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南充浩 オフィシャルブログ

国内アパレル企業の商品廃棄が世間のイメージよりも格段に少ない理由

2022年1月17日 トレンド 0

海外(主に欧米諸国)でのアパレル商品廃棄が問題になるたび、メディアや一部のコンサルからは「我が国のアパレルもー」という論調が煽り気味に流布されるのだが、統計と当方の肌感覚では国内アパレルの商品廃棄は、15年前や20年前はどうだったかわからないが、2008年のリーマンショックを契機に激減したと感じる。

以前にもご紹介した環境省の2020年の統計データを再掲する。

「手放された衣類」大半は家庭から 環境省報告 | 繊研新聞 (senken.co.jp)

環境省が20年のファッション産業の環境負荷についての調査結果を発表した。注目すべきは廃棄された全衣類のうち、企業など事業所から出たものは2.7%である点だ。

報告によると20年の「手放された衣類」は78.7万トン。このうち家庭からは75.1万トンと大半を占め、ごみとして廃棄(焼却・埋め立て)されたのは49.6万トン(構成比66%)を占めた。リユースが15万トン、リサイクルが10.4万トン。

一方、企業など事業者から手放された衣類は3.6万トン廃棄が1.4万トンで廃棄量全体の2.7%ということになる。リユースは0.4万トン、リサイクルは1.9万トン。手放されたもののうち半分以上がリサイクルされている。

とある。

お分かりだろうか?事業者からの廃棄はわずか2・7%しかない。

どうしてこういうことになるのかというと、これは業界や業界メディアの人間が声を大にして、本来ならアピールする必要があるのだが、我が国業界には、すでに売れ残り品を処分販売する業界インフラが非常に整備されているからである。なぜ、業界人や業界メディアがこれを言わないのか不思議でならない。

処分インフラを順を追って見て行こう。

まずは夏・冬のバーゲンである。

これの説明は不要だろう。

そして、夏・冬のバーゲンで売れ残った物は、通常は年に数回開催されるファミリーセールでさらに値下げされて販売される。

ファミリーセールとはもともと従業員とその家族と関係者向けという販売機会だが、今では登録していれば誰でも案内が来て入ることができる。某社なんて道端でファミリーセール入場券を配布していたこともある。

ファミリーセールと並行して行われるのが百貨店・ファッションビル・ショッピングモールなど商業施設での期間限定催事である。これも年に何回か行われる。

百貨店の8~10階には催事場と呼ばれるポップアップ専用のスペースがあり、1週間から1か月間の期間限定販売が途切れることなく行われている。ここにアパレル在庫処分品も年に何度か出品され1000円均一とか3000円均一で販売される。

ファッションビル、ショッピングモールも同様だ。高層階ではないが、催事スペースがあって期間限定で年に何度か安売りポップアップがある。

WEBの普及であらたに加わったのが、ネット通販での在庫処分販売である。これはほとんどのアパレルが行っている。3年くらい前の商品を大幅値下げしてずっと掲示している企業サイトも珍しくない。当方がアダストリアのドットエスティでほぼ毎月買っているのはこの手の安売り商品で、3年くらい前の商品も普通に大幅値引きで掲示されている。

そして、アウトレットストアである。これは2000年くらいからアウトレットモールとして全国に広まった。利用された人も多いだろう。

一部業界人と一部コンサルは新業態としてオフプライスストアを異様に押しているが、狙いとは相違してほとんど広がっていない。当方は彼らが期待するようなアメリカほどの広がりにはならないだろうと冷ややかに見ている。

最後にそれでも残った物は、在庫処分屋に格安で払い下げる。メディアへの露出度でいえばショーイチあたりが最もメジャーだろう。

在庫処分屋に払い下げれば、アパレル企業としてはもう手を離れてしまう。

 

事業者からの廃棄が、世間のイメージよりも格段に低い理由は、リーマンショック以降、アパレル企業・アパレル流通企業の企業体力が顕著に低下したからである。要するに金が無い。

