ポリエステルやナイロンと違い、綿・ウール・麻は繊維長が短い。この短い繊維長を紡いでフラットな細番手の糸を紡ぐのだから難易度は高くなる。難易度の高い物は希少性が高くなり、価格も高くなる。

だが、綿・ウール・麻の糸は細くなればなるほど脆弱になる。細くて丈夫なポリエステルとは大違いである。だから高い生地にもかかわらず物性としては弱く耐久性がない。

極細番手のウール生地で作った何十万円のスーツなんていうのは、たった2日間の着用にも耐えきれない。膝が出る、袖口が擦り切れたようになる。

何年か前に定年された業界の先輩が「若い頃にボーナスが出たので30万円のスーツを買ったんだよ。嬉しくて2日続けて着て行ったら、型崩れして酷いことになった。1日着たら次の日は休ませないといけない」とおっしゃったことがあった。

この手のスーツというのは、金持ちが5、6着そろえて毎日ローテーションで着替えるという使い方が本来である。貧乏人がなけなしの金で1着買って、それを何日も続けて着るというのは想定されていない。

なので、極細番手糸の天然繊維による繊細な生地は、「品質が高い」ということには当てはまるが、長持ちするには合致しない。

むしろ、ポリエステルを使った低価格のスーツ生地の方が長持ちする。

 

逆に、太番手の糸を使った高密度生地も「品質が高い」と評され、こちらは長持ちしやすい。

例えば、14オンスを越えるヘビーオンスデニム生地だが、オンスとは本来は重さの単位だが、ここでは字数を省くためにヘビーオンスデニム生地は分厚いということで話を進める。

14オンスを越えるヘビーオンスデニム生地を織れる織機というのは、年々減っている上に、ヘビーオンスにも限界があって28オンスあたりが限界になる。

そういう意味では「希少性が高い」わけで、耐久性もある。

どちらも「高品質商品」だが、その性質や素材は正反対である。

 

2の機能性にしてもそうで、天然繊維だけによる機能性生地というのは少ない。ほとんどがポリエステルやナイロンと言った合繊で成り立っている。

合繊にも値段の高低はあるが、高価な合繊と言っても概して希少性の高い天然繊維よりは安い。

だから、機能性の高さを「高品質」としてしまうと、機能性合繊を使われている方が品質が高いということになってしまう。

 

そして、5である。

デザインの美しさ、斬新さ、カッコよさやパターン(型紙)によるシルエットの美しさなども衣料品の「品質」に含まれると当方は思う。

いくら希少性の高い極細番手のウール糸による生地を使って服を作っても、デザインが野暮ったくてむさくるしいなら、そんな服は評価はされない。シルエットが着ぶくれして見えたり、スタイルが悪く見えるなら、そんな服は評価はされない。

客は「服」を買いに来ているのであって、生地や糸を買いに来ているのではない。それが目的なら手芸店へ行く。

 

で、価格低下にあえぐ、衣料品業界は価格上昇のネタとして「高品質」とか「質の良さ」を謳うのだが、5項目のうち、どれを指しているのかがわからない。希少性の高い生地を使った製品だから高いのか?それとも高機能性商品だから高いのか?それともデザインが美しく斬新だから高いのか?

メディアは衣料品業界での実務経験の薄い人が多いから、恐らく、衣料品業界以上に「品質」の指していることを明確にせずに使っているのではないかと思う。

そして、当方も含めた富裕層ではないマスの消費者は、ともすると「品質の高い物は機能的で丈夫」と考えがちだが、こと洋服に関しては一概にそうは言い切れない。

洋服以外でもそうかもしれない。例えば腕時計や自動車。

一定の価格までは機能性の高さ・丈夫さは値段の高さに比例する部分が大きい。しかし、その上限を越えると、我々貧乏人からすると、理解を越える機能性の低さ・脆弱さを発揮する。

当方は1万円くらいのカシオの電波ソーラー腕時計を使っている。これは非常に機能性が高く丈夫である。デザイン性もそんなに悪くないと思っている。

しかし、何百万円するような高級ブランドの腕時計はどうだ?どんなに金持ちになっても絶対に買う気がないが、機能スペックは限りなく低いし、丈夫でもない。でも高いけどあれが欲しいという人はいる。

