
在庫リスクを徹底的に避けることが絶対の正解ではないという話
2022年2月9日 製造加工業 1
少し前にも書いたが、ユニクロの1月度売上速報の商況分析コメントは改めて考えさせられるものがあった。
改めて引用すると
防寒衣料の在庫の過少や、セール時期での売り込みが不十分だったこと、
入庫遅延の影響で春物商品の立ち上げが遅れたことにより、既存店売上高は減収となりました。
である。
12月末からの冷え込みで、各社の防寒アウター消化は好調だったにもかかわらずユニクロは既存店売上高が7・1%減に沈んだ。理由は「在庫の過少」である。
ユニクロ店頭をウォッチし続ける者としては、12月20日ごろまでメンズの防寒アウター類はかなりダブついていたが、正月にはほぼ全てが完売していたことを店頭で確認している。
これは12月26日からの寒波と、防寒アウター値下げの相乗効果によるものであることは間違いない。しかし、過去のユニクロの店頭状況と照らし合わせると、ほぼ完売というぐらい売れに売れたのなら、月次速報は悪くても微減、普通に考えれば前年トントンから増加になる。にもかかわらず前年割れということは、今秋冬のユニクロは如何に防寒アウター類の生産数量を減らしていたかということである。
結局、物販業において売上高というものは、それに見合った在庫高がないと獲得できないということである。
店頭で従事している人からすれば「当たり前のこと」だろうが、メディアやイキリコンサルは改めて認識すべきである。
1億円の売上高が欲しければ1億円分の在庫を抱えるしかない。
それだけのことである。
在庫を抱える意味というのは、何もユニクロに限ったことではない。
現在、糸、生地すべての分野で在庫リスクをすべての業者が抱えない方向で進んでいる。もちろん、最たる例はアパレルやSPAブランドだが、今までは糸や生地の備蓄に助けられてきた。だが、糸、生地も最早、生き残るためにはなりふり構っていられない。アパレルやSPAが多少苦しもうが、自社が生き残ることの方が先決である。
しかし、他人が避けることにあえて取り組めばビジネスチャンスが生まれる。
ぶっちゃけ、このタイトルからでは内容はまったくうかがい知れない(笑)。
昨年末時点で、今日より相場は低かったとは言え、それでもコロナショックの底値からは3倍に近い値段に迫ろうとしていた頃、向こう半年先の契約までつけたという。
周囲がお客様に色々とヒアリングをしながら、紐付きでおっかなびっくり発注をしている最中、圧倒的物量を「ハハハ!博打や!」と豪快に笑い飛ばしながら発注しておられた。
そして現在、ほぼ一人勝ち状態で売り上げを伸ばしておられる。
とある。当方も別にその場に立ち会ったわけではないが、類推すると、恐らくは綿糸か綿生地を大量に仕込んだ関西の繊維業者の話だろう。
最近は原材料費の高騰がすごいし、原油高によって染めにかかわるコスト、準じて輸送コストも上昇し、値段は上昇の一途だ。下がる理由がない。
シンプルに、綿花相場は旧中央値から約倍だし、原油も倍以上になっている。吸収するにも、元々が薄利多売の世界だ、たかがしれているし、吸収する理由も見当たらない。
という経済環境にある。そのうえに、アパレルは在庫リスクを極度に恐れて「受注生産ガー」と言い始め、イシキタカイ系業界人とメディアは「D2Cガー」と言いながら、よくわからないニッチ臭がプンプンするような小規模ネット通販直販ブランドをゴリ押ししている。
そういう風潮が強まれば、糸、生地だって在庫リスクなんてアホらしくて抱えていられない。
以前にも書いたが、実際はすでに生地問屋ですら在庫を抱えなくなっており、洋服が売れても追加生産することはほぼ不可能に近くなっている。
だが、コロナ禍でいくら店頭が悪いとはいえ、売れる洋服もあるわけだから、必要とされる生地は存在する。
もし、その生地をリスク承知で抱えている業者がいたとしたらどうだろうか。
そこに注文は集まる。当たり前の結果である。
結果的に、「あいつに聞けばあるぞ」という話が横にひろがり、想定以上に注文がつく、という状態だ。そしてその時は「高いな」なんてネガティブな反応は起こらず、むしろ「売ってくれてありがとう」くらいの感情になる。むしろ持っていない会社に対して、(腹が張れない弱腰)という印象さえつけ、平時に戻ってもその時に得た信用から商売を有利に進めることができる。
凄まじい商魂だ。
とあり、これは当然の帰結である。
ではそれを実現可能にするのは何か?山本晴邦さんは
これを維持するには仕入れも売りも広く、そして深くネットワークを持っておく必要がある。商いは小手先のテクニックではないなと、心から思った。
しておられ、これはその通りだと思うが、そこに加えて当方は「胆力」ではないかと思う。
ネットワークの深さや売り先の広さもさることながら、在庫リスクを抱えたところで、必ず100%売れるという保証はない。相当な高確率で売れると考えられるが売れないという可能性も何割かは残る。世の中何が起きるかわからない。今元気な人が数分後に心臓発作で死ぬなんていうことも少なからずある。
しかし、それでも在庫を抱えるという「胆力」が必要になる。
胆力が無くては実行はできない。
もちろん、胆力だけがあり何の勝算も無いというのは、論外ではあるが、勝算だけ立てても胆力が無くては在庫を抱えることはできない。
みんながD2Cと言っている中、横並びでD2Cなんてやっても埋没するだけだし、みんなが在庫を抱えない中、同じように在庫を抱えないなら埋没するだけである。在庫過少ならユニクロでさえ前年割れを起こす。
その辺りをもう一度よく考え直す必要がある。
陳腐化してるよね
不毛地帯は伊藤忠の近代化の話ですが、瀬島を引き入れて合理化した近畿商事社長・大門一三は結局先物の商品取引に溺れてしまった。
それは悪では無い。
豊作貧乏の裏では野菜農家は不作で高値で売り抜けて10年単位で決算を均衡させている。
糸偏商社の先物の才覚なしに経営の安定は、財務面では、無い。