多くの人がいまだに誤解したままだと感じられることが、商品を廃棄するには金を支払う必要があるという点である。

近所のオッサンが落ち葉を集めて庭で焚火をするような手軽な物ではない。

産廃業者に依頼して、わざわざ高い金を払って捨てるのである。その額は何百万円、何千万円にも上る。

リーマンショックとコロナ禍で痛めつけられたアパレル企業にそんな余分なカネを支払う余裕はない。例え10万円・20万円でも在庫処分業者に買い取ってもらった方が助かる。

そして付け加えるなら、仮にリーマンショック、コロナ禍が無かったとしても国内アパレルに廃棄する余裕はそれほど無かったと考えられる。なぜなら、基本的にアパレルの営業利益率は高くないからだ。

例えば、比較的好調だったアダストリアの2022年2月期第三四半期決算を例にだすと、

 

売上高は1467億3100万円(対前期比10・5%増)

営業利益は44億8300万円(同304・6%増)

 

である。

一見すると非常に好調に見えるが、営業利益率はわずか3%しかない。基本的に国内アパレル企業の営業利益率は1%~5%程度しかない。10%前後あるファーストリテイリングが飛びぬけて利益率が高い。

好調なアダストリアですら3%しかないとなると、それ以下や赤字のアパレル企業はなおさら捨てることはできない。

逆に捨てやすいのは粗利率・営業利益率の高い高額ブランド・ラグジュアリーブランドである。

欧州の各ラグジュアリーブランドの営業利益率は30~40%程度ある。となると金を払って捨てても惜しくはない。さらに言うなら、捨てることでセールをせずに済みブランドステイタスが維持できる。

アパレル廃棄問題の契機となった報道を思い返してもらいたい。バーバリーだったはずだ。バーバリーはラグジュアリーブランドの一つである。そこからH&Mへ飛び火した。なぜ契機がバーバリーだったのかを重視する必要があるだろう。

 

ではなぜ、国内アパレルは「売れ残りを捨てている」という構図が根付いてしまったのか。

当方はこれを某著名コンサルタントのミスリードだと見ている。

コロナ禍以前「国内アパレルの定価販売は半分くらい」だと盛んに指摘された。しかし、日本語は正しく理解しなくてはならない。

 

定価販売が半分であることと売れ残った半分を捨てているというのはイコールではない。

 

残った半分は値引き販売を繰り返された結果、それでも残れば在庫処分屋へ払い下げられるのである。定価では半分売れ残ったからと言って、それをすぐに捨てるかのように吹聴したことは、明らかにミスリードである。

それはポジショントークだったのかPV数稼ぎの煽りだったのかはわからないが、極めて私欲にまみれていたとしか思えない。

 

世界初の「衣服廃棄禁止令」がアパレルに迫る変革 | お金が集まる・逃げるSDGs | お金が集まる・逃げるSDGs | 週刊東洋経済プラス (toyokeizai.net)

 

この記事ではフランスで法律が発令されたことを例に挙げて、我が国企業への危惧をまとめているが、例に出されているのは好調なアダストリアであり、いささか杞憂が強すぎるのではないかと思う。

それよりもなぜフランスで発令されたかだが、まずは欧州特有の鼻持ちならないイシキタカイ系ということもあるだろうが、それよりもラグジュアリーブランドの本場であるということの方が大きいのではないかと思う。

ラグジュアリーブランドが数ある欧州の中でもルイ・ヴィトンやエルメスを擁するフランスは頭抜けたラグジュアリー大国だといえる。そして、営業利益率の異様な高さから見ると、最も廃棄が容易であるのは各ラグジュアリーブランドだからだ。

 

こうした背景を伝えずに危機感を煽るばかりの業界メディアやコンサルは、却って産業にダメージを与えているとしか思えない。在庫処分経路についての情報開示と拡散は業界人にとっては必要な自衛手段である。

 

 

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