自動車だってレクサスとかベンツあたりまでは値段の高さと機能性や丈夫さが比例しているが、何千万円の欧米車になると、かなり不便な部分が多いと聞くが、それでもあれを欲しがる金持ちもいる。

評価されているのは、ステイタス性の高さだったり、デザインだけの美しさだったりそういう部分ではないかと思う。

 

で、話を戻すと、衣料品業界やメディアが「品質」という言葉をあやふやな感じで使い、消費者に「高い服=丈夫、長持ちする」というイメージのみを持たせることは、却って衣料品産業を阻害する部分が大きいのではないかと思う。

なかなか難しいのだが、なるべく安易に「品質」という言葉を使わずに記事を書こうと改めて思った次第である。

 

 

高品質な頭蓋骨模型をどうぞ~

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 comment
  • kta より: 2022/02/14(月) 12:56 PM

    毎度、着眼点に感服してます。
    高い服に限って4を考えてすらいないのは怒りを覚えます。

  • BOCONON より: 2022/02/14(月) 8:21 PM

    揚げ足を取るわけでも自慢するわけでもないですが、感想その①
    僕は基本他人の服装には大して関心がないのだけれど、そのつもりでスーツの生地など見ると安物か否かくらいはわかります。あるいはカジュアル服もおおよそ安物は見れば分かる。それは「若い頃から “百貨店で売っているものとしてはまあそんなに高価ではない” って程度の服を着てきたから見る目が出来ている」という事であります。だから今ではしまむらとかユニクロ等で買い物する事多いけれど「しまむらでこんな良いもの売ってんの…? 」などと不思議がられたりもする。別にだから偉いってもんでもないが,正直僕と同じ程度に洋服が選べる人はほとんど見たことがありませぬ。特にスーツは一種の美術工芸品みたいなものだから,生地もさる事ながら自分の体に沿いつつも体形をきれいにあるいは立派に見せてくれるスーツが選べている素人の男がそんなにいる筈もない。
    つまりは以上僕が書いたような事が言いきれるくらいの人間相手でなければ「高品質」アピールしても理解されないだろうし,理解できる人間なら言わなくても分かるので,そんなアピールは不要だと思われます。
    ・・・何が言いたいかと言えば,品質がどうとか言っても買う側

  • BOCONON より: 2022/02/14(月) 9:16 PM

    (↑最後の一行消し忘れました。)さらに言うなら普段基本安い物を着ていて品質見る目に自信のない人は(大きなお世話ながら)例えば10万円以上のスーツ買ってもたいてい失敗するからやめた方がいいと思います。高級素材はまだしも,軽すぎ柔らかすぎで軟弱なイタリアの輸入物生地だの,モード系の1シーズン着たら捨てるべきものだの,日本人体型には合わないインポートものだの。僕がスーツ生地に少なからぬお金出すなら英国生地か日本製にしますね。
    結局「”高くても良いものを長く着る” ったって,キミに良いもので長く着られるものが見分けられるのか? 僕みたいに同じ紺ブレザー10年着続けるなんて事が出来るのか?」と僕はどうしても思ってしまうのでありました。売る方が何と言おうと、ね。
    (さらに余計な事を言うようですが,洋服でも靴でも安物でもそうでなくても毎日身につけてたらすぐダメになるから3パターンくらいをとっかえひっかえした方が結局得だと思います)。

  • BOCONON より: 2022/02/14(月) 9:17 PM

    感想その②
    腕時計やクルマとなると,お金持ちが高級時計や高級車を買うのは僕らが腕時計やクルマ買うのとは意味合いが違うから比較にはなりませんね。デジタル時計は毎日使っていたらせいぜい10年くらいで寿命が来る。機械式の高級時計は中古でも値段が下がらない(あるいはむしろ上がる)から彼らは資産として買って持っているし,メーカーもそういう人たちのために半永久的に修理が効くように部品の在庫をずっと持ち続けていますからね。実用性はともかく(僕もG‐SHOCK の逆輸入もののスピードモデル風ソーラー電波時計愛用を愛用しています。こんな便利なものはない。自衛隊員もこれが多く,自衛隊時計なんて誰も使っていないとかw)
    車も中古でもあまり値段が下がらないポルシェやフェラーリとかだと,飽きたら売ってそのお金でまた高級車買って・・・と1回買えばあとはちょっとのお金足してずっと高級車乗り続けるって事が出来るから,つまりはこれも資産ですね。故障しやすそうならレクサスって手もあるな・・・まああんまり縁のないお金持ちの世界の話するのもナンなのでこの辺でやめておきましょう。

