MENU

南充浩 オフィシャルブログ

衣料品も出費対象の一つに過ぎず、特別な存在ではないということ

2022年1月18日 トレンド 2

社会人として仕事をしていれば、自分の扱う商品やサービスはなるべく高く売れてほしいと誰でも思う。

しかし、こちらがどれほど願っても、客にそう認めてもらわねば高く売ることはできない。当方が原稿料を1本20万円にしてほしいと言えば、即座に「あほか」と言われるだけである。

衣料品関係者の多くがSNSで情報なり心情を発信するようになったが、多く見られるのが「衣料品(特に自分が扱っている服が)が高く売れてほしい」というもの。これは気持ちとしては理解できる。

だが、「安い服は絶対悪」とか「高い服の価値がわからないのは消費者が退化している」とかまで過激化した論調には「あほか」と答えておきたい。

ではなぜ高い服が売れにくくなったについて考えてみたいと思う。

 

まず、見映えがそこそこマシな値ごろ感の服が増えた。

当方は、自分は参加していなかったが、80年代後半のDCブームを外野から学生の立場でチラっと眺めている。たしかにあのころの服は高かった。

その高い服を買うために行列を作っていたのだから、当方としてはまったく理解できない心境である。

だが、まだDCブームの余波が残っていた90年代前半に自分で服を買うようになって、愕然とした。

当時は「イケてる(当時こんな表現はない)」服で値ごろな服というものが存在していなかった。

イケてる服は高いブランド品のみで、安い服は同じ情報ソースで作っているにもかかわらず、まったく見映えが異なる商品だった。

例えば、当時流行っていたMA-1ブルゾンだと、アルファインダストリーの1万円前後する物と、イズミヤの平場に並んでいる謎のメーカーが作った3900円の商品では、素材の質感や色合いなど全く違っていた。アルファインダストリーの商品はミリタリーっぽく見えるのに、イズミヤ平場の商品はチープ感が漂い工場の制服ブルゾンのようだった、工場の制服ブルゾンが欲しいという人以外は、1万円くらいするアルファインダストリーの商品を買わねばならなかった。

ところが、今では、値ごろ感のある3900円~4900円くらいのMA-1ブルゾンがある。もちろんアルファインダストリーやアヴィレックスは値段なりの良さがあるにせよ、ユニクロの4990円のMA-1ブルゾンも決して我慢しなくてはならないほど変な見え方はしていない。格段にこだわりの無い人ならそれで十分だろうという見映えである。

以前にも書いたように、メンズの黒無地スーツだって、94年当時でさえ青山、AOKI、はるやまには売っておらず、ファッションビルブランドで6万円とか8万円出さなくては買えなかった。だからケチな当方ですらそれを買った。今は、2万円も出せば黒無地スーツが買える。

そりゃ、格段にコダワリの無いマス層は安い方を買うに決まっている。

 

次に考えられるのが、ファッション衣料に対する渇望の緩和と趣味の多様化だろう。

今の時代、ファッションキングになりたいとか思っている人は少数派だろう。「闇金ウシジマくん」に描かれているように2000年頃にはファッションキングになりたいと思っているような人が今より多かった。

また高額ブランドへの憧れはバブルが崩壊した後の2000年頃まで続いており、女子高生がこぞってプラダやルイ・ヴィトンのバッグを買っているという時期もあった。

今、そんな女子高生がいるだろうか?

どちらかというと「無理をしてまで高額ブランドを買うのはダサい」という心理の人の方が多いのではないかと感じるし、当方もそう思っている。無理をしてまで高額ブランドを買う必要はないと。

いわば社会の成熟化である。

また趣味も多様化している。

音楽、ゲーム、釣り、アウトドア、スポーツ、バイク、ガンプラ、カフェ、スイーツなどなどだ。

いずれも低価格で始めることは可能だがやればやるほど高額な道具や装備が欲しくなる。そうなると、たかがファッション衣料にだけ金をかけているわけには行かなくなる。

ファッション衣料への出費はそこそこに抑えて、2台目のバイクを買いたいとか、高いガンプラを買いたい、5000円のアルティメットニッパーを買いたい、という人が増えるのは当然の流れである。

さらにいえば、生活全般の出費のバランスを取りたいという人も多い。

日々の食料品、インテリア、日常雑貨品、消耗品、趣味の品、いずれも等分に使いたい、どれか一項目だけの出費を突出させたくないというバランス重視の人も数多い。

当方の同年配業界人が学生時代に、「高いあの服」を買うために食費を1日300円に切り詰めて金を貯めたというような生活をしたいと思っている人は年々減っていると感じる。

