マルイ以外の百貨店の「売らない店」は売り場の空きスペースを埋めるため
2022年2月10日 トレンド 1
何時の時代もメディアは綺麗事が好きである。そして平和ボケした大衆もそれを好む。
特に衣料品業界はそのターゲットとされやすいと当方は感じる。
メディアと一部のイシキタカイ系業界人とポジショントークマンだけが大騒ぎをしたが実態と乖離し続けていたために全く盛り上がらずに終わった「似非ブーム」は数多くある。
2000年代半ば以降、ファッションアイテムへの過剰な憧れや渇望感が薄れた結果、そういう上滑りした「似非ブーム」が生まれる比率が高くなっていると感じる。恐らく2005年以前なら、その手法で「似非ではないブーム」が作り出せたのだろうが、その手法は通用しなくなっている。
ノームコアなんて最たる例だろう。
さて、最近気色悪いと感じているものの一つに「売らない店舗」押しがある。
先ごろ西武渋谷店と大丸東京店にオープンした。あとはマルイが力を入れている。
要するにショールーム形式で商品を並べてスマホやタブレットで読み取ってオンライン通販サイトで購入するというやり方である。
これをメディアやポジショントークマンはさも「最先端事例」かのように語るが、百貨店が「売らない店(笑)」を導入しているのはそんな綺麗事が理由ではない。
西武と大丸、とマルイは分けて考える必要があるが、西武と大丸の導入理由は同じだ。
理由は、出店テナントが集まらない、仕入れ商品が集まらないから、ただそれだけである。
これまで報道されているようにオンワード樫山やワールドなどのかつての百貨店向け大手アパレルが不振から百貨店撤退や展開ブランド数を減らしている。これが90年代後半なら、まだ大規模成長アパレルがいくつも見込めたから、撤退跡地にそれらを誘致して穴埋めをすることができた。
だが、今はどうだ。
百貨店御用達のブランド以外で、わざわざ百貨店に常設で出店したり、商品を卸したりしたいというアパレルやブランドは激減している。
撤退跡地が埋まらない。
郊外型ショッピングセンターでも跡地が埋まらくて「休憩スペース」になってしまっているところもあるが、売り場総面積が広くて坪効率がそれほど高くない上に、郊外での土地代・家賃も安いため、休憩スペースにしておいてもそれほど痛くはないが、百貨店は都心の巨大旗艦店を除いては郊外でも売り場面積は狭く、坪効率の高さが求められる。また都心店なら家賃・土地代は高い。だから百貨店に跡地を「休憩スペース」として遊ばせておく余裕など一切ない。
1円でも獲得できる何かで埋めなくてはならない。
各百貨店で急速にポップアップショップが増えているのはそういう理由である。現に某百貨店の担当者はフロア担当が2層に増え、ポップアップショップを年間100も用意しなくてはならなくなり「アイデア枯渇」に苦しんでいる。
で、ポップアップの代替の一つがメディアとポジショントークマンが絶賛持ち上げ中の「売らない店」というわけである。
恐らくは通常の物販に比べて売上高は稼ぎにくい。実店舗なのにその場で商品を受け取ることはできないから、まどろっこしい。恐らくは百貨店側もそれは理解しているのだろう。
だから、福井や岐阜といったような人口の少ない地方店ではなく、人口の多い東京都内店に導入したのだろう。
一方、マルイは事情が少し異なる。
現在、マルイは百貨店の一つとしてとらえられていることが多いが、古い業界人からは純然たる百貨店とは思われていない。元々は「月賦百貨店」という業態に区分されていた。また日本百貨店協会にも加盟していない。
また、テナントのブランドラインナップも百貨店ブランドというよりファッションビルブランドの方が多い。
マルイは元々、金融業に強く、日本で初めてクレジットカードを取り扱ったと言われている。さらに分割払いの「月賦」を活用したのもマルイだ。
一時期はヤング向けブランドのファッションビルとして実店舗物販でもそれなりの存在感を示していたが、他の百貨店やファッションビルに先駆けて脱物販を果たし、金融業へと回帰した。
このブログでも何度かそれに触れている。以下の過去ブログをどうぞ。
マルイの証券会社設立はまったく意外ではない ~もともと金融業とは縁が深いマルイ~ – 南充浩 オフィシャルブログ (minamimitsuhiro.info)
西武や大丸とは全く立ち位置が異なる。
自分でまとめるのは面倒なので、他の記事から引用する。
ショールーム店舗から3層構造で利益を得る、丸井の収益構造: ファッション流通ブログde業界関心事 (cocolog-nifty.com)
小売セグメントの粗利の6割強が家賃収入から得られ、フィンテックと呼ばれる事業セグメントのマジョリティはエポスなどのクレジットカード事業でありクレジットカード手数料、キャッシング、賃料の3つで粗利の75%を稼いでいるのが現実
とある。
不動産と金融業が今のマルイの本業といえる。
で、マルイの幹部のインタビューを引用しているのだが、
多くの商業施設が、空きスペースを埋めるために、流行りの未来型テナントとしてDtoCを標ぼうする企業たちのテナント誘致をしていますが、そのトレンドに乗るだけでは、今までと変わらない、儲からないだろう、と自信を見せているコメントです。
と指摘していて、この指摘は非常に正しいといえる。
そして、この筆者には珍しく、マルイ以外のこの手の「凡百の売らない店」に対して的確な理由で否定的な意見を述べている。
日本で開業するショールーム店舗は、なぜか頑なに、売らないとか、在庫を持たないとか、購入はオンラインで、とか・・・
寸止めというか、小売業の役割を放棄して、企業の都合を押し付けている感じがしてしかたありません。
商売なんだから、売ったらいいんじゃないでしょうか。
買った商品を持って帰れるのも、大きな顧客満足のひとつです。
お手本にされている海外のショールーム店舗の多くはある程度在庫を持ち、その場で顧客に売っていますよ。在庫が切れている時はオンラインで買ってね、と薦めて来ますが。
ここはまさにその通りである。わざわざ実店舗に足を運んでいるわけだから、そこで実物を売ればいいというのは誰が考えてもわかる。そして在庫がないときはオンラインで注文してね、といえばいい。その通りである。
実は当方は、ユニクロとジーユーに関してはそういう買い方をしている。
実店舗に足を運んで商品があれば、その場で買う。なければその場でオンライン注文する。もしくはオンライン専用の値引きクーポンがあればオンラインで買う。
日本の百貨店関係者やメディア関係者、ポジショントークマンにありがちな「表層だけを真似る愚」の最たる例といえる。
この手のキャンペーンに乗せられれば必ず失敗に終わる。マルイ以外の物販流通業者は彼我の差をもっと真剣に見つめ直して精度を高めなくてはまた一つ不採算事業を抱えるだけだろう。
渋谷のお店は全ての商品が持ち帰れますから売らないお店ではないと思いますがいかがでしょうか。