    • とおりすがりのオッサン より: 2022/02/15(火) 11:26 AM

      20数年前に自衛隊にいましたが、当時もGショック使ってるのは多かったですね。あとは、プロトレックとか本格的なアウトドア用とか。自衛隊用に作られてるようなのは自衛官じゃなく自衛隊マニアが買うものかと思いますw
      しかし、最近の高級時計の値上がりはすごいようで、ロレックスとかなら定価で買えれば、すぐに売っても儲かるくらいのようですね。

  • バブルを生きました より: 2022/02/15(火) 11:08 AM

    揚げ足を取るわけでも自慢するわけでもないですが(笑)
    昭和の終り、震える手で買いに行った「フェラーリ」に30年以上乗り続けていますが、先日もある業者さんから新車時より高額で買い取りたいとのお申し出がありました。
    今でも元気に走ってくれますが、この間に掛かった車検や整備費用その他の合計はそれを遙かに超えています…資産運用としては効率悪いですねぇ。
    20年ほど前、詳しい友人から「これは良いぞ!」と薦められて買った「116520」確か80万円ぐらいだったかな。
    今、買取屋さんで200万円以上の「値」が付くみたいですが、3年~5年ごとのオーバーホールに約10万円…これも効率だけを考えると疑問符です。
    あ!そうそう、イタリアの高額でペナペナなスーツ?は働かないお金持ちが着るモノなのでどうしても長持ちしないに「1票」を投じます(笑)
    でも、尾州産のツイードのジャケットは親子2代で充分に楽しめました。最後は虫食いに遭いましたが、これは私のミスですね。
    服もクルマも時計も「自分が本当に好き」ならば、それなりのメンテナンスは厭うな…ということでしょうか。
    大切にすれば、それなりに応えてくれるものです。これは30年の経験則ですね。

    • BOCONON より: 2022/02/15(火) 12:46 PM

      えー,洋服や腕時計についてはまだしも正直車には詳しくないので須田慎一郎氏その他の話を受け売りで書いてみたようなものですが…そうですよね。維持費までは貧乏人には頭が回らないもので,高級腕時計は何十年たっても修理が利くと言っても実際修理すれば代金は大変に高くつくし,車も多分似たような事はあるだろうと思ってはいたのだけれど,勢いで書いてしまいました。どーもすいませんw
      知り合いの旧家の息子が「良い御家柄とかお気楽な事言いやがって,大邸宅なんて相続したら税金も維持費も大変なんだよ!」と愚痴っていたのを思い出しました。まあお金持ちというのは合法的に税金払わずに済ます方法知っている事多いらしいですが・・・これもよく知らない領分の話なのでもうやめておきましょう。

  • 南ミツヒロ的合理主義者 より: 2022/10/24(月) 9:53 AM

    化学的な定義づけ・裏付けがあるはずの「品質」という言葉が
    感性の世界wといえなくもないアパレル
    つまりマス相手のイメージ商売だと
    極めてあいまいになるという事ですな

    そしてジャーナリストとしては、あいまいな言葉は
    使いたくない、と

    南サンの良心を感じさせる投稿でした

    方向性としては3つのベクトルが必要だと思います

    1.高級・値段が高そうに見える=実際、値段が高い
    2.耐久性がある=値段が高い・安いとは限らない
    3.高機能だ=値段が高いとは限らない

    要注意なのは2と3です

    2の中でも値段が安いのと、高いのがある
    ただ、耐久性を訴求して高い値段を取るのは今では不可能

    この構図は3も一緒です
    高機能を訴求して高価格とは出来ません

    そして恐ろしい事に1かつ2かつ3な服地が出現しつつある

    ただ、同時に問題点もある訳です

    化繊ベースだから、とんでもない用尺で市場に出回ります

    したがってaddidasでもNorthFaceでも同じ模様な服が
    既にできてしまっている

    「柄物でも他人とかぶる」が高機能・高耐久化した
    服地の行く末なのかも・・・

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