これも社会の成熟化といえる。

 

逆に、ファッションに出費を惜しまない人は、ファッションが趣味の数寄者、マニアの類であるといえる。ガンプラマニア、バイクマニア、釣りマニアなどと当方は同列視している。

 

バブル期から2000年前半くらいまで、メディアや世論は「収入が少ないのに高額ブランド品をやたらと欲しがる日本人は遅れている。収入が少ない人は高額ブランドを欲しがらないヨーロッパは成熟化している」と散々褒めちぎってきた。

そして、2005年以降、日本人もどんどん成熟化してきて、ついには身の丈相応の衣料品を買う人がほとんどとなった。また、服にだけ出費を突出させるのではなく、他項目の出費とのバランスを取る人も多くなった。当時メディアや世論が理想としたヨーロッパ並みの成熟社会になったのだから、もっと喜ぶべきではないか。(笑)

コロナショック以降様々な新規ブランドが始まってはすぐさま消えている。そのどれもが当方には全く記憶に残らない薄さしかない。売れなかったからすぐさま消えるのだが、多くの消費者も「ファッションのナンタラカンタラが」とか「大人の女性のおしゃれな〇〇」とかいう打ち出しにはほとんど興味が持てないのだろうと思う。

だから、アニメコラボ、漫画コラボなどが増える。漫画やアニメの方が消費者はファッション性の打ち出しよりも興味を持ちやすい。この辺りはファッションへの渇望の緩和が顕著に表れているといえる。

 

これらを踏まえたうえで、それでも売れる商品、売れる方法というのをマス向けブランドは考えるのが最も効率的だろう。

当方も含めてマス層の人にとっては衣料品だけが出費の特別な対象ではなく、生活全般での出費を考えなくてはならないのだから。

 

 

憎むべき転売ヤーによって値段を吊り上げられた高いガンプラをどうぞ~

この記事をSNSでシェア
 comment
  • とおりすがりのオッサン より: 2022/01/18(火) 1:58 PM

    MA-1が流行った時に中学生だった私は、本物と違うけど安いからとパチもんをアメ横の中田商店で買ってました。その後、19歳くらいでやっとアルファのMA-1を買えましたw
    しかし、あの頃のパチもんはホントに安っぽかったっすね。とくにOD(オリーブドラブ、くすんだグリーン)の色合いは全く違うので、パチもんは黒を買って本物はOD買いました。ちなみに自衛隊の作業服もODでしたが、官給品と部隊内の売店で売ってるのとではこれまた色が違っていたりしました。布地を同じ色にするのは色々と難しそうっすね。

  • BOCONON より: 2022/01/18(火) 5:46 PM

    MA-1 の OD もそうだし、カーキ色とかグリーン系のアウターはおよそ安いものはひどく安っぽい色合いのものが今でも少なくない気がする。僕が去年しまむらで買った MA-1 もヒドかったので2,3回着て捨てたのだけれど,今年は案外良かったので買い直しました。ユニクロの今期の MA-1 風ジャケットはオリーブ色のものも確かに割と落ち着いた色味で良かった。あるいはリサイクルダウンジャケットというのもいい感じでした(リサイクルって割に少し高いのはおかしな気もしましたが)。

    とは言え南さんには申し訳ないが僕にはいまだ「ユニクロは発色が良くない」って印象はどうも払拭し切れていない。去年も売っていて大量に売れ残っていたバブァーのパチモンみた様なユーティリティジャケットとかいうのも,今年も非常に安っぽい色使いだった。正直「こんなもの,MBクン御推奨とは言え誰が買うんだか」と思いました。ハイブリッドダウンパーカというのも,オリーブはどうにも推奨しかねる。ダウンも黒ならハズレもないだろうと思うと,これも先日女子高校生たちが電車の中で「陰キャってたいていダウンジャケット着てるよねーw」「そうそう、それもたいてい黒w」なんて笑っていたようなもので
    ・・・いや,そんな事が言いたいのではなかった。

    「南さんの今回のお話,否定はしないけど自身もおっしゃっている通り “格段にこだわりのない人” 限定ならばの話で,個人的にはそういう人ばかりではつまらないし,そういう人ばかりでは日本は当分不景気なままだろう」と要らん事を僕はどうしても思ってしまう,という話であります。

    ところで,またも要らん事を思い出した。バブル時代「”フランス人女性は普通のただのOLがヴィトンのバッグ持って歩いたりしない” というのがウソなのは実際パリ行けば誰でもわかるのに」と誰かが言ってましたな。だからなんだというのでもないですがw

Message

CAPTCHA


南充浩 オフィシャルブログ

南充浩 オフィシャルブログ